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【妄想】おじいちゃんのお葬式と犬神家の一族


何回か「夫は大阪育ち」と記してきたが、実は、夫の生まれは広島である。

元々夫の父方の祖父母が広島の人で、夫の両親は結婚当初は広島で親と同じ敷地内で暮らしていた。広島で生を受けた夫は幼少期を彼の地で過ごし、8歳の時に両親と弟とともに大阪に移って、20歳で上京するまで大阪で暮らしていたというわけなのだ。

夫のおじいちゃんは、とても波乱万丈な人生を送った人だった。

明治45年(1912年)広島生まれ。
戦争中に家族で満州に移住したが、終戦時徴兵されていたおじいちゃんは捕虜となり、ソ連に連行されてシベリアに抑留され、強制労働を余儀なくされる。
故郷の広島には原爆が投下されていた。
おばあちゃんは幼い二人の子供を連れ、大変な苦労をして日本に帰り着いたのだという。

おじいちゃんが日本に帰国できたのは5年後のこと。
帰国してからは努力して資格を取り、行政書士として働いた。飲む打つ買うの激しい人で、おばあちゃんをよく泣かせていたそうだが、土地などの資産もあり、地元の名士的な存在だったようだ。

その広島のおじいちゃんが10年ほど前に亡くなった。99年の生涯だった。

私たち夫婦は葬儀に参列するため、広島に向かった。
夫にとっては懐かしい、私にとっては初めての広島。
私はおじいちゃんに会ったことは1回もなく、これが最初で最後の対面となるわけなのだが、この時、私の胸の中に、ある1つの妄想が渦巻いていた。

その妄想というのは――。

当時、義父と義父の兄はおじいちゃんの遺産をめぐりちょっともめていたのだ。詳しい話はよくわからないが、まあいろいろあったらしい。
資産家の死、遺産、集まる親戚、不仲な兄弟‥‥‥。
これって、これって‥‥‥



犬神家の一族っぽくない!?





✴ネタバレ注意✴
大したことは書いてませんが、これから犬神家の一族をご覧になりたい方はご注意ください。

横溝正史の小説「犬神家の一族」は何度も映像化されているが、有名なのは1976年公開の映画だろう。
この犬神家の一族、私の中では5本の指に入る日本映画。もう本当に好き。
大富豪・犬神佐兵衛が残した遺言状をめぐって巻き起こる骨肉の争いと、犬神家の家宝、斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)に見立てた殺人事件の勃発。市川崑監督のカット割りの多い独特な演出も面白いし、マスク(仮面)姿の佐清(すけきよ)のダミ声や、水面から出たVの字の脚などなど、真似したくなる要素も満載。声がかすれているときは必ず、
「珠世の言ったことは本当だよ!クックック…いい奴だったよ…あんたの息子は…」と佐清になりきってしまう私である。


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広島に着いた私はドキドキしていた。
人見知りの私は本来親戚の集まりほど苦手なものはないのだが、このときばかりは少し興奮していた。

親戚一同がそろった葬式の席で、丸メガネの弁護士がおじいちゃんの遺言状を読み上げる。
葬式には謎の美女・珠世が参列している。
少し遅れて、いとこ1が、不気味な白いマスク(仮面)をつけた姿で入ってきて、一同息をのむ。
遺言状の内容は、義父の兄の息子2人と義父の息子2人のうち、だれかが珠世と結婚すれば、家宝の斧・琴・菊が与えられ、おじいちゃんの遺産はすべて珠世とその人のものになるというものだった。
分かりにくいので、家系図を作ってみた(暇なの?)。

犬神家3


ここから一族の醜い骨肉の争いが!!

義父の兄 「どういうことだっ!?俺のことがなにも書いてないじゃないかあ!」
義父   「俺に何もないなんておかしいだろ!」
義父の兄妻「珠世さんと結婚できるのは独身のうちの子だけでしょ!」
義母   「何言ってんのよ!離婚よ離婚すればいいのよ!!」
夫の弟妻 「ひどい!ひどいわ~!」
私    「あの女、いったい何者なのよっ!?」

いとこ4人は珠世のハートを射止めようと、あの手この手で珠世にせまる。しかし、最初の犠牲者が‥‥。


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‥‥‥‥などということはもちろんなかった。
おじいちゃんのお葬式は滞りなくおこなわれ、親戚たちはおじいちゃんとの別れを惜しんだ。
夫は久しぶりに会ういとこたちと懐かしそうに話をしていた。その場にいた親戚のおじさんが夫に話しかける。
「広島生まれじゃけえ、カープのファンじゃろ?のう、そうじゃろ?ん?」
「‥‥‥‥は、はい‥‥‥。」
夫、広島の街では阪神ファンとは言えなかったようだ。


私は、以前おじいちゃんが私たち夫婦に送ってくれた手紙のことを思い出していた。手紙にはおじいちゃんが日本に帰って来た時の情景が、驚くほどの記憶力で綴られていた。戦争に対する悔恨と、もう二度と起こしてはならないという強い言葉。そして、家族に再会できた時のこの上ない喜び。

おじいちゃん、生き抜いてくれてありがとう。
遺影を見つめながら、おじいちゃんの波乱万丈の人生に、心の中で手を合わせた。


広島を去る前に、夫が幼少期を過ごした家を二人で歩く。
「ああ、この廊下懐かしいな…。」
夫が板張りの廊下をそっと撫でる。そして、裏庭から家を見上げてニヤリとする。

「今にこの家が、俺のものになるんやからな。」

夫よ、横溝正史の小説では、そういうこと言う人、殺されちゃうからね。
気を付けて!



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