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インスタントラーメンと生涯の友と鈴木雄大

1984年の春、大学受験に失敗した僕は、釧路を出て札幌の予備校に通わせてもらった。
はじめて親元を離れて予備校の近くの寮に暮らした。
この新しい生活の中で、僕は本当にたくさんのものに出会った。

浪人することがほぼ確実になってから高校の進路指導室とは名ばかりの資料置き場に置いてあった予備校生のための学生寮「桑和学生ハイツ」のリーフレットを見つけた。
小学校時代からの友達でもあった剣道部の同期の主将と一緒にそこに入ろうと決めた。
ベッドと机以外何もない狭い部屋で、調理器具などは持ち込み禁止ですと書かれていた。

入寮したその夜、こんな壁だらけの場所で本当に勉強なんてできるんだろうかと心配しながらも予備校の資料を眺めていると、部屋のドアがノックされた。
お、一緒に入寮した剣道部のヤツか、と思いドアを開けると見たことのない大柄の男がインスタントラーメンの入った鍋を片手に持って立っていた。

まったく何の挨拶もなく「ラーメン食べる?」と言う。
いかにも人のよさそうな笑顔につい「お、おう」と答えると、じゃ隣来て、と。
ああ、隣の部屋の住人だったか、と後について彼の部屋に入った。

何も置いてはいけないはずの部屋にはカセットコンロの他に、レコード・プレーヤーまで備えた簡易ステレオが置いてあり、壁には大きなカセットテープのラックが設置され100本近いテープが並んでいた。

二人でインスタントラーメンを食べながら自然と音楽の話になって、そのままずっと話し込んだ。何年も昔から友達だったような気がした。


彼は留萌の出身で、同じ高校からやはりこの寮に入っている友人がいて、これがまた相当な音楽バカだという。
さっそくその友人の部屋を急襲することにした。
予想に反して歓待を受け、音楽談義は続いた。
その彼が「まだ無名だけど、これだけは絶対聴いておいたほうがいいよ」とカセットテープを貸してくれたのが、鈴木雄大のファーストアルバム『フライデイ・ナイト』だった。

これには本当にぶっ飛んだ。
鈴木茂みたいなソリッドなギタープレイに、甘くて高い声。
小学生の僕を音楽の世界に引きずり込んだローラーズみたいに、心を震わせて切なくなっちゃうようなポップセンス。
ある種の諦念観の中をあくまでも軽やかに泳ぎきるような独特の歌詞がその時の気分にものすごくマッチして、何度も何度も聴いた。

社会人になってから、CDショップで鈴木雄大のアルバム『STREET OF ECHOES』を見つけて、懐かしくて買った。

これは本当に名盤だった。ファーストアルバムから変わらない切ないポップセンスに感激して、CD化されていなかった懐かしい『フライデイ・ナイト』のLPも探して買ったものだ。

結局、予備校の寮でラーメンを作ってくれたそいつとは、鈴木雄大聴くと思い出すけど、頻繁には会ったりはしなかった。でも人生の節目節目に不思議な縁で再会し続けるんだなー。
生涯の友ってそういうものなのかな。

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