袖手傍観になるべからず〈新疆ウイグル自治区〉
1.新疆ウイグル自治区とは
新疆ウイグル自治区とは、かつて東トルキスタンという地名で存在していた、ウイグル民族によって独立していた地域のことです。
1933年、1944年、二度に渡り独立を目指した内戦が行われましたが、1949年に中国共産党に帰順。中国人民解放軍がこの地域に展開されることになりました。
その結果、1955年10月1日、中国国内では二番目の大きさを誇る『新疆ウイグル自治区』が誕生しました。
この地域の歴史は、遡ると古代まで存在するのですが……ここで話すと非常に長くなるため、詳しいことはwikipediaのリンクを掲載したので、そちらの方をご確認ください。
2.地域の特性
新疆ウイグル自治区に暮らす人は、2020年の中国の国勢調査によると、約2,584万人となっており、その約45%がウイグル族、約42%が漢民族となっております。
文化
・言語
トルコ系の少数民族であるウイグル族は、イスラム教を広く信仰しており、言語に関してもウイグル語と呼ばれる独自の言語を用いています。
中国語とは異なり、モンゴルやその周辺に広く分布しているテュルク系の言語であり、アラビア文字を用いて表記するなど、かなり独自性の高い言語なっています。
・音楽
ウイグル民族に伝わる音楽や舞踊は無形文化遺産となっています。壮大かつ複雑な旋律が特徴的な音楽と、ダイナミックで華麗な舞踊は、結婚式や祭りなどの大きな行事で披露されます。
・料理
食事に関しては、ナンを主食としている他、羊肉と香辛料を用いたケバブ、「ラグメン」と呼ばれる手打ち面をうどんのように茹でた料理など、伝統の料理が多く存在しています。
より詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。おいしそうな料理がたくさんあります。深夜には閲覧注意です!!!!
名産
・ブドウ
新疆ウイグル自治区の中でも、トルファン地方で獲れるブドウは名産品として名高く、独自の製法で生産される干しブドウは新疆ウイグル自治区のお土産品として特に推奨されている一品でもあります。
それ故に「新疆の葡萄は天下に甲たり」、なんて言葉があったりします。
・メロン
「ハミ瓜」と名付けられたそれは、清朝の康熙帝の舌鼓を鳴らした歴史を有するほどの甘さを誇っています。爽やかな風味と強い甘さ、そして高い栄養価は、ブドウと並んで地域の特産品として有名です。
・羊肉
放牧が盛んな新疆ウイグル自治区は、ケバブ、カバブ、カワープと呼ばれている羊肉の串料理が有名です。塩コショウなどのシンプルな味付けから、クミン、唐辛子などの香辛料を用いて味付けするパターンもあります。
・新疆綿
日照時間の長さ、乾燥した気候、そして天山山脈から流れてくる雪解け水は綿の栽培環境として最高の理想的な環境を誇っておりーー世界三大綿の一つとして数えられる品質を誇っています。
「エジプトコットン」「スーピマコットン」と並ぶその品質は、高い吸湿性、通気性を持っており、数多くのアパレル企業が重宝していました。
しかし、現在とある理由によって、パタゴニア、H&Mといった有名なアパレル企業は輸入制限を掛けており、中国におけるアパレル市場に打撃を与える形となっております。
3.戦慄の事実
2019年11月24日、Tiktokにこのような投稿がされました。
内容は女性に向けた美容系の動画のように思われますが、途中から異なる様相を呈するようになります。
その内容は、新疆ウイグル自治区に住む少数民族に対する、あまりにも残酷過ぎる惨状でした。
件の動画はしばらくすると削除、その理由は中国政府に対する批判であること、そして過去の動画が不適切であるという理由からでした。その一方で、彼女が動画を投稿したTiktokは中国企業が運営しており、中国政府の介入が多くの人に疑われることとなりました。
事実、中国国家主席の習 近平氏は『民族浄化』の名の元、新疆ウイグル自治区に住まう少数民族に対して宗教、言語、文化の強制を行い、漢民族との一体化を図っています。
①きっかけ
2009年7月5日、ウイグル自治区内の主要都市であるウルムチ市内で、数千人にも及ぶウイグル族がデモ行進を行いました。
始めは抗議活動のみだったデモ行進でしたが、やがて行進を行う人々は暴徒化、自治区内の商店への放火、漢民族の住民に対して暴行など、デモはやがて暴動へと発展してしまいました。これに対して漢民族の住民も報復として反撃、混迷を極めました。
この暴動が起きたきっかけは、直近で広東省内の玩具工場に勤務する漢民族の従業員とウイグル族の従業員が衝突した事件であり、このいさかいによって少なくとも2名が死亡しており、この事件に対する調査もおよそ適切に行われたとも言えず、このことでウイグル民族間にたまっていた不満が溜まっていたことも原因と考えられています。
ーーFNNチャンネルが取材した当時の映像
中国政府は武装警察を派遣することで、数日にも渡る暴動を鎮圧。その結果、数多くの死傷者が発生、中国当局は死傷者の大半は漢民族であると報道しましたが、ウイグル族の死傷者もかなりの数を出したことが想定されます。
そして、このことがきっかけで国家主席はウイグル民族に対して強い警戒心を抱くこととなり、徹底した思想教育を施しました。
②再教育施設
2010年代後半頃になると、習 近平国家主席は自治区内に『再教育施設』と呼ばれる収容施設を大量に建設。中国政府はそれを『職業訓練施設』と呼び、目的をテロの防止、及び職業訓練としていましたが……その実態は実に凄まじいものとなっていました。
・狭い部屋に数十人単位の人数を収容
・施設内ではウイグル語を含めた、中国語以外の言語の使用が一切禁止
・連日に及ぶ拷問
・ウイグル族の女性に対する性的虐待
・強制的な不妊手術、または中絶手術
・休む時間がほぼ無いに等しい環境での強制労働
など、およそ個人の権利を尊重しているとは思えないほどの凄惨極まりない内容となっていました。
さらに言えば、連行される理由も特に告げられないまま再教育施設に連行されるという証言もあり、年々収容者の数は増えていっています。
この人権をことごとく無視した内容に対し、世界ウイグル会議(当組織に関しては後述)はーー
『一つの民族コミュニティを対象とした集団洗脳計画』
『自治区に住まうイスラム教徒のウイグル人を、過去の文化として地球上から消滅させようとしている』
と、強烈に批判しました。
また、当施設の衛星写真、元収容者の証言などの声もあって、国際連盟も当施設の監査を中国政府に求めましたが、中国政府はこれを拒否しています。
③臓器提供の増加
1980年代より、中国政府は死刑囚をドナーとした臓器提供を行っていたものの、年を経るごとに死刑囚は減少。これによって臓器提供者の不足が問題となる……かに思われたのですが、年を経るごとに臓器提供件数は増加。
それどころか臓器提供を行う病院が増加し、提供にかかる待期期間も短縮されています。
中国当局はこれを自発的な提供者、即ちドナーが増加したと報道してますが……
肝心のドナーがどこの誰であるのかは、明らかになっていませんでした。
このデータの不透明性を証明するように、海外に移住した中国の方から、法輪功学習者やウイグル族に対して強制的な臓器摘出を行っているという証言が聞こえてくるようになりました。
上記の再教育施設内では、健康診断の後に強制的な臓器摘出を行うという証言もされており、再教育施設が国家推進の臓器バンクとしての役割も担っていることが暗示されました。
④核実験
1960年代以降、中国は新疆ウイグル自治区内に存在するロプノール湖にて核実験を行うようになりました。
実に45回、1996年まで行われた核実験の中で、中国はアジアで最初の核保有国となり、更には核の処分場も設置されることになりました。周辺の環境や住民への影響が叫ばれる中、中国政府はただ安全性を主張するのみで、放射能汚染や健康被害に関する詳細な調査は一切行っていません。
1996年に中国が包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名したことによって核実験は行われなくなりましたが、依然として住民の発がん率や健康被害の報告は増加しているという指摘があります。
4.各国の対応
①制裁
アメリカは、各国で最初にウイグル族に対する中国政府の行為を批難。
2020年にはウイグル人権法案を可決し、ウイグル族を始めとしたイスラム系少数民族を弾圧した中国政府に対して経済制裁を行うことを表明しました。
経済制裁の主な内容は、世界中のアパレル企業で用いられている新疆綿の輸入の制限です。これは収容施設で強制労働されているウイグル族の人権問題に関することが理由でもあります。
2021年になると、アメリカは正式に中国政府の行為を『ジェノサイド』として宣言採択。これに続いてカナダ、オランダ、イギリス、リトアニアの政府も中国政府の行為を批判し、ジェノサイドと認定。経済制裁を行いました。
②ディアスポラ
奇跡的に国外に脱出できたウイグル族が亡命先として、イスラム教徒が多く存在するトルコやカザフスタンといった国々を選んでいます。
また、『世界ウイグル会議』と呼ばれる、ドイツはミュンヘンに拠点を置く、世界各国に点在するウイグル族を代表する組織が存在します。世界ウイグル会議は各国のウイグル族の政治的地位を確立させることを目的としており、現在、当組織の議長を務めているラビア・カーディル氏はノーベル平和賞候補者としてその名前を大きく上げました。
なお、中国政府は世界ウイグル会議を『テロリズムを助長させ、国家の分裂を狙う悪質な組織』として批難しています。
③日本
日本政府はウイグル民族の問題に関して、中国との関係性に対して慎重な見方をしているため大きな動きを見せることはありませんでした。
しかし、前述した世界ウイグル会議に参加している在日ウイグル人、及び日本人支援者によって『日本ウイグル連盟』と呼ばれる組織が存在しており、更には『日本ウイグル国会議員連盟』と呼ばれる、外務省、安倍 晋三氏、高市 早苗氏、三原 じゅん子氏らが参加している組織も存在しています。
上述した組織のより前には、NPO法人として『日本ウイグル協会』も存在。世界ウイグル会議の傘下として、一時期参加資格喪失による離脱もありましたが活動しています。
しかし、残念ながら組織の実態は明らかとなっておらず、活動内容もほとんど動きがありません。
とはいえ、SNSが発達した現代においてはウイグル族の声が日本にも届くようになっており、国民の中にはウイグル族に対する支援を求める声が多くなっているのが現状です。
5.最後に
あらかじめ言っておきますが、これは特定の政治団体や政治的主張を行うための記事ではありません。
伝統文化の喪失が世界にもたらす損失は芸術的な意味でも、経済的な意味でも非常に大きなものであるということを伝えるための記事です。
伝統文化というものは、長い時間と経験が積み重ねられた結果生み出された先人達の技術と精神の賜物です。そうして生み出された賜物は二度と再現することは叶わず、一度失われてしまえば再現することはできません。同じものが再び生み出されることはなく、二度と目にすることも触れることもできなくなります。
最初に紹介した新疆独自の文化も、名産も、近い将来消滅してしまう可能性があるわけです。それらが失われないように何をするべきなのか、我々はそれを真剣に考えるべきです。
ましてそれが悪意ある何者かによって消えるというのであれば、尚更です。
「悪事千里を走る」ということわざが存在するように、悪意は一瞬にして伝染する一方で、善意は伝播するのに多くの時間を要します。この問題が提唱され始めたのは数年前であり、メディアに取り上げられ始めたのも最近のことです。
我々にできることは限られているかもしれませんが、その限られた中でできることを積み重ねていけば、いつかは悪意を大きく上回ることができるかもしれません。
最後に、都内に存在するウイグル料理店を紹介して、この記事を締めさせていただきます。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
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