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短編集、順から読むか?気になるのから読むか?【日本SFの臨界点[恋愛編]感想】

SFの何たるかがわからないのに臨界点とは、と思いつつ話題の本は読んでみたくなるもの。日本SFの臨界点[恋愛編]/伴名練=編/ハヤカワ文庫JA。読み終わりました。

はっきり言うと、表紙買いの部分も大きい。もちろん、前評判も高くて面白いって声が多かったのもありますが。なんか、こう、良いですよねシンプルな表紙だけどデザイン性高くて。女の子も可愛いし。表紙が女の子だと買っちゃいますよね。

若干邪な理由で買ったものの、内容的に大満足な短編集で、特に気に入った短編の感想を挙げたいと思います。

奇跡の石/藤田雅矢

主人公はとある企業の「エスパー研究所」なる奇妙な部署で働いているサラリマン。東欧の小国の町に超能力者がいるというので調査に向かい、そこで不思議な能力を持つ姉妹と出会う……といったストーリー。自分が思っているSFとはイメージとかけ離れた、牧歌的で穏やかな街の雰囲気が文章。童話のような自然や町の情景が浮かんでくる文体で、読んでいて心が落ち着く不思議な作品。パンの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。

劇画・セカイ系/大樹連司

『怪獣黙示録』の作者の短編ということで、これが読みたかったのが購入の一要因。
世界を救うために宇宙へ飛び立ったヒロインと、残された少年の後日談。時は流れ、少年は売れないアラサーラノベ作家となり、ヒロインとは別の女性を好きになり、あまつさえその女性のヒモになってる状態。そんな中、文字通り世界を救って十数年ぶりに地球に戻ってきたヒロインと再会してしまう。
セカイ系ボーイミーツガールラノベに続きがあれば、というメタな視点が織り込まれた短編。セカイ系が好きな人ほど心が抉られる仕様で、私も致命的なダメージを受けました。けれどお話の決着というか、ナヨナヨな主人公も、今の大事なもののために思い出と決別するという男気を見せてくれたので良かったです。いや、ほんとは主人公がなんだかんだで良い境遇なのが羨ましいわ。許さねぇ。
個人的に大樹蓮司さんの文体がすごく好きで読みやすかった。

アトラクタの奏でる音楽/扇智史

ストリートミュージシャンの鳴佳(なるか)と、彼女の音楽に惹かれた京大工学部の待理(まつり)のガールミーツガール。百合SF短編。待理が持ち掛けたある実験を通して、縮まったり離れたりする二人の距離。そのもどかしさに、床をのたうち回ること間違いなし。実際、私もあまりの物語の「ピュアさ」に唸りながら床をゴロゴロしてました。顔もだいぶニヤニヤしてしまい、気持ち悪かったと思います。でも、それくらい良い作品でした。これが読めただけでもこの本を買った価値があったと言ってもいいくらいです。
SF要素も今より発達したAR技術、というのも現実離れしすぎてなくてイメージしやすかった。

月を買った御婦人/新城カズマ

舞台は十九世紀のメキシコ帝国。とある令嬢が、婚姻を迫る5人の男に〈月〉を持ってきてと難題を要求することから物語が始まる。竹取物語のアレンジ版。乙女心が分からない愚かな文明(男たち)への皮肉がたっぷり込められている作品。語り部が令嬢にいつも付き従っている侍女なところから、どこか童話的な雰囲気を感じる。幕引きも童話というかおとぎ話のような終わり方で、とても面白かったです。

おわり

百合作品から百合SF、そしてSFと食指が伸びていってどんどん読書の幅が広がっていく今日この頃。SF作品はなにかとKindleでセールが多くて、評判のものはつい買ってしまうように。
編者の伴名さん曰く、まだまだ出したいアンソロがたくさんあるとのことなので今から楽しみです。[怪奇編]も買ってあるので近いうちに読みます。

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大体わかった(全然わかってない顔)

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