「ほめる」よりも「効果的な言葉」とは?
元テレビ局のアナウンサーで、NHKの「すくすく子育て」の司会も務めた天野ひかりによる連載です。 今まで5万人以上から相談を受けてきた親子コミュニケーションのプロが、実際によく相談される悩みをどうやったら解決できるか、自己肯定感を育てる会話のコツをお話します。
「ほめるところがない」
「小さい頃はほめられたけど、わがままになった気がしてほめられない」
「ほめないとやらなくなった」
「ほめることとしつけのバランスがわからない」
こんなふうに多くの方が「ほめる」に頭を悩ませています。
まずはこちらのマンガを見てください。
■よくあるNGなほめ方 3選
一見、理想的なコミュニケーションに見えるこのマンガ、何がNGなのかわかりますか? くわしく見てみましょう。
NG理由1 子どもに無言の圧力をかけている
2コマ目でお母さんが「何する?」と言いつつも、折り紙を手にして、さりげなく誘導しているのがわかりますか?
このさりげないしぐさで、「自分が折り紙って言ったら、ママは喜ぶはず」と子どもは察しています。無言の圧力をかけているのと同じですよね。
今回の例は折り紙ですが、一般的には宿題や課題、お手伝いなどに誘導していることが多いと思います。
もちろん、相手の気持ちを「察する力」は大切です。でもそれよりも大事なのが「自問する力」。子ども自身が、「自分は何をしたいんだろう?」と考える力です。
自問して出した結果を認めてもらうことで、自己肯定感は育ちます。
NG理由2 言うとおりに従う子どもをほめる
2コマ目で、親が「それはいいね」と言っていますね。ここが要注意ポイントです。このように親の希望どおりに何かをやったとき、「それはいいね」とほめるのは、裏を返すと「そうじゃないのは、よくないね」と同じ意味になります。
「それはいいね(そうじゃないのは、よくないね)」をくりかえすと、子どもは、自分のやりたいことではなく、親にほめられることを優先していきます。
この状態が続くと、子どもは自分が本当にしたい事がわからなくなっていきます。これはとても恐ろしいことです。
NG理由3 天才だね!とほめる
「天才!」という言葉を使ってほめることはありませんか?
NGマンガでもお母さんが「天才」と言っています。
じつはこれ、NGなのです。
努力ではなく、能力や結果を決めつけるほめ方をしていると、「ぼくは天才だから頑張らなくてもできるはずだ」と思って努力しなくなったり、「自分は天才だ」と周囲に思わせるために、難易度の高い挑戦を嫌がるようになったり、話を盛って嘘をつくようになってしまうというスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の研究結果もあります。
■ほめなくてもいい
「じゃあ一体どうやってほめたらいいの?」と途方に暮れるお母さんお父さん、簡単な方法があります。
OKマンガを見てみましょう。
OKマンガのお母さんは、特にほめていませんが、コントロールもしていないのがわかりますか?
鶴(作品)を折らせたいと思っている親にとっては、折り紙をビリビリに破る行為は、部屋も散らかるし、嫌なことなので、やめさせたくなるかもしれません。
でもそれを親がやめさせたりしないことで、子どもは認められる感覚を得ます。そして一生懸命に工夫をしながら取り組むことで、子どもは達成感を得ているのだと思います。
ほめられなくても、子どもは「自分はすごい」と満足感を味わっているのです。つまり、子どもがしていることを認めることが、自己肯定感を育てるのです。
■親にできることは、子どもの邪魔をしないこと
親にできることは、ほめてやらせることではありません。子どもがしたいことを邪魔せずに、認める言葉をかけること。
邪魔をしないといっても、(好きにさせてあげよう)と黙認するのではなく、「指で破ってるんだね」「思ったとおりに破るのは難しいんだね」とその工夫を認める言葉をかけたいものです。
子ども自身がしたいこと、
好きなこと、
挑戦したいこと、
やり遂げたこと、
うまくいかずに悔しい思いをしたこと
などを体験することが大切です。
その積み重ねで、子どもは、自分の考えを育み、自信を持って行動できる子に育っていきます。
今日のコミュポイント
「ほめない、叱らない、認める子育てをしよう」
マンガ:とげとげ。
■プロフィール■
天野ひかり
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして 講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げた「NPO法人親子コミュニケーションラボ」代表理事、一般社団 法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)
や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)などがある。