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147)至福をもたらすアナンダミドの増やし方(その3): トリュフとチョコレート

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術147

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【アナンダミドを増やすと幸福感が高まる】

人の幸福感に影響を与える体内成分はいくつか知られています。
例えば、オキシトシンは、しばしば「愛のホルモン」とも呼ばれ、人間の幸福感に大きく寄与しています。オキシトシンは、親子の絆、友情、恋愛関係など、さまざまな人間関係における信頼感や親密さを高める効果があるとされています。オキシトシンはストレス反応を和らげ、リラックス感を促進する効果もあります。このホルモンは、触れ合いやハグ、親密な会話などの社会的相互作用を通じて分泌量が増えます。
 
内因性カンナビノイドのアナンダミドも幸福感を高めます。アナンダミドの名前はサンスクリット語の「アナンダ」から来ており、「至福」や「喜び」を意味します。

アナンダミドは、私たちの幸福感、快適さ、モチベーション、さらには記憶や食欲にも影響を与えます。この化合物はカンナビノイド受容体と結合し、神経伝達物質の放出を調節することで、これらの感覚を引き起こします。アナンダミドは脳の報酬システムに影響を与え、快感や満足感を生み出すことが知られています。
 
人種によって陽気度や幸福感が異なる理由として、オキシトシンやアナンダミドなどの幸福感を高める体内成分の濃度が影響する可能性が指摘されています。
 
例えば、アナンダミドは必要に応じて(オン・デマンド)神経細胞から分泌されますが、すぐに酵素によって分解されます。この分解酵素の活性が低い遺伝子異常を持つ人は、アナンダミドの分解が抑制される結果、アナンダミドの血中濃度が高い状態に維持されることになります。

世界には陽気な人種とそうでない人種がいますが、陽気な人種の人は、アナンダミドを分解する酵素活性が低いという研究結果もあります。至福をもたらすアナンダミドの体内濃度が高いと、幸福感を得られ、他人との争いも少なくなり、うつ症状も自殺も減ると思われます。



【無脊椎動物にも内因性カンナビノイドシステムが存在する】

体内には内因性カンナビノイド(アナンダミド、2-アラキドノイルグリセロールなど)と、それらを合成する酵素や分解する酵素、内因性カンナビノイドが結合するカンナビノイド受容体によって内因性カンナビノイド・システムが構成されています。

内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールは細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼによって生成されるアラキドン酸の代謝産物です。内因性カンナビノイドは生理的あるいは病的刺激によってオンデマンド(要求に応じて)に細胞膜のリン脂質を分解して合成・分泌されて、カンナビノイド受容体を刺激して生理作用を示します。内因性カンナビノイドはそれぞれの分解酵素で分解されています。(下図)


図:アナンダミド(①)と2-アラキドノイルグリセロール(②)はオンデマンド(要求に応じて)に合成酵素が活性化されて細胞膜などの脂肪酸から合成される(③)。アナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2や、Gタンパク共役型受容体のGPR55やCa透過性の陽イオンチャネルの一種であるTRPV1などに作用して細胞機能を制御している(④)。アナンダミドは脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase; FAAH)によってアラキドン酸とエタノールアミンに分解され(⑤)、2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロール・リパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)によってアラキドン酸とグリセロールに分解される(⑥)。


以下のような報告があります。

The Endocannabinoid System in Invertebrates.(無脊椎動物の内因性カンナビノイドシステム) Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. Feb-Mar 2002;66(2-3):353-61.

内因性カンナビノイドシステム、すなわち内因性カンナビノイド、カンナビノイド受容体、加水分解酵素は、無脊椎動物のさまざまな種で確認されています。つまり、無脊椎動物でも内因性カンナビノイドノイドが存在し、様々な生理機能の制御に関与している可能性を報告しています。

無脊椎動物にも、動物と同じ内因性カンナビノイドが存在することが発見されても、その生物学的役割や意義についてはまだ研究段階ということです。内因性カンナビノイドシグナル伝達の研究に無脊椎動物が実験モデルとして利用できると提案しています。




【トリュフにアナンダミドが含まれる】

キャビア・フォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つに数えられる高級食材のトリュフにはアナンダミドが含まれることが報告されています。以下のような報告があります。

Truffles contain endocannabinoid metabolic enzymes and anandamide.( トリュフにはエンドカンナビノイド代謝酵素とアナンダミドが含まれている) Phytochemistry Volume 110, February 2015, Pages 104-110

【要旨】
トリュフは子嚢菌門(Ascomycota phylum)の真菌の子実体であり、高級食材として知られる。トリュフの生殖構造の発達と成熟は、メラニン合成に依存している。

内因性カンナビノイドシステムの主要なメンバーであるアナンダミドは、正常なヒト表皮メラノサイトのメラニン合成に関与しているため、内因性カンナビノイド・システムはトリュフにも存在する可能性があると推測した。この報告では、成熟段階VIの黒トリュフには、内因性カンナビノイドのほとんどの代謝酵素が存在することを転写レベルと翻訳レベルで示す。

実際、分子生物学と免疫化学的手法により、トリュフには内因性カンナビノイドの主要な代謝酵素が含まれていることが示されたが、内因性カンナビノイドが結合する受容体は発現していなかった。

液体クロマトグラフィー-質量分析により、さまざまな成熟段階(IIIからVI)でトリュフのアナンダミド含有量を測定した。他の内因性カンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロールは検出限界以下であった。

私たちの予測できない結果は、アナンダミドと内因性カンナビノイド代謝酵素が内因性カンナビノイドが結合する受容体よりも早く進化したこと、そしてアナンダミドが内因性カンナビノイド受容体を十分に備えたトリュフを食べる動物(truffle eaters)に対する古くからの誘引物質である可能性があることを示唆している。
 
 


人間を含め動物は、菌類や線虫類など下等な生物から進化しています。したがって、動物の生体調節機能に関わる様々なシステムは進化の過程のどこかで発生しています。

例えば、メラニン (melanin) は、ヒトを含む動物、植物、原生動物、また一部の菌類、真正細菌において形成される色素です。

動物において概日リズムを制御するメラトニン(Melatonin)は細菌から植物や動物に広く存在します。進化の過程では生物最古の抗酸化物質として出現し、進化の過程で抗酸化作用以外の様々な作用を持つようになりました。
インスリンとインスリン受容体のインスリンシグナル伝達系も線虫で存在します。

同様に、動物で存在する内因性カンナビノイドシステムも生物の進化の過程で、どこかの段階で発生したと考えられます。
 
この報告では、黒トリュフは動物に存在する内因性カンナビノイドシステムに必要に代謝酵素の多くを発現し、アナンダミドが存在するという報告です。アナンダミドが結合する受容体はトリュフにはありませんが、アナンダミドの受容体を持つ人間や動物がトリュフを好む理由としてアナンダミドの存在を示唆しています。
 
黒トリュフ(Tuber melanosporum)は有意な量のアナンダミドを含む他の唯一の食品です。黒トリュフはスペイン、フランス、イタリア原産のキノコで、オークや他の落葉樹の下の森で育ちます。

従来、トリュフハンターは豚を使って地下に埋もれたトリュフを探していましたが、今では特別に訓練された犬を使用しています。これは、トリュフベッドへのダメージが少なく、トリュフを食べる傾向が少ないためです。
トリュフ狩りの豚と犬にはアナンダミド受容体があり、熱意を持ってトリュフを探すと考えられています。
 
 
「チョコレート中毒」や「チョコレート依存症」という言葉があります。チョコレートの原料のカカオ(学名:Theobroma cacao)には、カフェインやテオブロミンなどの脳内報酬系を活性化して依存の原因になる成分が含まれています。砂糖が入ったチョコレートの場合は、砂糖自体に脳内報酬系を活性化して依存症の程度を高めます。

チョコレートやココアの原料であるカカオには、アナンダミドと類似の作用を示す成分や、アナンダミドの分解を阻害する成分が入っていることが報告されています。(下図)


図:内因性カンナビノイドのアナンダミド(①)はカンナビノイド受容体のCB1(②)に作用して脳内報酬系の活性化、食欲亢進、幸福感の増強などの効果を発揮する(③)。キノコの一種のトリュフにはアナンダミドが含まれている(④)。チョコレートはアナンダミドを分解する脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase :FAAH)を阻害する作用がある(⑤)。したがって、トリュフとチョコレートを併用すると幸福感が高まる。
 
 
 
黒胡椒(Piper nigrum)やその仲間のインドナガコショウ(Piper longum)には、アナンダミドの活性を高めるguineensineという成分が含まれています。
 
インドナガコショウ(Piper longum)はコショウの一種で香辛料として使用されていますが、インド伝統医学のアーユルヴェーダや中国医学では病気の治療に古くから利用されています。漢方では「畢撥(ヒハツ)」という名前の生薬として使用されています。

ブロッコリーやお茶などに多く含まれるフラボノイドの一種のケンフェロール(kaempferol)はアナンダミドを分解する酵素の脂肪酸アミドハイドロラーゼ(FAAH)を阻害してアンナドミドの濃度を高める効果があります。




【アナンダミドを経口摂取して効果がでるか】

アナンダミドの気分を高める用量を得るために、多くの人々が黒トリュフに依存することはないと思います。トリュフは、世界で最も高価な料理の1つです。しかし、かなりの大金持ちであれば、依存性になる程トリュフを食べられるかもしれません。しかし、アナンダミド自体は、原料として比較的安価に販売されています。
 
アナンダミドは刺激に応じて体内でon demandに生成され、脂肪酸アミドハイドロラーゼ(FAAH)で比較的短時間で分解されます。したがって、FAAHを阻害してアナンダミドの分解を阻止することは、アンダミドの作用を強化します。

前述のように、FAAHによるアナンダミドの分解を阻害方法としてチョコレートやココアがあります。
 
トリュフにはアナンダミドが含まれていますが、生体内で薬効を示す量のアナンダミドをトリュフから摂取するには、かなり量が必要で、購入価格は莫大な金額になるので、現実的ではありません。

そこで、アナンダミドそのものを購入して自分で試してみました。アナンダミドはインターネットで検索すると原料として販売されています。
 まず、服用量ですが、文献検索しても人間での投与実験の報告はまだありません。

マウスを使った実験では、アナンダミドを経口投与すると食餌の摂取量が増えるなどの研究結果が報告されています。以下のような報告があります。

The Endocannabinoid Anandamide During Lactation Increases Body Fat Content and CB1 Receptor Levels in Mice Adipose Tissue.(内因性カンナビノイドのアナンダミドの授乳中の投与はマウスの体脂肪量と脂肪組織のCB1受容体量を増やす)Nutr Diabetes. 2015 Jun 22;5(6):e167.

授乳中のマウスにアナンダミドを経口投与すると体脂肪が増え、脂肪組織のCB1受容体の量も増えるという実験です。

この論文の著者らは、授乳中に内因性カンナビノイドのアナンダミドの投与が、成体マウスの過体重、体脂肪蓄積の増加、インスリン抵抗性につながることをいくつかの報告で示しています。

これらの実験では授乳中のマウスに1日20mg/kg のアナンダミドを経口投与しています。マウスの20mg/kgは人間では3から5mg/kgに相当します。
標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、20mg/kgの7分の1の用量(3mg/kg)が一つの目安となります。
 
60kgの人間換算で180mgから300mg程度になります。ただ、消化管からの吸収率や分解酵素の活性の個人差などでどの程度を摂取すると効果が出るかは試行錯誤になります。

アナンダミドは脂溶性なので、油と一緒に摂取すると消化管からの吸収は良くなると思われます。アナンダミドは脂肪酸アミドハイドラーゼ(FAAH)で分解されるので、FAAHを阻害するチョコレートやココア、カンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドと併用すると効果が出る可能性があります。カンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドのFAAH阻害作用については次回解説します。
 
そこで、アナンダミドを1回100mgくらいから段階的に増やし、さらにカンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドやβカリオフィレン(CB2受容体のリガンドとなる食品添加物)などを併用し、ココアやチョコレートや生クリーム(脂肪によって吸収率を高める)も摂取しながら、気分ややる気がどうなるか、時々試しています。

アンンダミドの摂取量は、1日1グラム以上でも何も副作用は起こりません。気分がハイになることはありません。しかし、落ち着いた気分になっていることを実感します。不安感やうつ症状が軽減する効果はあるのかもしれません。

私自身は不安感やうつ症状がないので、アナンダミド補充の効果はあまり実感しないのかもしれませんが、気分が楽になる感じはします。その根拠は、何も変化が無かったり、悪い結果であれば、アナンダミドの摂取をリピートしようとは思いませんが、実際は多少の快感があるので、リピートしていることです。

つまり、摂取する動機を与える脳内報酬系を活性化している可能性はあります。脳内報酬系というのは動物が自分で積極的に行動したくなるモチベーションを与える仕組みです。
 
アナンダミドを分解する脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)を阻害するカンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドとの併用も試してみる価値はありますが、その服用量や摂取のタイミングは試行錯誤になります。まだ、誰もこのような実験や臨床試験を行っていません。通常はカンナビジオール(CBD)は1日に100から200mg程度の摂取が基準になります。

パルミトイルエタノールアミドは1日に1グラム前後が基準になります。カンナビジオールもパルミトイルエタノールアミドもサプリメントとして購入できます。
 

陽気度の高い人種と低い人種があると言われています。その原因としてアナンダミドの分解酵素のFAAHの遺伝子変異による活性の違いがあるという論文があります。つまり、FAAHの活性が低くなる遺伝子型を持っている人はアナンダミドの濃度が高くなって陽気になりやすく、FAAHの活性が高い人はアナンダミドが少なく、気分が高揚しにくいという考えです。
 
ココアやダークチョコレートやカンナビジオール(CBDオイル)やパルミトイルエアノールアミド(PEA)を併用しながら、アナンダミドの摂取を試してみることは、自己責任になりますが、非常に興味深い実験です。
その組み合わせと服用量は個人差が大きいので、試行錯誤になります。

副作用は服用量を増やした場合の眠気と胃腸刺激症状くらいです。アナンダミドはカプサイシン(トウガラシの辛味成分)の受容体のバニロイド受容体TRPV1のアゴニストなので、口や食道部に灼熱感を感じることはあります。摂取した後、水や飲料で流し込みます。

生クリームやダークチョコレートや油(大豆油など)などと一緒に摂取すれば胃腸症状は軽減し、消化管からの吸収率は高くなります。
このように、適切に工夫して使用するとアナンダミドの健康作用や多幸感を十分に活用できると思います。

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