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テキトーすぎるかかりつけ医


近所のTクリニックという内科のクリニックに毎月通っている。

T先生とはもう20年以上の付き合いになるだろうか。
実家を出てこの町に住み始めた20代のころ、体調が悪くなって自宅の近くにあったこのクリニックに飛び込んだのが出会いだ。

「どうしましたぁー」

飄々とした感じの恰幅のいい男性の先生で、白衣(緑色)の前を全開にして下にファンキーなTシャツを着ている。

なんかうさんくせぇ……。大丈夫か?

第一印象で先生に疑惑の目を向けた私だったが、処方された薬はよく効いた。
以来、何かあるとTクリニックに行っている。


30代になってからめまいを感じるようになった。
歩いていると突然ふわっと浮くような感じがしたり、後頭部をたたかれたような、クラっとする感じに襲われたり。ふらふらして歩けないときもあった。今思うと、当時ハマっていた「ランナバウト」というドライブアクションゲームを長時間やりすぎたのがいけなかったのかもしれない。
T先生に症状を告げると、

「自律神経だね。」

とテキトーなことを言って、漢方薬を処方してくれた。これが効いた。

漢方薬を飲んでいる間はめまいはほぼ感じなくなったが、やめるとまた調子が悪くなる。体調が悪い時はめまいがひどくなるので、それで体調の良し悪しがわかったほどだ。
T先生にそう言うと、先生はまたテキトーなことを言った。

「ストレスだね。職場の環境が悪いとか、仕事がしんどいとかなぁい?」
「いえ、そんなには……。」
「旦那さんに殴られたりとかはぁ?」
「いやいや、ないです。」

T先生にまさかのDV疑惑をかけられた夫。笑った。


その後は漢方薬をもらいに毎月Tクリニックに通うようになった。
先生のお腹は年々大きくなり、相変わらず白衣の下は目を疑うようなTシャツを着ている。
午後に行くと、待合室でフラフラしていたりすることもある。
自由である。

診察室に入ると先生は申し訳程度に血圧を測り、毎度テキトーなことを言う。
「血圧が低いからだね、運動したほうがいいよぉ。」
ちなみに数値はそんなに低くはない。高めの時もある。

またあるときはまだ40前だったのに、
「そろそろ更年期だからぁ。」
と驚愕の診断をされた。

秋に行ったときは、
「季節の変わり目は体調悪くなりがちだからぁ。」
と職場の時候の挨拶みたいなことを言われた。

5年くらい前に右肩が上がらなくなったときは、
「こうやってぇ、体操してごらん。」
と診察室で体操させられた。いったい私は何をさせられているのか。
1年後、右肩は自然に上がるようになった。体操のおかげではないと思う。


総じて、私のT先生の言葉に対する評価はネット情報くらいの信頼度しかないが、今度はどんなテキトーなこと言われるんだろうと思うとむしろ楽しみで仕方がない。
去年の年末に行ったときは、
「はぁい、これあげる。」
とにっこり笑ってブラックサンダーをひとつ手渡された。


憎めない人である。





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