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月さがし 【エッセイ】

今回は、エッセイです。大学での話。

 1日が終わる。
 夜、キャンパスを出るまでの中庭で、私は今日も、まちの中に月を見つける。足元は、まるで雲を歩くみたいだった。芝生が、ふわふわしている。

 大学のキャンパスは、高層ビルが立ち並ぶまちのなかにある。
 授業が終わってからも、私は図書館に行ったり、製図室に残っていたりすることが多い。だから、帰りの時間になると、あたりはもう真っ暗だ。
 キャンパスの中庭は、まちにぽっかりと穴を空けている。そこからは、となりのビルに月が映るのがよく見える。とくに満月の日、窓ガラスの上でぼんやりと光る月が、街灯のオレンジ色に映えるのだ。

 それから、私は空を仰いで、ほんものをさがす。
 これが意外と難しくて、大抵の場合は、すぐ「そこだ」というようには見つけられない。例えば、もうすぐ春だけど、「ふざけて散っていく桜の花びらを空中でキャッチしようとするけどできない」みたいなもどかしさがある。そんなに難しくはないはずなのに、少し手こずる。だから、私はワクワクするのかもしれない。
  夜のキャンパスで、自分だけの遊びをしているとき、その日1日にあった出来事がすうっと自分の身体に染み込んで、なじんでいく。そんな気がする。

 でも、私の子どもじみた一人遊びは、景色が変わりゆくなかで、失われるかもしれない。
 もうじき中庭に新しい校舎が建つ。だから、よく手入れされた芝生のにおいや、そこで遊ぶ子どもたちの声、ビルに縁取られた都会の大きな空は、気配を隠していく。

 私の気持ちに反して、だんだんと景色は変わっていく。でも、その先の景色に責任をとる人はきっといない。だからこそ、私は、そこになにかずっと変わらないものを探しているかもしれない。

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