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解けた靴紐をどこで結ぼうか

去年の今頃、新入社員だった私は就活のパンプスを履いて出勤していた。

歩きやすさを重視した、なんの変哲もない黒くてヒールの低いパンプスだった。

私はヒールのある靴で歩くのが苦手だったから、毎日苦痛だったなと思っている。

いつだったからか、スニーカーで出勤するようになった。単に業務で外出することが増えたからだったと思う。

何にせよ、かしこまった場以外では殆どスニーカーを履いていた。

2月、私は研修期間を終えて遂に担当業務を持つこととなった。そこからは挨拶周りでほぼ毎日外出し、歩き回る日々。もちろんスニーカーを履いていた。

2月末、「全国一斉休校」という衝撃的なニュースが入ってきた。教育業界で働く私にとってこれは本当に大きなことで、あらゆる対応に追われ、心ない言葉に傷つけられ、ネガティブな感情にひきずられた。

3月の私はもうその時点でだいぶ足がもつれていたんだと思う。毎日気が狂いそうになりながら働いていたし、何度も泣いて上司を困らせた。それでも私は毎日会社に行っていた。

感覚としては、靴紐が解けたまま歩き続けているようだった。前の人はどんどん先に進んでいるし、後ろの人は迫っている。解けた足元に意識を向けながら、それでも歩き続けている。

危ないからどこかで端に寄って結ばないとと思っているんだけれど、止まったらその流れに入り込めなくなりそうで止まれず、歩き続けている。そんな3月だった。

でも4月、緊急事態宣言発令によって強制的にその足は止められた。在宅勤務となって、殆ど外に出なくなった。毎日履いていたスニーカーは、紐が解かれたまま玄関で静かに並んでいた。

さて、いざ出勤できるようになったよと言われても、全く気持ちが乗らない。

何と言ったって私は出鼻を挫かれてしまった。研修を終えて一人前の道の一歩目を無理やり違うところに置かれてしまったんだもの。

一度止まったのだから、靴紐をぎゅっと結んで走り出せということなのかもしれないけれど、まだどうしたらいいかわからず私は道の端っこでしゃがみ込んでいる。靴を脱いでいいよと言われたので脱いでしまった。

結局この状況で全く前と同じとはいかなくて、変わってしまった道を探りながらそっと歩き出さないといけないのだけれど、むしろ暫く紐が解けたままの靴でゆっくり歩いてみてもバチは当たらないんじゃないかなと思ったりして。

私は今の会社でやりたいことがある。自分の手でこうしたいというビジョンがある。それを達成したいから、過去には戻れない今の状況の中、どこで靴紐を結ぼうかなあという気持ちが、私の眼前の課題なのかもしれない。



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