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ああああ

 会社の仕事で、夏なのにスーツを着て、外を歩いてて、目的地を目指してるんだけど、さすがに疲れて、近くに公園があったので、そこで休むことにする。
 公園に目がとまったのは、ベンチがあると思ったからで、奥に目をやると、やはりあった。
 古びたベンチが、ちょうど日かげにある。
 やった。
 僕はそこまで歩いていく。
 ふらふらになりながら。
 空から太陽の光が容赦なく照りつけている。
 僕はやっとの思いで、ベンチにたどり着き、それに座り込み、はぁーっと、一息。
 日かげが涼しい……。
 しばらく、ゆっくりすることにする。
 そうしてベンチに座りながら、周辺をぼんやり見ていると、この真夏日に、みんなよく働いてるなあ、と思う。
 忙しそうに行き交う色んな人たち。
 みんな、頑張ってるんだなあ。
 それが良いことなのかはわからないけど。
 そんなことを考えてると、もう、ここから動きたくないと思ってしまう。
 本当は急がないとヤバいのだけど、でも、いいや。
 こんな暑い日に、スーツを着て、外を歩かないといけないなんて。
 普通におかしいだろ、と僕は思う。
 クールビズとか言ってるけど、どうせそれをやるかどうかは、上の連中が決める。
 それも、別に大して考えてないんだろう。
 どうでもいいのだ、僕なんて。
 僕が感じる、この暑さ、苦しみなんて。
 だから、真夏日にスーツ姿で歩いてるのだ。
 あーあ。
 自分のちっぽけさに思いを馳せながら、ふと足元を見ると、地面に無数のありんこが見えた。
 真夏日の地面に無数のありんこが動いてる。
 なにをしてるのかはわからないが、多分働いてるんだろう。
 僕は見いってしまう。
 へえ。
 なんだか、僕みたいだ。
 僕から見たらありんこなんて虫けらだけど、そんな僕も、上の連中からしたら、同じく虫けらみたいなもんだろう。
 ありんこみたいに働くスーツ姿の僕。
 それを高いところから見下ろしてる奴が、きっといるだろうと僕は思う。
 僕は、ありんこなのだ。
 いつでも踏み潰せるし、指先一つで簡単に消せる。
 僕にとってありんこはそうだし、誰かにとっての僕もそうだろう。
 僕はスマホを取り出す。
 カメラを起動して、枠組みに、足元のありんこを捉える。
 スマホの画面越しのありんこ。
 パシャリ。
 僕のスマホに、画像としてのありんこが残る。
 どうしてこんなことをしたのか?
 それは僕にもわからないが。
 さて、と僕は立ち上がる。
 約束の時間には間に合いそうもない。
 遅刻するだろう。
 怒られるだろう。
 だってありんこだから。
 つまらない奴だから。
 適当だから。
 どうでもいいから。
 それでいいさ。
 僕は、足元のありんこを見て、それをスマホで撮って、なんかもうそれでいいやって気になったのだ。
 つまらない同士、それでいいじゃん、と。
 だってそれが本当のことだし、理由なんかいらないのだ。
 だから、言い訳なんてしないのだ。

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