創作怪談 「夜のドライブ」

 これは、上田さんという男性から聞かせて貰った話。上田さんは1人でドライブに行くのが趣味なんだそうです。特に目的地は決めず、気の赴くまま車を走らせる。たまたま見かけた店に入ってご飯を食べ、公園を見つけると軽く散歩しつつ休憩する。そんな休日のドライブが楽しみの1つだった。

 これは、2023年の10月の話。繁忙期も終わり、仕事も落ち着いてきたため、3日続けて有給を取ることにした。有給の初日に早速ドライブに行った。いつもとは趣向を変えて、夜にドライブすることにしたそうです。夜の9時頃に家を出る。初めての夜のドライブに気分も上がった。高速道路は使わず、下の道を2時間30分程走っていると、県内ではあるが初めて来る町に辿り着いた。個人でやっているであろう小さな飲食店がポツポツと目についたが、時間も時間なので全て閉まっている。コンビニでおにぎりとお茶を買い、また車を走らせていると中央公園らしき広い公園が見えてきた。公園の所々に設置されている街灯は既に消えており真っ暗であったが、長時間の運転で少し疲れていた為この公園で休憩することにした。駐車場はないかと公園の外周を回ると、東側に駐車場を見つけた。入り口脇に“利用可能時間07:00~22:00”と書いている看板が目に入る。現在は既に日付を回っている時間であったが、別にチェーンが張られている訳でも、門が閉まっている訳でもない。良くないとは思いつつ駐車することにした。車から降りて大きく伸びをすると、強くて涼しい風が“ヒュー”っと吹く。真っ暗な公園へ歩みを進めると、妙にワクワクした。公園には様々なスペースがあり、遊具が置いてあるスペース、小さなグラウンドの様になっていてスポーツが出来そうなスペース、芝生が広がっていてレジャーシートを敷いてのんびり出来そうなスペースなどがあった。スペースは数あるが、上田さんの体は遊具がある場所へと向かっていった。風が強いせいか、ブランコが微かに揺れている。“キーッ、キーッ”というブランコの金具から鳴る音が懐かしく感じた。真っ暗闇の中に遊具が立ち並ぶ姿は、何となく異世界を彷彿とさせる。ベンチ、ブランコ、滑り台のてっぺん。座れる場所は多々あるが、上田さんが選んだのはジャングルジムだった。3段目に登り腰掛ける。腕にコンビニのビニール袋を提げておにぎりを食べた。あっという間におにぎりを食べ終えると、一瞬、一段と強い風が吹いた。その瞬間、すぐ隣からすえた体臭の様な臭いがした。横を見ると、ボロボロのTシャツを着た小さな男の子が座っている。華奢な体で、良く見ると肌が所々薄汚れている。臭いの元がこの子だと言うのは分かったが、一体いつからここに居たのか不思議だった。最初から居たが真っ暗で気付かなかっただけかも知れないが、そうだとしても、こんな時間に小学校低学年位の子が外出している事自体おかしい。男の子は上田さんの存在に気付いていないのか、真っ直ぐと暗闇を見つめていた。何と声を掛ければ良いのか困惑していると、男の子は
「おにぎり食べたかった」
と弱々しく言葉を放った。言葉を完全に見失った上田さんが男の子から目を離すと、また一瞬だけ強い風が吹く。再び男の子が居た方を見ると、そこに男の子の姿はなかった。「あれ?」と思っていると、駐車場の方から“パーッ!パーッ!”とクラクションを鳴らす音が響いた。車のロックをしていなかった事に気付き「ヤバい、誰かにイタズラされてる」と慌ててジャングルジムから飛び降りる。“とん”と地面に着地した瞬間、余りの眩しさに立ちくらみを起こした。さっきまでは確かに真っ暗だったはずだが、ジャングルジムから降りた瞬間、いきなり日中の様に明るくなった。不思議に思っていると、また駐車場の方から“パーッ!パーッ!”とクラクションが鳴り響く。走って駐車場に向かうと、怒った顔をしたお爺さんがクラクションを鳴らしていた。お爺さんは、上田さんの顔を見ると
「これ、アンタの?」
とすごんでくる。
「はい」
と答えると
「困るよー。利用時間07:00~22:00までって看板見えなかったの?それにさ、どうやって入ったの?門閉まってたでしょ?」
と言った。
「すみませんでした。でも、門は閉まってなかったです。だからダメだと分かりつつ駐車してしまいました。本当にすみません」
「え?門開いてた?」
「はい…開いてました」
「俺、ここの管理人なんだけどね、駐車場の門は忘れずに毎日閉めてるからそんなこと無いと思うけどな~。今日もここに来た時は、ちゃんと門閉まってたしね。でも、ここに車を入れたのも事実だもんね…」
「あの、すみません。今って何時ですか?」
「今?6時57分だよ。そう言えばアンタ、遊具がある方から来たね。こんな時間まで何してたの?」
上田さんは今までの出来事を一通り説明した。日付が変わる頃にここに来たこと。門が開いてたので車を入れたこと。ジャングルジムに登っておにぎりを食べたこと。クラクションの音が鳴ったのでイタズラされていると思い、ジャングルジムから降りたら朝になっていたこと。体感時間では、ここに来てまだ1時間も経っていない事を話した。ジャングルジムで男の子を見たことは、信じて貰えないと思ったので話さなかったそうです。ここまで話を聞いたお爺さんは怪訝そうな顔で
「ジャングルジム?」
と訝しげに言った。続けて
「ジャングルジムはとっくの昔に撤去したんだけどね~。ちょっと着いてきな」
と言う。言われた通りお爺さんの後ろを着いていくと、お爺さんは遊具がある方へ向かっている様だった。異変にはすぐ気づいた。ジャングルジムが無い。
「え?どうして…」
上田さんが困惑していると、お爺さんは
「ジャングルジムで男の子を見たんだろ?夜中に食べ物を持ってこの公園に来ると、こういう事が起きるんだ。今日は帰りなさい」
と言った。上田さんが
「最後に1つだけ良いですか?あの男の子は一体何なんですか?」
そう聞くとお爺さんは
「可哀想な子だった」
とだけ答えた。

 上田さんは家に帰った後、あの公園の事を調べたそうですが、公園で事件や事故が起こったという記録は見つけられなかったそうです。上田さんは最後に
「もう1度、深夜にあの公園へ行ってみようと思います。おにぎり食べさせてあげたいです」
そう言って話を締めくくってくれた。

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