ポチポチ能力者!
麻薬で捕まった漫画家のことで、友達と軽く口論になる。
軽くね。
そんなに激しくないやつ。
私はその漫画家の作品を読んでて、どうやったらこんな話が書けるのか、こんな奇抜な絵が描けるのか、いつも不思議で、それが面白くて、ファンだったのだけど、実は麻薬なんかをやってたことがわかって、私は心底、ガッカリだったのだ。
だって、麻薬って、ズルじゃんね。
麻薬なんかの力を借りて、面白い漫画を描くなんて、例えるなら、チートを使ってゲームをプレイするようなもので、そんなので勝っても嬉しくないし、自分以外の力に頼るなんて、そんなの恥ずかしいと思うのだ。
だから、それを、私は友達に伝えた。
友達とは、クラスメイトのアユニちゃん。
そしたら、そのアユニちゃんは、意外なことを言ったのだ。
「漫画が面白いなら、それで良くない?」
それを聞いて、私は驚いた。
本当に。
だって麻薬だよ?
「どうしてそう思うの?」
私は訊く。
「だって、麻薬は能力を増やしてくれるんじゃないの?」
能力を増やす?
「いや、それがズルだって思うんだけど」
「なんでズルなの?」
「だって、自分の力じゃないでしょ」
「自分の力……でも、例えば野球選手はバットとかグローブとか使うでしょ?」
「いや、それはルールだからで、私が言いたいのは、麻薬はルールの外のもので、だからズルいってこと」
「え、だって、漫画はエンタメでしょ?面白くないといけないんでしょ?なら、別に、麻薬とかも、アリだと思うけど」
漫画はエンタメ?
面白ければアリ?
「………」
私は途方にくれてしまう。
私がこの漫画を好きだった理由は、エンタメだから、面白いから、というのもあるけど、でも、それだけではないのだ。
うまく言えないけど、漫画家としての才能とか、作者さんの世界観とか、なんかそういうスゴいものを崇めるような気持ちで、特別に好きだったのだ。
だから、それが麻薬によるものとされてしまうと、なんか残念というか、悔しいのだ。
裏切られた気がして。
ガッカリしているのだ。
私は。
でも、それはきっと、アユニちゃんには伝わらないものなのだと、私は思う。
だって、アユニちゃんにとって、漫画はエンタメ、面白ければ、それでいいのだ。
それだけのもの。
面白いだけ。
私は諦める。
負けた気持ちになる。
でも、何に対して負けたんだろう、と考えると、なんか腹が立ってくる。
私は負けたのか?
この女の子に?
つまらない女子に?
ふざけんなよ。
私は言う。
「アユニちゃん、クスリとかやりそう」
えっ、というアユニちゃんの顔。
「何言ってんの?」
アユニちゃんは笑うが、私はもういいやと思い、今度こそ、話をやめる。
私は放課後の教室から立ち去る。
アユニちゃんとは、漫画で友達になった。
私はもう好きではないけど、ワンピース。
当時、友達になりたての頃、私たちは小学生で、なんかゴムゴムの実とか、能力者とか、面白かったのだ。
でもそのうち、物語の展開や、戦いが、仕方ないけど、そのなんとかの実による能力頼りになることに私は飽きてきて、読まなくなった。
私が読みたいのは、能力による都合の良いバトルではないのだ。
ゴムゴムの実とか、能力者とか、そんなのはただの麻薬だろう。
ご都合主義のチート能力。
私はそんなものでは感動しないのだ。
でも、そんな私がまだ思い出すのは、アユニちゃんと仲良かった頃、二人でしゃべってたら、急にアユニちゃんが、
「私はアユニ・D・ルフィ!」
とか言って、色んな技だのポーズだのを決めはじめて、私は爆笑で、なんでDなのかと言えば、それはルフィの本名がモンキー・D・ルフィだからなのだけど、そのDの意味はよくわからなかったし、意味不明で、それがアユニというかわいい名前に付け加えられたことで、なんか余計に滑稽で、私は笑いすぎて死にそうになった。
それを思い出して、また私は一人でふふんと笑うのだけど、それは、いまだにアニメだの能力者だのワンピースだのといった、下らない夢から覚めないアユニちゃんを嗤う気持ちもあって、でも、そんなものだと、また私は思う。
どうせ、私があの漫画家に抱いてた気持ちは、誰にもわからない。
エンタメ、面白いを越えた、と思っていた私だけのこの気持ちは、きっと麻薬の気持ち良さによって、消滅してしまうだろう。
だから誰にも届かない。
だから決して、ズルじゃない。
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