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156)野菜の豊富なアルカリ食の健康作用(その2):抗老化作用と寿命延長効果

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術156

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【アルカリ食は寿命を延ばす】

野菜や果物などのアルカリ性食品が少なく、肉や魚や乳製品などの酸性食品を多く含む食事は、血液が酸性に傾いた状態(代謝性アシドーシス)を導き、そのことが様々な病気の発症に影響を与える可能性が指摘されています。155話で解説したように、食事由来の酸負荷を示す指標として潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load : PRAL)があります。PRALは以下の式で算出されます。
 
PRAL(mEq/d)=0.4888×たんぱく質(g/d)+0.0366×リン(mg/d)-0.0205×カリウム(mg/d)-0.0125×カルシウム(mg/d)-0.0263×マグネシウム(mg/d)
 
つまり、食事中のタンパク質とリンの量は潜在的腎臓酸負荷(PRAL)を増やし、カリウム、カルシウム、マグネシウムはPRALを減らします。

PRALの数値が大きい食事は酸性食品で、PRALがマイナスの食品はアルカリ食品です。動物性タンパク質、特に肉、卵、チーズは、体内で大量の酸を形成する原因となります。

果物や野菜は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩などの有機アニオンを多く含み、体内で重炭酸塩に変換されます。重炭酸塩は、酸を中和する塩基です。

日頃から摂取する食事の潜在的腎臓酸負荷(PRAL)が高いほど死亡のリスクが上昇する傾向が認められてます。国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC研究)からの報告では、食事のPARLスコアが最も低い群に比べ最も高い群では総死亡のリスクが13%増加していました。

Dietary acid load and mortality among Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study.(日本人男性と女性における食事性酸負荷と死亡率:日本公衆衛生センターに基づく前向き研究。)Am J Clin Nutr. 2017 Jul;106(1):146-154.

死因別にみると、循環器疾患および心疾患死亡との間で統計的に有意な関連を認め、食事性酸負荷スコアが最も低い群に比べ最も高い群において死亡リスクはどちらも16%増加していました。

他の研究でも、食事の酸性度が高いほど総死亡及び循環器疾患死亡のリスクが上昇することが報告されています。

したがって、野菜、果物、豆類といった体内のアルカリ度を高める食品を多く摂取することは循環器疾患の予防により健康寿命を伸ばす効果が示唆されています。




【加齢とともに体内に老化細胞が増えていく】

私たちの体は正常な機能を維持するために、多数の細胞がお互いに制御しあっています。このような正常な細胞の集まりの中で、加齢とともに異常な細胞が出現してきます。一つはがん細胞で、もう一つは老化細胞です。
 
がん細胞は、増殖と細胞死の正常な制御ができなくなって、正常細胞や正常組織を侵略するように数を増やしていきます。がん細胞が多く増えると、宿主は死亡します。
 
老化細胞は、増殖を停止した細胞です。細胞老化はがん細胞の発生・増殖を防ぐためのメカニズム(がん抑制機構)と考える意見もあります。細胞老化に伴う細胞周期の停止はがん抑制遺伝子が関与しています。つまり、ダメージを受けた細胞のがん化を防ぐメカニズムの一つが細胞老化です。(下図)


図:若い正常細胞に、遺伝子異常の蓄積、酸化ストレス、オートファジー阻害などの様々な原因によって、細胞の老化とがん化が起こる。細胞老化はがん細胞の発生や増殖を阻止するためのメカニズム(がん抑制機構)という考え方もある。


老化した細胞は増殖を停止しただけで、周りの正常細胞や組織に悪影響を与えないかのように思われます。しかし実際は、老化細胞が組織に蓄積すると、様々な悪影響を及ぼすのです。
 
すなわち、老化細胞はサイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなどの多くの成分を分泌しています。これらの因子は老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれ、老化細胞の周囲の組織に炎症や機能障害を引き起こす可能性があります。つまり、老化細胞が蓄積すると老化関連分泌表現型(SASP)の産生によって、その組織の機能が傷害されるのです。


図:老化細胞は増殖を停止しているが、老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれる様々な因子(サイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなど)を産生して、周りの正常細胞や組織の機能を障害する。SASPは他の細胞の老化やがん化も促進する。
 
 

「個体の老化」は「社会の高齢化」と類似しています。個体が老化すると、組織や臓器に老化した機能低下細胞が増えてきます。このような老化細胞は、機能低下しているだけでなく、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる様々な因子を分泌して周囲の細胞に悪影響を及ぼしています。高齢化社会においても、高齢者は社会から引退するだけでなく、いろんな意味で若い人の負担になっているのと類似しています。
 
そこで、個体の若返りの治療では、老化細胞にアポトーシスを誘導して、積極的に除去(排除)しようと言うアイデアが出てきます。このアイデアは、高齢化社会において、若い人の負担になっている高齢者を排除しようという思想と同じです。「うば捨て山」の発想です。
 
この考え方は、抗老化医療の領域では主流になりつつあります。今までの抗老化治療は、高齢者にサプリメントや漢方薬を与えたり、栄養状態を良くし、リハビリして筋力や体力を鍛えて、元気にする発想です。老化に伴って低下する栄養成分や体内成分を補うという方法論です。ビタミンやミネラルやニコチンアミド・モノヌクレオチド、スペルミジン、ホルモン類、成長因子などを補充して、機能低下を補う抗老化治療が行われています。
 
一方、老化細胞が死なないで居座るから問題なので、老化細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導することによって、蓄積した老化細胞を組織から排除して組織の若返りをはかる治療がもう一つの方法論です。

老化細胞を死滅させ、若い細胞を補填して、組織を若返らせる方法です。老化細胞を減らせば、加齢に伴う組織や臓器の機能低下やがんの発生を予防できるというアイデアです。老化細胞にアポトーシスを誘導して排除するのが老化細胞除去薬(senolytics)です。



【野菜は老化細胞除去作用を持つ成分の宝庫】

老化細胞を選択的に殺す薬である老化細胞除去薬(senolytics)という用語は、2015年にカークランド(JamesnL. Kirkland)とチコニア(Tamara Tchkonia)によって導入されました。この二人はメイヨークリニック(Mayo Clinic Robert and Arlene Kogod Center on Aging)の研究者です。
 
老化細胞を選択的に殺す薬を発見するための探索研究が行われています。天然物としてフィセチンとケルセチンが注目されています。

フィセチンは、イチゴ、キュウリ、リンゴ、ブドウ、玉ねぎなどの果物や野菜に含まれる生理活性フラボノール分子です。フィセチンが細胞の老化を抑制することやマウスの寿命を延ばすことが報告されています。
 
フィセチンは、PI3K / mTOR経路を含む複数のシグナル伝達キナーゼを阻害し、抗がん剤としても注目されています。ケルセチン(quercetin)はフラボノイドの一種で、配当体(ルチン、クエルシトリンなど)または遊離した形で柑橘類、タマネギ、そばをはじめ多くの植物に含まれるフラボノイドの一種です。ケルセチンは複数のキナーゼを阻害します。フィセチンとケルセチンは似た構造をしたフラボノールです。


フィセチンやケルセチン以外にも、オリーブオイルに含まれるポリフェノール類、赤ぶどうやブルーベリーに多く含まれるレスベラトロール、欝金のクルクミンなどの天然成分も老化細胞除去薬として作用が報告されています。

実際のところ、ある一種類の成分の効果を利用するより、野菜や果物や薬草など植物全体を利用した老化細胞除去薬の開発が現実的です。様々な植物由来成分が抗老化の目的で利用されています。それらは、今までは抗酸化作用や抗炎症作用などが作用メカニズムとして主張されてきました。そのような成分の中に、老化細胞除去作用の関与もあると言えます。
 
昔、がん予防成分を見つけるために多くの天然成分が探索されましたが、結論は単一成分を追い求めるのではなく、「野菜やナッツや果物など植物由来食品」を多く摂取することががんや老化の予防に有効という結論に落ち着いています。漢方薬に含まれる生薬成分も抗老化とがん予防に有効な成分を多く含みます。

つまり、「野菜やナッツや果物など植物由来食品」や漢方薬は、老化細胞除去作用による体の若返りと健康寿命の延長が期待できます。


図:フィセチンやケルセチンやレスベラトロールは老化細胞除去作用が報告されている。これらの成分をサプリメントとして摂取するより、これらの成分を豊富に含む野菜スープや漢方薬の方が老化細胞除去には効果が高いと言える。



【ファイト・ケミカルを効果的に摂取できる野菜スープ】

日頃の食生活において、新鮮な旬の野菜を多く食べることが大切であり、1日5皿とか1日350gとか具体的な目標が述べられています。ただし、生野菜では野菜中の成分の消化管からの吸収(生体利用性)が低いことに注意が必要です。
 
植物の細胞は硬い細胞壁で囲まれています。植物の細胞壁はいくつかの繊維成分からなっており、その主要成分であるセルロースを消化する酵素「セルラーゼ」を人間は持っていません。
 
草食性の動物は、消化管の中にセルロースを分解する微生物を棲まわせていて、胃や盲腸で発酵を行っているため、生の植物を摂取しても、その細胞の中から有効成分を体内に取り入れることができます。
 
ヒトは硬い繊維質を十分に発酵させるほどには大腸は長くはなく、セルラーゼを産生する腸内微生物を棲まわせていないため、植物を生のまま食べたのでは、細胞内の成分はそう容易には溶け出しません。良く噛む程度では硬い細胞壁を壊して内容成分を溶け出すことは十分にはできないからです。
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つまり、野菜に含まれる抗酸化やがん予防効果をもつ薬効成分(ファイトトケミカル)の多くは、生の野菜を食べた場合にはあまり体内に吸収されないということになります。
 
野菜を水に入れて加熱すると、野菜の細胞壁を構成しているヘミセルロースやペクチンが溶け出し、さらに、細胞内のガスの膨張による細胞壁の破壊などの作用も組み合わさって細胞壁の破壊が起こります。熱によって植物の細胞壁が壊され有効成分が抽出されて、生体に利用可能な状態になるのです。


図:植物の細胞は硬い細胞壁で囲まれていて、ヒトの消化酵素では細胞壁を壊すことはできない。加熱することによって細胞壁が壊れ、細胞内の成分が溶け出しやすくなる。加熱してスープにした方が生野菜で食べるより、植物中の薬効成分の体内吸収の効率が格段に高くなる。
 
 
 
つまり、日頃から野菜スープで植物成分(ファイトケミカル)を多く摂取することは、老化細胞の除去によって体の老化やがん細胞の発生を遅らせ、健康寿命を延ばす効果が期待できます。

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