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60人が探索するサービスデザイン〜金沢美大3年目の挑戦〜

こんにちは。三澤です。

今年で3年目となる、金沢美術工芸大学でのサービスデザインの演習。2019年も始まりました。視覚デザイン、環境デザイン、製品デザインという全デザイン専攻の必須科目として、全15日間。トータルで3ヶ月に渡る期間、もりもりと演習を通して、新しいサービス創出にチャレンジします。

テーマは、「和菓子の新しい食べ方、買い方、関わり方」。

4月はコンセプトづくり:和菓子を知り、体験価値を捉え、最高のアイデアをつくります。茶道体験に、サービスサファリ、和菓子屋さんの訪問調査等、さまざまなデザインリサーチを行いながら、体験のストーリーをつくります。
5月は体験のしくみづくり:体験価値を満たすカスタマージャーニーとエコシステムを徹底的に掘り下げます。協力いただくステークホルダーは?お金の流れは?持続するための仕組みは?など、事業化を見据えてブラッシュアップ。
6月はサービスの提案:これまで考えてきた、すべての要素をサービスとしてとりまとめ、かつ、タッチポイント一つ一つの物をデザインした上で、2分の動画に表現します。サービスブループリントや、エコシステムマップも精緻化し、提案できる体制を整えます。

60名の学生は10チームにわかれ、金沢の和菓子やさんである、柴舟小出さん、浦田甘陽堂さん、中田屋さんにむけて提案します。

まずは、世界のサービスデザインの事例を知ることから。「体験」をつくるさまざまな要素とそれらを再構成していく概念を学んでいきます。

そして、和菓子の世界を知るための大切な茶道体験。和の精神、おもてなしの集大成ともいわれる茶道体験をとおして、精神世界に触れ、金沢の地に根付いた文化と歴史を学びます。

コンセプトをつくる

この授業では、メソッドを体得することを目標とはしていません。もちろん、カスタマージャーニーマップなど、これからのデザインの共通言語となるメソッドをしっかりと体得することは必要ですが、サービスデザインは、メソッドの集合体をこなしていくことではありません。

その時代、その場所に根付く、デザインを企画し提案できるようになるために、「抽象化」によって価値を発見し、「再構成」によって状況へ適応できるしくみを考え、最後は心に訴えかける「具現化」を行うというプロセスを体験します。


そのために、「提供するべき価値は何か?」「ターゲットとする人、シーンはどこなのか?」さまざまな方向から考える体験をしていきます。

体験の中から「価値」を見つけ、「価値」が活きる体験のアイデアを考える。一方で、全感覚で面白いと思える体験を創造しながら、改めて「価値」を研ぎ澄まします。

その試行錯誤こそが、デザインの胆力につながると考えているからです。

試行錯誤するための工夫

授業を進める上で、60人10チームのデザイナーたちの試行錯誤を助けていくために、さまざまな工夫をしています。

1. 大量のインプット

この授業では、メソッドの解説、世界のサービスデザインの事例、さまざまなヒントを、Web上 の「サービスデザインガイド」(グラグリッド製)から、いつでも参照できるようにしています。オリジナルの解説動画も収録。知りたい欲に応えます。

2. リーダーとのコミュニケーション

チームをまとめリードしてくれるリーダーさん。各チームにいるリーダー、副リーダーのみなさんとは、心配ごとがあったらすぐに連絡がとりあえる体制にしています。

リーダーミーティングの様子

3. リアルタイムで共有するステータス

10チームの状況を把握し進めていくのはかなり大変です。そしてそれは、学んでいる当事者である学生も同じ。他のチームの状況を見える化しながら、自分たちの進み具合を把握できる方法が必要でした。

そこで、簡易的なカンバン方式で、チームの状況を一覧にし、全員が確認できるようにしています。

4. 濃厚なインタラクション

「この考え方は合っていますか?」「このやり方でやっているのですが、大丈夫ですか?」初めてのことを学ぶときに不安はつきもの。グループワークの時間にはできるだけ寄り添い、濃厚なやり取りをしています。

知恵が伝承されていく、授業

今年で3年目となるこの授業。実は、スケジュールもやり方も、かなりバージョンアップしています。一昨年は2ヶ月かかってしまったコンセプトづくり。今年は1週間で実施しました。試行錯誤できる時間が増え、サービスの裏側、ビジネスのことまで考えられる時間が増えています。

これも、金沢美大のコミュニティの濃厚さがあってこそ。始まる前に、先輩たちからのたくさんの知識や知恵が伝承されているのです。

「三澤はやり直しさせるから、気をつけろ!」みたいなものも、もちろん伝わっていますが、それ以上に、この授業の楽しさや大切さ、挑戦していくことの意味が後輩たちに伝えられているように感じます。

3年目となる今年は、学生が自分たちで和菓子を作りに行ったり、自分たちで考えた体験をプロトタイピングしてきたり、インタビューのアポをとってきたり。課題に出していないことでも、どんどんトライしています。良いものをつくるために、楽しんで臨んでくれているようです。

自分たちで見つけ出す「サービスデザインの真髄」

そして、授業はまだまだ進行中。
4月の「コンセプトづくり」が終わったところです。しかし、やればやるほど疑問も出てきます。

「体験に価値がないって、どういうことですか?」

「どうしてもプロダクトのアイデアから抜け出せません。どうしたら、サービスにすることができるのでしょうか?」

「体験に価値があれば、みんな好きになって、リピートしてくれるんじゃないんですか?」

「何度も来たいと思ってもらうには、同じことをレベルアップさせていくべきか、新しいチャレンジをさせていくべきか、悩んでいます。」

とても本質的な疑問がなげかけられます。
サービスデザインって、なんなのか?
自分たちで掴みとる過程を、私は、楽しみに見守っています。

(三澤)

関連情報

●去年の先輩たちのアウトプットより、いくつかご紹介

医美同源デザインコンペティションでグランプリをとった「和菓子×病院 人と人をつなぐ トトト」



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