旅の焦点と黒いダルマ

アウトサイダーアートに魅せられてアーティストになったという、黒づくめでヒゲ面の妙な中年と初めて出会ったのは25年ほど前。

若かりし頃のボクは、その自由な雰囲気を持つ黒いダルマの様な男に魅力を感じたし、彼も社会に出たての若造を子分のように思ったのか、どちらからともなくなんとなく交流がはじまった。

東京のボクと、地方住まいの「黒ダルマ夫妻」。
夫妻が東京に個展や展示会のために訪れたときには必ず呼び出され、どういうわけかあちこち連れ回され、随分といろいろご馳走になったし、勉強させてもらった。

その後も、細く長くこの妙な関係は続く。
そして、結局関東にアトリエを構えた彼ら。
新ブランド立ち上げメンバー(デザイナー兼職人)として迎えいれられ、ある日 無茶な要望に応えきれず喧嘩別れして音信不通になり数年すぎたころ、彼の訃報を風の頼りに聞いた。

「労働者」「フランス」「文学」を愛した(風を気取っていた)彼は、いつも同じような服ばかり着ていた。
首元までボタンのついたコットンの黒い襟付きジャケットを上まで閉め、アニエスのワッチキャップ、黒の綿パンにドタ靴…。

なぜか急に思い出してしまったのには理由がある。
数日前からネットで、ユーロワークジャケットを物色。
モールスキン素材かツイル素材かはもう、ツイル一択であったため、ブラックにするかインクブルーにするか悩んでいた。

結局、着回しの効くブラックを選び、昨日手元に届いた。
今日の昼間に洗濯をし、ただいま陰干し中なのだが、
「あれ? これってあの人がいつも着てたあのジャケットとすごく似てるぞ!」
と、気づいてしまったんだ。

指折り数えてみると、初めて出逢った時のあの人の年齢に、今のボクは追いついてしまったのだ。
20代のハナタレ小僧にはとても真似できないムードの風体とファッションではあったけど、結局「年齢」なんだな。

背格好はまったく違うのに、期せずして同じ物を選んでいるあたり、影響力はもちろんだし、嗜好が似通っていたのかも知れない。
それにしても、ある程度の歳にならないと似合わない物ってあるんだな。ってちょっぴり考えさせられた妙に暑い一日だった。

最後の挨拶にすら行かないほど、晩年はいろいろあって憎たらしい存在にはなってしまったけど、少なからず受けてしまった影響を、こうして心がざわつくこともなくホンワカと思い出せるようになるまで、随分時間がかかったな。
胃が痛い毎日を過ごした記憶もあるけど、思い返せば良い旅だったのかもしれない。

旅は良かった部分、学んだ部分にフォーカスを合わせて、嫌なことはピンボケさせたまま思い出さない方がいいね。

あーあ、若造共から見た今のボクも、あのおっさんみたいに魅力的に映っていてくれたらいいな。
それにはもう少しばかり道のりが必要かな。

明日には乾くから袖を通してみよう。


GIO.

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