背中に恐怖感。
私の知人に、齋藤彰という人がいる。
声が高くて背が低い、元ヤン土方系男子。
彼には奥さんがいる。
彼の一重まぶたがそっくりな女性。
彼女がされたことで、齋藤彰は怒っていた。
彼は私に詳細を語るが、私は既にその事を知っていたので、正直彼の熱っぽい話には、上の空だった。
齋藤彰の奥さん、仲井倫子→齋藤倫子は、齋藤彰と結婚式を挙げた初日に、彼の精子を注ぎ込まれて、妊娠していて、丸いお腹を抱えながら横浜市戸塚区の戸塚駅を歩いていたら、急に背中に蹴りを食らい、振り向くけど、駅構内には人がたくさんいたから、誰に蹴られたのかはわからなくて、仕方なくまた歩きだし、自宅に戻り、そこで帰宅を待っていた齋藤彰に指摘され、ようやく、自身が背中に受けたのは蹴りだけではなかったことを知った。
背中にはプリントが貼り付けられていた。
そのプリントには雑な字で「ブス」と書かれていた。
それを見た時に感じた怒りを、齋藤彰は私の目の前でなんとか語ろうとして、でも本人は本も読めない典型的な高卒(バカ)ヤンキーだから、大した話なんかできなくて、私は適当に聞いてるが、でも、齋藤彰が怒りを感じるというのは、理解できた。
だって、齋藤彰は陰口が嫌いなのだ。
陰口を叩いた相手には本気でキレる。
多分、齋藤彰は、陰口を叩く人の気持ちがわからないんだろうと思う。
思ってることを言えばいいと思ってる。
いかにもヤンキー的な幼稚な発想。
まあバカだから仕方ないが。
どうでもいいけど。
でも、自分の奥さんの背中に、ブスと書かれたプリントを貼り付けられて、しかもその奥さん本人は、全くそれに気づかないまま、歩いて家に帰ってきたのだ。
まるでなにかのコントみたい。
うまくいきすぎ。
笑える。
あはは。
なんで私がそれを知ってるのかと言うと、齋藤彰がそのことをツイッターに呟いたからで、私はそれを読んだのだ。
さいとーあきらという名のアカウントで、齋藤彰はこのトラブルについて書いていた。
その呟きはなかなかバズっていた。
無関係な他人による無意味な慰め。
いいねいいねいいねいいね。
それへの齋藤彰の返信。
「ありがとうございます」
これが元ヤンか……?
「そいつのことぶっ飛ばしてやる」
とか言って無意味に凄んでるが、果たしてどうするつもりなのか?
人混みで、誰かもわからないのに?
陰口叩かれた時みたいにはいかないねぇ。
齋藤彰は元ヤンだから、思い当たる人がいるのかな?
結局、あなたが悪いよね、と私は思う。
ツイッターの奴等みたいに同情はしない。
ていうか、できないのだ。
私は。
「警察に行ってくる」
と言って、齋藤彰は立ち去る。
私はなんだか呆気にとられる。
もっと面白くなると思ってたのに。
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