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『マンダロリアン』はなぜ絶賛されるのか|映画よりも映画なドラマ

「2020年のベスト映画は何か」
公開作品が少なかったため鑑賞作品数も少なく回答に困るところだが、
「2020年、映画的表現が最も優れていた作品は何か」
そう聞かれたら答えは1つしかない。

『マンダロリアン』である。

先週シーズン2が終了ばかりの『マンダロリアン』。
シークエルトリロジー(ep7~9)にはネガティブな姿勢のスターウォーズファンからも、『マンダロリアン』は絶賛されている。

『マンダロリアン』の何がすごいのか、3つの観点で語りたいと思う。


1.映画的表現の充実

映画的表現をここでは「設定やストーリーだけではない、映像や音楽、静止画としての表現」と定義する。
『マンダロリアン』はその点が充実していた。

ep7~9はep1~6を超えることを意識しすぎて、コアなファンの目線を意識しすぎて、設定やストーリーにフォーカスしてしまった。
レイの出自、レイとカイロ・レンの関係性、フォースの力、そしてあの人の復活etc...
映画的表現ではなく設定やストーリーで作品を作ろうとした結果、映画として中途半端なものになってしまい、
結果的にep1~6へのリスペクトも欠くことにもなってしまった。
(個人的には、アクバー提督の死が一瞬で扱いが軽いことが許せなかった)

一方で『マンダロリアン』は設定やストーリーにフォーカスをしていない。
もちろんそれがないわけではないが、一言で言ってしまえば
「マンダロリアンがフォースの力を持つ子どもを仲間の元に届ける話」である。それ以上でもそれ以下でもない。

ep1~6で既にスターウォーズの世界は作られているのだから、それを壊す必要がない。変に設定を変えるのではなく、スターウォーズの魅力である世界観を描けば良い。それを高いレベルで実現したのが『マンダロリアン』ということだ。

実際、マンダロリアン(作中通称マンドー)は全然話さない。
2フレーズ連続で話すことが珍しいぐらいだ。Yes,Noと答えるのがほとんどというレベル。
つまり説明っぽくないのだ。なぜそれで魅力的なのか、マンドーの姿かたち、たたずまい、姿勢がカッコイイからだ。
マンダロリアンという映像/絵が魅力的なのである。


2.7人の監督

これはドラマシリーズだからこそできることではあるが、『マンダロリアン』シーズン2は全8話、7人の別の監督が作っている(かぶっているのは2,8のみ)。
ハリウッド最前線で活躍するジョン・ファヴロー、デイブ・フィローニ、ブライス・ダラス・ハワード、リック・ファミュイワ、カール・ウェザース、ペイトン・リード、ロバート・ロドリゲスの7人である。

スターウォーズの魅力、それは「ダイバーシティ」だ。
インクルージョン!ダイバーシティ!といったことが叫ばれる前から、宇宙の多種多様な種族(notヒューマノイドも含む)とヒューマノイドが共存する世界を描いてきた。先述のアクバー提督もそうであるし、『マンダロリアン』の中でも様々な種族が登場し、マンドーらと交錯する。

1人の監督だとどうしても同じ視点で捉えることになるが、『マンダロリアン』は各話を別の監督が担当することで、同じ世界を様々な見せ方をすることができる。それによりスターウォーズの「ダイバーシティ」ある世界を描くことができているのだと思う。


3.オマージュ

オマージュとは、参照する作品をリスペクトし新たな作品を作ることだ。
『マンダロリアン』では、各話毎に日本の時代劇や西部劇、戦争映画などをベースにチャプターを作っている(オマージュしている)ことがよくわかる。
そもそもスターウォーズの原点は「黒澤映画」だ。偉大なる日本映画がベースとなり作られている。その原点に回帰し序盤の作品を制作し、その後は参照する作品を広げている。
(例えばChapter 15: The Believer"は「行って帰るだけ」、『マッドマックス』そのもの)
(ちなみにアニメシリーズ『クローン・ウォーズ』には『七人の傭兵(シーズン2 ep17)』というドストレートにオマージュした作品もある)

極めつけは今回シリーズの最終話『"Chapter 16: The Rescue"』だ。最高のオマージュが登場した。
過去作品のとあるシーンを参照し、見事な対比、熱狂するシーンを作った。
これは詳しくは語らないので、過去映画作品を観た上で、是非その目で見てほしい。
興奮間違いなし、「Wow!!!」と思わず叫ばずにはいられない(実際外国人がそのシーンを観て大興奮している動画をYoutubeで見た笑)。


以上がマンダロリアンが魅力である。特に1,3は従来映画にあったもので、ドラマという形式で実現できているのが新しい。

『VODサービスが映画を壊す日|2021年代映画への悲観論』にも書いたように、今後スターウォーズシリーズは多くの作品を作ることを発表している。
VOD全盛期時代への悲観的な視点も持ちつつ、『マンダロリアン』のような作品が生まれることを期待している。


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