人間ドックに行ってみた話

 日帰りの人間ドックに行ってみた。とはいっても、検査項目は会社で受ける一般的な健康診断に毛が生えた程度のものだが。

 きっかけは冬場どうしても起き上がれなくなり「何か得体のしれない病気にでもかかっているんじゃないのか」と医者でもねえくせに職長に決めつけられた勧められたことだ。幸い会社の補助を受ければタダで検査できる、ということで日帰りで受けられるコースを予約し、クソ忙しい中一人だけ悠々と有給休暇を取って行ってきた。ちなみに当の職長は自分が言ったことを覚えてなかった。クソが代(国歌)

どうせこのnoteを見ているやつに人間ドックの検査項目を真面目に気にするようなやつはいないと思うので、個人的に気になったことについてつらつら書く。

<注意>生々しいのがお嫌な人は閲覧を中止することをお勧めします。また、筆者はあくまで一般人であり医療関係者ではありません。従って、文中に誤りがある可能性がございます。

1. 眼圧測定

 知らない人も多かろうと思われるので簡単に説明すると、眼球というのは内側を房水という液体が流れており、内側から多少の圧がかかっている。が、この圧が高すぎると視神経が圧迫されて視力が低下してしまう
 緑内障の場合は必ずと言っていいほどこの検査を受ける(が、緑内障だからといって必ず眼圧が異常とは限らない。どころか、眼圧が正常範囲でも緑内障になってしまう(正常眼圧緑内障)患者の方が割合としては多い)。詳しくは参天製薬のHPでも見てくれ。

 で、じゃあどうやって眼圧を測定するのかというと、非接触式眼圧計(ノンコンタクト・トノメーター)を使うのが一般的な方法のひとつとなる。これが何かというと、外見上は「眼科に置いてある、顎を載せて視力検査するアレ」の類縁みたいなものである。

 原理的には眼球の内側から圧がかかっているわけだから、角膜部分に空気を吹き付けてそのへこみ具合を赤外線反射で検出して測定する。全然へこまないなら眼圧が高い、というわけだ。痛みはない。ないんだが……眼球に空気を吹き付けられると普通に反射で目を閉じてしまう。当然、まぶたやまつげに空気が当たれば再測定となる。
 しかもこのタイプの眼圧計は測定値がやや不安定のため、3回測定してその平均値を眼圧値とする。つまり、最低でも眼球1つにつき3回、両目で6回撃たれることになる。花沢勇作と尾形百之助を足してもまだ足りない。

 さて筆者はどうであったかというと、当然のように何度も、何度も再測定する羽目になった。何をどうしても目を開け続けていられない。一体何度プシュ、プシュ、とあの音を聞いたかさっぱりわからないが、反射とは本人の望むと望まざるとに関わらず出てしまうもの。力を抜いて大きく目を開ければうまくいくらしいが、そんなもので済むのなら何も苦労などしない。本当に目を開けていてほしいのなら開瞼器でも使ってほしい。

 おかげで、患者も技師も大いに疲弊した。

2. 心電図

 会社の特殊健康診断でも検査対象項目となっているので慣れたものだ。と、思ったか?
 
実際やることと言えば手首足首に洗濯ばさみみてえなのをつけて胸に吸盤をきゅぽきゅぽつけるだけなのだが、筆者はこれだけで活きのいい魚のごとくびちびちと暴れる。もちろん吸盤を剥がす時も大暴れ。 

 検査後、看護師に心配された。

3. 腹部エコー

 最大の鬼門である。この検査を生み出した奴は地獄に落ちてほしい。
 思わず本音が出てしまった。で、検査の原理としては簡単。腹にプローブ(ぶっといスタイラスペン的なもの)を押し当て、内臓に超音波を当てて反射した波を検知する。で、白黒の映像がモニターに映し出されるので内臓に異常がないか診断していくわけだ。

 ただし、鮮明な映像を見るために腹部表面にゼリーを塗らなくてはならない。必然的に医療行為の名を借りたローションプレイが始まるわけで、心電図如きで死ぬ魚が耐えられるはずもないのである。検査の間中、ずっとぬるぬるごりごりぬるぬるごりごりされるのだ。しかも不随意に起こる緊張と弛緩が検査の邪魔になるので、到底無理であるにもかかわらず腹筋に力を入れるな暴れるなと何度も繰り返ししつこく指示される。そして時間がかかる

 肛門科でケツに指を突っ込まれて以来その手の羞恥心はないので自尊心は無傷だが、忍耐力と腹筋が擦り切れた。

4. 便潜血検査

 筆者の得意分野である。ウンコなど頑張ればいくらでも出るわ。
 ……何の自慢にもならない自慢はさておき。便潜血検査とはヒトヘモグロビンに対して特異的に反応する抗体を使用し、便中に(たとえ見た目にわからないほど微量でも)血液が混ざっていないかを調べる検査である。大腸がんやポリープ「など」で出血した場合にはこの検査で引っかかる(がそもそも出血しなければ引っかからないし、すべての大腸がんやポリープが出血するわけでもない。100%スクリーニングはできないことに留意)。

 人間ドックを予約すると自宅にサンプリングキットが届く。保存ゲルの入った容器が二つあり、1つ目の容器に1回目、2つ目の容器に2回目のウンコをそれぞれ採取する。今どきの検便というのは2日法と言って、検査精度を高めるために2回分のウンコが必要なのだ。
 ウンコは人間ドック当日、受付のお姉さんに提出する。提出から6日前から採取してよいことになっているが、1日目と2日目の採取間隔をなるべく短く、そして可能な限り新しいウンコを検査に供することが推奨されている。サンプルが古いとヘモグロビンが分解されてしまうためだ。検査精度を高めるためにも、ここは是非とも、是が非でもこだわっておきたいポイントである。

 そしてサンプリングキットにもう一つ付属しているものがある。それは、である。トイレットペーパーとは異なり、ある程度の硬さがある。そしてトイレットペーパーと同じように水に流せる。この紙を便器内に敷いてその上で排泄することで、ウンコの水没を防ごうというわけである。

水没した。

 まあ所詮紙だし薄っぺらい。ウンコの重量に負けて水に沈むのは当然である。過剰な期待を抱いた己が愚かだったのだ。一応、先にトイレットペーパーを長めにとって3~4回折り重ねた上に紙を敷けば沈まないらしいが、既に一度失敗して紙を消費してしまっている。予備はない。であればどうする?

 キッチンでのんびり茶を飲みながら思案にふけり、ふと牛乳パックが目に入った。これだ。

 当たり前の話だが、牛乳パックは申し分ない耐久力を備える反面水に流すことができない。便器の中に落とせば、便器の水とウンコにまみれた牛乳パックを取り出さなければならなくなる。となれば、床に敷くしかない。

 筆者は尊厳を捨てた。捨てるしかなかった。

 検査前日20:00、水没のため採取失敗。
 同日22:00、不正な手段により採取成功。
 検査当日06:00、通常の手順により採取成功。

 検査当日08:15、受付にウンコを提出。ミッションコンプリート。

5. 上部消化管X線

 俗にいうバリウム検査というやつである。これは有名だろう。検査としてはかなり一般的なものだし、勤め先の定期健診で受けては絶望する人間が多い。35歳以上を検査対象とすることが多いため、若年層がはやく「こちら側」に来ますようにと天に無駄な祈りを捧げる情けない中年もいると聞く。遅かれ早かれ叶うのだし、そんなことより己の生活習慣を見直す方が遥かに健康に良いと思う。

 やることは単純かつかなり乱暴で、胃を発泡剤で膨らませて造影剤(バリウム)を流し込み、X線を当てて胃の状態(表面粘膜の形状とか)を見る。それだけ。実際の手順は検査機関によって細かな違いがあるので参考程度に読んでいただきたい。ここから先は飽くまで筆者の場合の話である。

 専用の検査台に立ち、粉状の発泡剤(ねるねるねるねの粉みたいな酸味がある)を口に含み、すかさずスタバのグランデサイズくらいはある容器になみなみと注がれたバリウムを一口か二口飲んで流し込む。発泡は水分を含んだ瞬間から即座に始まるため、この時点で既に胃がかなり苦しい。そして間髪入れず、技師から「早く全部飲め」という指示を下される。
 味の方は巷で言われるほど不味くはなく、むしろ初見でも飲みやすい。しかしバリウムは金属である。同量の水よりも、ずっしりと重い。スタバのグランデサイズに入った、アホみたいに重い液体を、全部飲まなくてはならない。

 もしかして水銀を飲んだ始皇帝もこんな気分だったのだろうか。でも始皇帝は発泡剤飲んでねえから失格だな。そんなことで死ぬならその程度の器だったんだろう。内心で既に死んでいる上にまったく無関係の人間を腐しながら、バリウム全量を5秒で飲み下す。胃で発泡が進む中、飲み直しだけはすまいとひたすら虚無を嚥下しながら耐える。

 既にギリギリの戦いを繰り広げているところ空気を読まず検査台をぐいんぐいん傾けられ、間断なく自力での体位調整を指示される。胃の中にまんべんなくバリウムを接触させなければ検査できないので、検査を受ける本人がひっくり返ったり転がったりしなければならないのだ。が、その拍子にパンパンに膨らんだ胃を圧迫してしまうらしく、ときどき冗談抜きで「グェッ…」という声だか音だか区別のつかないものが漏れる。鬼か?悪魔か?いや技師だ。相手が人間じゃなければ大手を振って始末できたのに。

 そして必死にゴロンゴロンしている中容赦なく差し出される発泡剤とバリウム。頼んでもいないのに勝手に追加注文しないでほしい。我慢してても抜けるときは抜けるし仕方ないのも承知しているが、苦しみの上に苦しみを上乗せされると気分が鬱屈の極みに至る。そういうのは前職でおなかいっぱいだ。ちょっとは優しくしてほしい。

 そして最後にわざわざ腹部を数度圧迫して検査終了。このあと鏡を見たら口回りにバリウムが白くこびりついてる上に、舌も真っ白けだった。

 検査後、ある意味バリウム検査のメインともいえるイベントが発生する。1時間ごとに水分を摂取し、16時までに排便がなければ下剤を服用せよと指示される。そう、バリウム便である(またウンコかよ)。実は飲んだバリウムの中にあらかじめ下剤が混入しており、通常であればその日のうちに排泄されるのだ。

 一度飲んだバリウムは可及的速やかに排泄しないと腸管内で固まり、排泄されなくなってしまう。そうなれば最悪腸閉塞からの壊死コンボが決まる可能性がある。検査で健康どころかいきなり内臓を失うのは御免被る。というわけで、ウンコを柔らかくするために水を多めに飲んでおき、便意が来なければ強制的に催してでも出す。

 通常この手の下剤は服薬から8時間後くらいに効き目が出始め、切れるまでは人の都合などお構いなしに断続的に便意を催し続ける。ので、基本的に検査当日と翌日は絶対に外出する用事を作らない方がいい。どうせウンコしないと腸が死ぬ

 16時に下剤を飲み、その後何度か便座に座る。まあ8時間経ってないしな。夕食にゴボウをしこたま食って3回くらいウンコを連射したが、通常カラーしか出ない。ウンコとは先入れ先出し、即ちキューである。まだバリウム色に染まっていないウンコがあるのだろう。
 翌朝7時、普通に催す。下剤効いてるのか?よくわからんな。と思いつつ普通に便器に座る。で、もりっと出す。

 おお、白くて黄色い。まあ胆汁色が混ざってるので普通に黄色~茶色だが、明らかに通常のウンコではありえない白さがある。これがバリウム便。 
 まあ一度見ればわかるので、10秒ほど観察した後流した。なかなかお目にかかれるものではないが、保全価値はない。その後も何度かバリウム便が出て、3回くらい出したら通常カラーに戻った。かくして、白い悪魔と腸閉塞の危機は去ったのである。

6. 血液一般

 ここまでが体育。ここからはクソつまんない座学の時間だ

 日帰りとはいえやはり人間ドック、血液検査という括りは同じでも検査項目は一般健診のそれより遥かに多い。読者の方は「はたらく細胞」という漫画をご存じだろうか。アレの元ネタが大集合するのだ。
 通常であれば赤血球数、血色素量(ヘモグロビン)、ヘマトクリット(血液中の赤血球の割合)の3項目が対象となる。ざっくり言うと、これらは貧血や多血症の指標である。
 ではこれが人間ドックになるとどうなるかというと…

追加項目:白血球数・好中球・好酸球・好塩基球・リンパ球・単球・血小板数・MCV・MCH・MCHC・血液型(ABO/Rho・D)

 やかましい。免疫細胞だけで6項目も増えている。
 白血球数とは好中球・好酸球・好塩基球・リンパ球・単球すべてをひっくるめた免疫細胞群のトータルを表す。つまり、国(身体)に駐留している軍(免疫細胞)全体の規模くらいに思っておけばいい。
 血液成分は個人の体質に左右されるところが大きいためか基準値の幅がやたらと広く、また基準を逸脱していたとしても程度が大きくなければ医師は「正常ですね~」としか言わない。適当か?
 筆者は好中球・単球・好塩基球がわずかに多め、リンパ球がわずかに少なめでいずれも基準をほんのちょっぴり逸脱したが、やはり医師は「正常ですね~」としか言わなかった。やっぱ適当だろ
 とりあえずショッカーの下っ端戦闘員が多めの血液ということでその場は納得することにした。

 MCV・MCH・MCHCはそれぞれ赤血球のサイズ、赤血球1つあたりのヘモグロビン量、赤血球に含有されるヘモグロビン濃度である。つまり赤血球自体の健全性を測る指標と思えばよろしい。
 貧血は引き起こされた原因によって鉄欠乏性貧血・再生不良性貧血・溶血性貧血・巨赤芽球性貧血に分類される。MCH・MCV・MCHCがすべて低ければ鉄欠乏性貧血(鉄自体が足りてない)が考えられるし、MCH・MCVが基準より高くMCHCが概ね基準値内であれば溶血性貧血(赤血球が破壊されて減少してる)もしくは巨赤芽球貧血(ビタミンB12や葉酸が欠乏して正しく赤血球を作れない)の可能性があるわけだ。
 また、MCV・MCH・MCHCは赤血球数・ヘモグロビン・ヘマトクリットから算出する項目である。そう、一般健診の結果通知に載ってなくても自分で計算できるのだ。となれば検算したくなるのが人の性

 筆者の検査結果より、赤血球数437 万/μL、ヘモグロビン12.9 g/dL、ヘマトクリット39.2 %、MCV89.8 fl、MCH29.5 Pg、MCHC32.9 g/dLとする。
 MCV、MCH、MCHCは以下の公式によって求められる。
■MCV=(ヘマトクリット(%)÷赤血球数(10^6/㎣))×10
■MCH= (ヘモグロビン(g/dL)÷赤血球数(10^6㎣))×10
■MCHC=(ヘモグロビン(g/dL)÷ヘマトクリット(%))×100

 地味に赤血球数の単位換算めんどくせえな。とりあえず有効桁数は3桁。

MCV(fl)=(39.2÷4.37)×10≒89.8(fl)
MCH(Pg)=(12.9÷4.37)*10≒29.5(Pg)
MCHC=(12.9÷39.2)*100≒32.9(g/dL)

 すっきりした。ウンコではない。
 計算結果が正しいことを確認しておいてなんだが、MCV・MCH・MCHCに問題がある人間は赤血球数・ヘモグロビン・ヘマトクリットにも何かしらの異常があるだろうし、とりあえず血液がおかしいやつを検出するだけなら別に計算しなくてもいい気がしてきた。割と無駄な努力では?

 尚他にも肝機能・腎機能・脂質代謝・糖代謝などなど色々あるので、興味のある人は自分で調べてみてほしい。全部書くと余裕で1万字2万字突破してしまうし、あまり長くなるとダレる。何よりここまで書いてなんだが、私の体力が尽きた。

最後に

 ここまで散々ぼろくそに書いたが、大暴れしたり初見バリウムで散々失敗したりで面倒極まりない人間にも丁寧にご対応いただいた医療関係者各位に感謝申し上げる。

 そしてここまで記事を読んでくださった方へ。人間ドックは面白い(苦しんだけど)。今回は日帰り人間ドックのベーシックな項目のみ検査を受けたが、必要に応じて予約時にオプション検査を追加できる。たとえば親族に心臓疾患が多いなら、はっきりとした自覚症状がないまま進行するリスクを鑑みてマルチスライスCT、心臓エコー、心臓MRIなど循環器系を重点的に検査する、という選択ができる。どれも受けたことはないが、ワクワクしないか?しないやつは知らん。
 もしかしたらいずれ定期健診に引っかかって要再検査の判を押されて嫌々行くことになるかもしれないが、健康診断とは現実を受け止め、これからをよりよく生きるための手段だ。検査そのものや今後の生活改善を含めて楽しめるようになれば、生きるに憂いの一つくらいは少なくなるかもしれない。

 では、良い人生を。


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