PTSD

 あの日、私の心は死んでしまったの。
 貴方が裏切ったから。
 左の薬指の指輪が意味をなくしたの。
 
 世界が変わってしまったの。
 人間が怖くなってしまったの。
 男も女も子供さえ。

 それぐらいの裏切りなのに、私は許した。
 私の為ではなく、貴方の社会的立場と私の親の為。

 後悔?
 しているわ。私の選択で悲しむ人がいることがわかっているから。
 でも、それを望んだのは私を傷つけた人たち。そう、複数いるの。

 あの日から何年も経つけれど、いまだに人間が怖いわ。貴方が裏切っていた期間に私が楽しんでしていたことも、好きだったものも、関係する全てのもが怖くて、拒否するわ。目に映る、耳に聴こえるだけで、フラッシュバックするわ。
 

 だから、見ないように、聞かないように、遮断した。自分の殻に閉じこもって、じっとして傷を癒したの。
 事実に対してどう感じたか、好きか嫌いかで判断したわ。
 そのうちに好きなものにフォーカスして、自分の気持ちを落ち着かせたの。
 
 好きなことしかしない

 そう決めたわ。
 けれど、人間でいるとそうもいかなくて、苦しみや憎しみといった負の感情が押し寄せたわ。

 だから、人間でいることもやめたの。
 現実的には人間をやっているけれど、もう心、魂は別の次元にいたわ。

 私はただ単に、名前を持つ人間でしかなく、うちなる魂は誰にも侵されないと理解したの。

 傷と思うのも自分だと気づいたわ。

 だからと言って、全部が許せたり傷が癒えたりしたわけではないの。
 街で嫌なものを観れば少なからず嫌な気分に苛まれたわ。
 その時は、空や星や花を見て自分を癒したわ。

 人間はエゴイストで周りを知らないうちに傷つける。私もそれは同様ね。
 でも、そうならないようにしている人間もたくさんいるのよね。そういう人間とだけ関わっていったら、少しずつ傷が癒えたわ。

 逆に無意識に傷つけてくる人間は可哀想な人だなって思えるようになったわ。


 でも、まだ傷は完全には癒えないの。
 経験として捉え、人間との関わり方を見直しても心が死んでしまった私には一般的な人間とは関われないと気づいたわ。
 表面的な付き合いはできても、深く深く付き合うことはできないの。
 誰かを傷つけるって、こういう人間を生み出すことを理解してほしいわ。
 でも、無理なのよね。無意識に傷つけるのだから。

 それは魂のレベルが違うから。
 PTSDになるくらいの傷を負わせる人はそんな魂のレベルなんて持ち合わせていないんだもの。

 PTSDは治るものではなく、うまく付き合っていくものね。フラッシュバックして辛いけど、その時に感情的にならないように客観視することなのね。

 これ以上私の心が死なないように。


 でも、それ以上に誠実な人間が増えてくれるといいな。

 これ以上、私のようにPTSDを抱える人間を増やしたくない。

 だから私は魂を意識するの。
 そして、それが理解できる人がそばにいなくてもこの世界に存在してくれるだけで私は嬉しいの。

#PTSD #小説 #スピリチュアル  

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