158)「2人に1人ががんになる」と言う意味
体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術158
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【がんはほとんどの人に発生している】
日本では「一生のうちに2人に1人ががんになる」と言われています。この場合のがん(癌)は臨床的ながんです。検診で見つかったり、症状が出て見つかり、治療の対象になるがんにかかるのが2人に1人ということです。がんで死ぬのは3人に1人程度です。
実際は、ほとんどの人にがんは発生します。天寿を全うした人を解剖すると、多くの人にがんが見つかります。ただ、症状が出るほど大きくなる前に老衰で亡くなったので、がんにならずに死んだと思っているだけです。
酸素呼吸を行っている限り体内で活性酸素が発生してDNAの変異を引き起こし、発がんの原因になります。毎日、約200分の1の細胞がアポトーシスで死滅し、同じ数の細胞が作られています。この細胞分裂の過程でDNA複製のエラーがある確率で起こり、がん細胞の発生の主要な原因となります。これは内因性の発がん要因です。DNAの複製エラーは誰も避けることはできないので、複製エラーによる遺伝子変異でがんが発生した場合は運が悪いとしか言えません。
発がん物質や放射線や紫外線など外因性の発がん要因はある程度は避けることができます。食事や生活習慣(禁煙、運動など)の改善によってがんの3分の2程度は予防できると考えられています。しかし、内因性発がん要因(DNA複製エラー)があるので、3分の1くらいのがんの発生はどんなに努力しても避けられないのです。(下図)
図:基本的に全てのがんは環境と遺伝と不運な偶然(DNA複製時のエラー)によって引き起こされる。「組織幹細胞の遺伝子変異の蓄積」によってがん細胞が発生する。この遺伝子変異の発生において、内因性(DNA複製時のエラー)と外因性(喫煙や放射線などの発がん物質による遺伝子変異や親から受け継いだ遺伝的要因)の発がん因子のうちどちらの寄与が大きいかという点が議論されている。前者の内因性(DNA複製時のエラー)が主体だと、がんの発生は「不運(Bad Luck)」ということになり、外因性の発がん物質を避ける努力をしても意味が無いので、がんの早期診断・早期治療という第二次予防に力を入れるべきだという結論になる。後者であれば、がんの発生は喫煙や不健康な食事などが原因なので「当然の報い・処罰(Punishment)」ということになる。この場合は、発がん因子を避ければ(禁煙や食品中の発がん物質を減らすなど)がんを予防できるので、第一次予防(食生活や生活習慣の改善によってがんの発生そのものを減らす予防法)を推進する重要性が高くなる。がんの発生には不運(Bad Luck)の要素は十分に存在するが、環境因子がさらに重要なのは疫学的に十分な証拠がある。
しかし、がん細胞が発生して、症状が出てくる臨床的ながんになるのに、通常は10年以上の年月がかかっています。早ければ数年で急速に増大して死ぬ場合もあります。しかし、何十年も小さいままで存在したり、極めてゆっくり増大して、天寿を全うするまで臨床的ながんに成長しないものも多くあります。
このがん細胞の成長速度の違いが、天寿を全うして老衰で死ぬ人と、老衰で死ぬ前にがんで死ぬ人の違いの原因なのです。
いろんな要因が体内で発生したがん細胞の増殖を促進します。適切な食事や生活習慣を実践し、体内の免疫細胞の働きを強化すれば、がん細胞の増殖を抑えることができます。この場合は、がんで死ぬ前に、老衰や老化性疾患で死亡します。
間違った食生活や生活習慣が体内のがん細胞の増殖を促進します。この場合、天寿を全うして老衰で死ぬ前に、がんの診断と治療を受けることになり、場合によってはがんで死亡します。
【人間は老化細胞とがん細胞の蓄積で死亡する】
私たちの体は多数の細胞で成り立っています。このような正常な細胞の集まりの中で、加齢とともに異常な細胞が出現してきます。一つは老化細胞で、もう一つはがん細胞です。
老化した細胞が増えれば、組織の機能は低下し、免疫力などの生体防御力が低下すると感染症に罹りやすくなり、がん細胞の増殖を止めることができなくなります。さらに心臓や呼吸器などの全身臓器の機能が低下するとその個体は老衰で死亡します。
がん細胞は増殖と細胞死の制御ができなくなった細胞で、正常な細胞や組織を侵略するように数を増やしていきます。正常組織を破壊するので、がん細胞が多く増えると宿主は死亡します。つまり、個体の死は老化細胞とがん細胞の蓄積が原因となります。(図)
図:加齢とともに、正常組織の中に老化細胞とがん細胞が出現し、増えてくる。がん細胞は組織や臓器を破壊し、個体を死滅する(がん死)。老化細胞は組織や臓器の機能を低下させ、老衰や老化性疾患を引き起こす。
【老化細胞はがん細胞の発生・増殖を促進する】
老化細胞は増殖を停止した細胞です。老化細胞が組織に蓄積すると、周りの正常細胞に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。老化細胞はサイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなどの多くの成分を分泌しています。
これらの因子は老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれ、老化細胞の周囲の組織に炎症や機能障害を引き起こす可能性があります。つまり、老化細胞が蓄積すると老化関連分泌表現型(SASP)の産生によって、その組織の機能が障害され、細胞の老化やがん化を促進します。
細胞老化はがん細胞の発生・増殖を防ぐためのメカニズム(がん抑制機構)という考えがあります。細胞老化に伴う細胞周期の停止はがん抑制遺伝子が関与しています。ダメージを受けた細胞のがん化を防ぐメカニズムの一つが細胞老化という考えです。(図)
図:細胞老化は増殖を停止した細胞で、がん細胞の発生や増殖を阻止するためのがん抑制機構の一つという考えがある。
細胞老化というメカニズムが存在するのは「細胞のがん化を防ぐため」という考えは説得力があるように思われます。しかし逆に、老化細胞ががん細胞の増殖・浸潤・転移を促進する可能性が指摘されています。
老化細胞が老化関連分泌表現型 (SASP) として知られる炎症誘発性の細胞間シグナル伝達に関与する多数の因子の合成および放出を増加するからです。これらの因子の中には、腫瘍形成を促進できる様々な炎症性分子と細胞外小胞があります。老化した繊維芽細胞からの SASP は、がん細胞の発生や増殖や腫瘍形成を促進することが示されています(図)
図:老化細胞は増殖を停止しているが、老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれる様々な因子(サイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなど)を産生して、がん細胞の増殖・浸潤・転移を促進する。
心臓病や脳疾患や代謝性疾患など多くの疾患は、臓器や組織の機能の低下や喪失が発症の原因となっています。基本的には老化細胞の蓄積が関与します。
一方、がんは異常細胞の塊によって構成される新たな組織の発生によって引き起こされます。がん(癌)は「悪性新生物」と呼ばれることもあります。
がん組織は異常な増殖能を持った細胞の塊です。そして、自律増殖能を有し、浸潤・転移によって全身に広がり、宿主である私たちの体が死ぬまで無制限に増殖します。つまり、新生物が宿主を破滅させる病気です。
このような性質は、寄生虫や真菌や細菌など感染性疾患と似ています。つまり、がんは寄生虫や真菌や細菌のように私たちの体に感染(寄生)し、正常な体を蝕んでいく性質を持っています。
以上のように、私たちは老化細胞の蓄積によって老衰や老化性疾患で死ぬか、悪性新生物の発生や感染症や事故など内外からの攻撃で死にます。
老化細胞とがん細胞がお互いに微妙に制御し合う関係にあるので、全員ががんで死ぬわけでもなく、老衰で死ぬ前にがんで死ぬ人が3人に1人という割合にあるのが現在の日本の状況です。
がんの治療法が進歩すれば、がんで死亡する人は相対的に減る可能性がありますが、多くの人が老衰や老化性疾患で死ぬ超高齢化社会は社会の負担を増やします。がん細胞は老化した個体を自滅させるメカニズムという考えもあります。
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