少人数チームでも効果大!レトロスペクティブで素早いチームづくり
今回はGLASSテクノロジー部で採用しているスクラム開発とその中で実施しているレトロスペクティブについて紹介します。
GLASSテクノロジー部発足
まずは背景として、GLASSのテクノロジー部について軽くご紹介します。
GLASSはマーケティング会社ですが、テクノロジーによるマーケティングのさらなる強化を目的として、2023年3月に新部署のテクノロジー部を設立しました。翌4月にはWebデザイナー兼フロントエンジニア(以下デザイナー)が1名入社して、私(森)と2名体制で現在活動しています。
できたばかりの部署なのでルールや環境の整備が急務なのですが、正直、部署づくりは初めてなので何から始めたものか暗中模索でした。ただ、スクラムマスターの経験はあったので、まずは「守破離」の「守」。
スクラム開発の基本的なイベントを実施するところから始めました。
レトロスペクティブとは
具体的な話の前に少し基本的なスクラム開発とレトロスペクティブについて説明しておきます(ご存じの方は読み飛ばして下さい)。
スクラム開発って?
スクラム開発ではスプリントと呼ばれる一定の期間で、「計画」「レビュー」「レトロスペクティブ」を実施します。GLASSではスプリント期間を2週間と定めて開始しました。
「計画」はスプリントの最初に行います。プロダクトオーナーから提示された要件を理解し、スプリント期間の作業見積を行います。
一方「レビュー」はスプリントの最後に行い、作業の結果できたプロダクトをプロダクトオーナーに対して確認してもらうイベントです。デモを交えながら動くものを見てもらうことが多いです。
そして、今回テーマに挙げた「レトロスペクティブ」です。日本語では「ふりかえり」と呼ばれることもあります。レビューと似ている表現に感じますが、レビューは「プロダクト」の確認をするのに対して、レトロスペクティブは「チーム」の課題を発見、解決する工程です。
レトロスペクティブはチーム成長の鍵
良いプロダクトを作るにはメンバーがチームとしていかに同じゴールに向かって一丸となって動けるかが重要だと思います。この「チームとして動く」を最大効率化していくこと、そして自発的にチーム内の課題を解決し自己組織化していくことがチーム成長だと考えています。
チーム内の課題は、心理的なもの(チームの不和など)から技術的なもの(不十分な開発環境)まで多様です。例えば、コミュニケーションの円滑化、プロジェクト内情報の整理、開発プロセスの見直し、開発インフラのアップデートなどでしょうか。
個々の成長は1:1や目標管理のOKRなどで促進できますが、チームの成長はこのレトロスペクティブを置いて他にあまり機会がなく重要だと思います。
またプロダクトに目が向きがちなメンバーの目をチームに向けさせることでチーム、あるいは組織ひいては会社として目指したい方向性を揃えていくことができると思っています。
レトロスペクティブの準備
レトロスペクティブの重要性をお話してきましたが、ここからはGLASSでのレトロスペクティブの実際を紹介します。まずは実施前の準備についてです。
スムーズな進行にアジェンダは大事
GLASSではレトロスペクティブ用のアジェンダをGoogle Documentで用意するようにしています。アジェンダづくりは以下の点でとても重要だと思っています。
【タイムキープ】
当日、ファシリテーターは進行をしつつ、議論にも参加するので、タイムキープが甘くなりがちです。先にこのアクティビティにはx分、さらにはアクティビティ内の説明にはx分、検討時間にはx分、発表にはx分など細かく設定するようにしています。
【アクティビティの準備】
当日の実施内容を洗い出すことで、用意しておくべきものが明らかになります。
GLASSはフルリモートの会社なので、オンラインでレトロスペクティブを実施しています。そのため、ホワイトボードサービス内に事前にテンプレートを用意しておくのも良いかと思います。
ただ、最近はアクティビティの説明後にその場でメンバーに手伝ってもらって、枠線を引いたり、アイコンをつけたりしています。メンバーの参加意識が高まると思うので、これもよいかなと思っています。
【会議のファシリテーション訓練】
レトロスペクティブは積極的な課題解決の場です。アジェンダを作成する時点で「この内容で課題解決の場になりそうか?」を考えることが大事だと思っています。例えば、課題解決を行うために重要な会議のポイントは以下のようなものがあると思います。
会議の目的は何か
十分な意見を出せるようにするにはどうしたらいいか
このアジェンダで結論に着地できそうか
実施後のアクションまで決められているか
ポジティブな気持ちで会議に参加、または会議を終了できるか
これらは社内外の他の会議でも求められるものです。レトロスペクティブのよくある構成やアクティビティにはこれらの要素が盛り込まれていることが多く、他の会議のエッセンスとして流用することができます。
実際、GLASSではクロージングによく使われる、メンバーへの感謝を述べる「感謝のアクティビティ」(=ポジティブな気持ちで会議を終了する)を社内定例に採用したりしています。
レトロスペクティブのステップ
ここでは実際のレトロスペクティブをどのように進行しているかを紹介します。
オンラインレトロスペクティブでの使用ツール
フルリモートのGLASSではオンラインのレトロスペクティブツールとして、oViceというバーチャルオフィスシステムのテレビ会議機能と、figjamというホワイトボードツールを使っています。figjamは付箋などのホワイトボード機能だけではなく、タイマーやBGMの機能がついていてレトロスペクティブで使いやすくオススメです。
以前の会社ではオフラインで実施していましたが、大きな違いは感じていません。むしろホワイトボードを注視しながら進める場面が多いので、問題が人より課題に向かって「誰かのせい」のような不毛な議論になりにくいのは利点だと思っています。ただ、お菓子を持ち寄って気楽な雰囲気を演出する手段が取れないのが残念です。今後、ほかの方法で改善していきたい点です。
参加メンバー
参加メンバーはテクノロジー部2名で行うこともありますが、そのスプリントで関係が多かった社内の他メンバーを呼んで3名で行うこともあります。
レトロスペクティブの流れ
レトロスペクティブの流れは今のところ以下で固定しています。2~3人の参加者なので1時間で実施していますが、ちょっと窮屈かもしれません。1時間半くらいあるとベターかなぁと最近は思っています。
マインドセット
課題の収集
課題の決定
解決策の検討
解決策のアクションアイテム化
クロージング
それぞれのステップで何か1つアクティビティを実施します。アクティビティの内容は毎回変えながら色々試していますが、私が気に入っているものをいくつか紹介します。
1.マインドセット
色々試していますが、分類するなら以下の2パターンです。
【アイスブレイク】おすすめ度:⭐️⭐️⭐️
何かポジティブな発言が出るようなテーマで話してもらいます。
1~2分の時間で各自付箋にテーマに対する自分の回答を書きます。
1人1分で内容を発表します。
発表中は適度な相槌程度で傾聴を心がけます。私は話したがり屋なので頑張って発言を抑えています。発表後は拍手で発表したことを賞賛しつつ、少しメンバーからコメントをもらったりします。
目的としては「自分の想いを素直に話しても良いという雰囲気作り」「人の話を聴くための準備運動」といったところです。
例えば、「最近あったいいことは何ですか?」など気軽な質問をテーマにしています。
【会議のルール】おすすめ度:⭐️⭐️
事前に準備したレトロスペクティブに臨む姿勢に関係するルールを読んだり、考えたり、説明したりして各々の頭に再インプットしてもらいます。
事前に準備したルールのテキストを1人ずつ順番に音読する
または、そのルールに対して自分の思う重要性などを1分程度で付箋に書き、順番に1分程度で発表する
私が高校時代にやっていた弓道に「道場箴規(どうじょうしんき)」というものがありました。道場での心構えを列挙したもので、練習前に必ず全員で音読して気を引き締めるというプロセスがありました。
同じようにレトロスペクティブ前に気を付けることを読み上げ、意識づけをします。
読み上げるルールはWebで検索した「良い会議のポイント」や「ブレインストーミングのルール」などに含まれる「アイデアを批判・否定をしない」「変わったアイデアを歓迎する」などです。
議題の収集
マインドセットが終わったら本題に入ります。メンバーに、直近で課題に感じていることなどを書き出してもらいます。以下のようないくつかの切り口で意見を出してもらいます。
【KPT】おすすめ度:⭐️⭐️
Keep(続けたいこと)/Problem(課題)/Try(やってみたいこと)の3つの切り口でメンバーの意見を書き出す有名なアクティビティです。
【Fun/Deliver/Learn】おすすめ度:⭐️
KPTの切り口をFun(楽しかったこと)/Deliver(できたもの)/Learn(学んだこと)に変えたイメージです。
【タイムライン】おすすめ度:⭐️⭐️⭐️
横軸を時間の流れ、縦軸を感情のポジティブ/ネガティブに設定して2週間の出来事を書き出します。時系列で振り返りながら進められるので出来事を思い出しやすいです。
亜種として出来事の時系列を時間軸だけの1次元にして、出来事に対する感情を細かく書き出すパターンも試しましたが、前述の感情を縦軸にするパターンの方が単純でやりやすかったです。
【スターフィッシュ】おすすめ度:⭐️⭐️
KEEP/MORE/LESS/STOP/STARTの切り口で意見を出します。
KPTやFun/Done/Learnと違って、LESS,STOPの「減らす」「辞める」意見が出るのが特徴です。スプリントが進んできてチームでやることが増えてきているときに使うと良いアクティビティだと思います。
課題の決定
挙げられた課題に対して、特に今回議論を行うものを決定します。
【ドット投票】おすすめ度: ⭐️⭐️⭐️
1人6票(6ドット)を持ち、より解決したいと思う課題から順に3票、2票、1票を投票します。分かりやすいので一番よく使います。以前の会社でもこれが一番しっくりくるので、こればかりやっています。ただマンネリ化するので時々、他のアクティビティを試すくらいのスタンスです。
【重要度と緊急度】おすすめ度:⭐️⭐
需要度と緊急度の2軸で課題を分類し、より重要かつ緊急のものを課題とします。
解決策の検討
課題の決定で抽出された課題に対して解決策を考えます。
【555(Triple Nickels)】おすすめ度: ⭐️⭐️⭐️
これも鉄板です。名前から内容が想像つきづらいですが、以下のようなものです。
5人程度のメンバーで行います。
課題の決定で抽出された課題5つ(=人数分)を対象とします。
それぞれに1つ最初の課題が割り当てられます。
解決アイデアで5分間で考えて書き出します。
時間になったら隣の人が考えていた課題とそのアイデアを受け取ります。
また5分間で新しいアイデアや賛同コメントなどを追記します
GLASSでは2~3人で行うので、課題も2~3個を対象に時間も3分程度でコンパクトに実施しています。
【5つのWHY】おすすめ度:⭐️
トヨタ式「5回のなぜ」が有名です。表層の原因からそれが起きた潜在的な原因を深掘りしていきます。5階層までいかないとダメということはなく、原因の原因を考えよう、という意識をもって心理面やシステム面など多くの切り口から原因を考えるのに役立ちます。
解決策のアクションアイテム化
GLASSでは出た解決アイデアを実行に移すため、次のスプリントで解決のアクションを行うようにしています。レトロスペクティブでアイデアが出たらすぐに「チーム改善」バックログとしてタスクシステムに登録します。
粒度が大きすぎる改善は実行が難しいため、足がかりでも構わないので、小さくても最初の一歩になるような改善に落とし込んでバックログ化します。
GLASSではスプリント計画の際、予定タスクの3割はバッファとして、突発依頼の対応やこういった「チーム改善」バックログに当てられるようにしています。
クロージング
ポジティブな気持ちでレトロを終えられるように、短いアクティビティを行います。
【感謝】おすすめ度:⭐️⭐️⭐️
このアクティビティが一番好きです。
1分程度でチームメンバーへの感謝を書き出します。
順番に発表します。感謝を伝えられたメンバーは謙遜せずに受け入れます。
感謝を伝えることが大切だと分かりながらも、忙しい日々の業務の中でそれを実践することは言うほど簡単ではないと思います。落ち着いた時間を設けて周囲への感謝を思い出す良いアクティビティだと思います。
GLASSでは前述の通り、この活動を会社全体に展開したところ会社の定例会議に採用しています。
【楽しみにしてること】おすすめ度:⭐️⭐️
業務でもプライベートでも構いません。明るい未来の話をすることで前向きになりますし、「この間話していたxxは楽しかったですか?」のようなコミュニケーションのきっかけにもなります。
【このスプリントを終えての感想】おすすめ度:⭐️
リリース後などキリがいいタイミングでの実施がおすすめです。お互いの努力とチームの成果を称えつつ、次の目標に向けての感想などを発表します。
レトロスペクティブを最大限に活用するためのポイント
心の中の安全地帯:心理的安全性の確保
色々とアクティビティを説明してきましたが、アクティビティを実行するうえで共通して言えることは「積極的に参加してもらうこと」「話してもらうこと」です。
とにかく問題だと思っている課題や、ネガティヴな感情になった瞬間などについても正直に吐き出してもらうことが必要です。そのためには批判・避難されない「心理的安全性」を確保し、遠慮なく発言できる雰囲気作りが最重要です。
リスクなのは責められることで問題を隠してしまうことだと思います。そうなるといつまでも問題が表面化せず、成長も止まってしまいます。
雰囲気作りとBGM
BGMでかなり雰囲気は変わります。各自黙々と考える場面でタイプ音だけが響いているのは意外と緊張感があります。落ち着いたBGMをかけて意見を出しやすい環境を作るのが大事です。
GLASSではfigjamを使っているのでデフォルトでついている音楽をかけていますが、6パターンしかないのでそろそろ自前で用意しようかとも思います。
チームの課題としてのアプローチ
出てくる課題は全てチームの課題として捉えるべきだと思っています。「それは個人の問題でしょう」とか「私には関係ない」と思う人がいるとその課題はいつまでも解決しません。一見、個人の問題に見えるとしても「仲間として協力してできることは何か?」という視点で考えると何かできることが出てくるかもしれません。
「心理的安全性」が確保されて意見を批判されないとしても、メンバーが無関心であれば「言っても無駄だ」となってしまい、こちらも問題が見えなくなってしまいます。
現在のチームはエンジニアとデザイナーなので、職域上、直接協力することができない課題も実際にはあります。例えばその場合でも、メンバーがその課題の解決に注力できるよう、職域を問わない別の課題を肩代わりして、間接的に協力するなどのアプローチをとっています。
レトロスペクティブが組織づくりにもたらすメリット
チームの文化としてのレトロスペクティブ
組織を作ってすぐにスクラムやレトロスペクティブに取り組んでよかったことは、チームの雰囲気作りに非常に役に立ったということです。
レトロスペクティブで重視される話しやすい雰囲気作りや積極的な意見を求めるスタンスがそのまま日々の業務でも活用されています。
例えば、1on1や社内の定例会議でも同じような雰囲気で「人の発言を傾聴する」ことを意識しますし、デイリースクラムでも少しアイスブレイクから入るなど、コミュニケーションのしやすさに気を付ける姿勢が生まれていると思います。
組織のルール作り
スクラムの基本的なイベントを実施する、ということ以外は余り決めずにスピード重視でスクラムをはじめました。2人しかいませんし、準備ばかりしていても進まないので、走りながらチームの形を作っていこうというスタンスです。
チームのルール作りは、議論しなくても自然と合意できるものもあれば、前職までの背景が異なり、すり合わせが必要なものもあります。何がチームに足りないかはやってみないとわからないなと思います。
例えば、
Gitのブランチ運用ルール
バックログの管理方法
コードレビューやプルリクエストのルール
スプリント計画やスプリントレビューで確認する内容
などは、とりあえず決めた方法でやってみてレトロスペクティブでふりかえりながら徐々に調整していきました。結果的には早期に現在のチームメンバーに最もなじむ方法に落ち着くことができて良かったと思っています。
自己組織化の展開
レトロスペクティブを通して経験する「最も解決すべき課題を探す」「チームの課題を自身の課題としてとらえる」「小さくても次のアクションを用意する」などの行動はレトロスペクティブ以外の場面でも役に立ちます。
2週間に一度レトロスペクティブでこれらを経験することで、普段から課題を見つけて解決しようとする行動、組織に貢献しようとする行動、着実に前進する行動をとる風土がすこしずつ出来つつあると思っています。
まだまだ「自己組織化できました」というほど組織が出来上がっていませんが、目指すべき組織の形はメンバーの中で共有意識を持つことができるようになってきているのではと思っています。
最後に
GLASSでのスクラム開発、特にレトロスペクティブの取り組みについて紹介いたしました。少人数であってもレトロスペクティブは実践してよかったなと思っていますし、組織を作るうえでの風土の醸成にも役立っていると感じています。
この記事が少人数でスクラム開発を試すか悩んでいる方や、今スクラム開発をしていて他社でのレトロスペクティブ事例を知りたい方に役立てば嬉しいです。
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