見出し画像

銀座花伝MAGAZINE vol.18

#街が人間化  #老舗サスティナブル「雨竹庵」 #五感散歩のススメ

画像1

銀座中央通りを歩いていると、「舗道が広いな」と感じます。この時人は無意識に「人間を大事にしている」という印象を持つのだそうです。そういう意味で、銀座の歩行者天国は車道までも舗道になり「街が人のためだけにある世界」を私たちに提供してくれます。

その歩行者天国も緊急事態宣言で長く遠のいています。1年のコロナ禍の混沌生活で気づくのは、資源があるかどうかということはそれほど重要ではなくて、今ある資源をどれほど丁寧に磨き活かしきれているか、実はそのことが問われているのだということです。広々とした空間やゆったりとした時間は「見たいものがきちんと見えている」状態を私たちに与えてくれます。

銀座は「街が人間化」するように創られています。五感を使って銀座散歩をしながらその謎を解いていく、五感散歩のススメ。老舗のサスティナブルを体現する老舗BONSAI「雨竹庵」の挑戦、先頃開講された築地本願寺「能楽講座」での観世流 坂口貴信師の「風姿花伝」講話のあらまし、粋なコミュニュケーションを手渡しする茶銀座「新茶の手紙」情報などをお届けいたします。

銀座は、日本人が古来から持ち続ける「美意識」が土地の記憶として息づく街。このページでは、銀座の街角に棲息する「美のかけら」を発見していきます。

画像40




1. 銀座 見えないものを見る 「五感散歩」


外出がためらわれる状況の中で、TVやカタログ、インターネットなどで商品を買う機会が増えています。通信販売が活況を呈する中、届いた商品が思い描いたものと違うという理由で「返品」もまた急増しているといいます。このような中にあって、とりわけ高級品が売れ、なおかつ返品率が低い媒体はなんだと思いますか?
それは、なんとラジオ。実際に商品を手に取れないばかりか、目で見ることもできないのに、なぜなのでしょうか。

その話を聞いて、五感の不思議について考えさせられます。
目(視覚)は、健常者においては日常生活の中で実に多くの情報を収集していて、私たちはこれに頼りきっています。常に当たり前に「見える」ので、「過信」や「うっかり」、「見たつもり」「見えたつもり」、私などは結局「見ているようで見ていない」ということが頻発している気がします。

これに比べて耳だけの情報はどうでしょう。視覚情報が全くないラジオで買い物することを想像してみてください。そうなると人は、肝を決めて、繰り出される言葉の一つひとつに集中し、注意深く吟味しようとします。この商品を売っている人について信じられるのか、怪しい点がないのか、おそらくこの時人は「全身で聞く」状態になっているのではないでしょうか。つまり「五感で聞く」スイッチがONになるということです。

視覚を遮断され、聴覚だけが頼りのラジオ。いわば肉眼で「ただ見る」ことと、心眼で「よく見る」ことは全く違うことを示唆してくれます。もしかすると、「見えないものを見る」=事の本質を見抜くための最強ツールであるかもしれません。


M18音ラジオ


▪️「五感」をフルに高揚させて

お散歩マイスターとして銀座をご案内すると、必ずと言っていいほど問われることがあります。

「街を歩いているだけなのに、気持ちが高揚する、この感動はなんですか?」

そんな時に私はいつもこんな風にお答えしています。

「それは、五感をフルに逆立てた、体感受信器が発動しているから」

加えて、こんなお話をします。
「銀座には過去がありません。老舗でさえも商売の鼓動が時を動かしていて、毎日が変化の連続。今この時の躍動感があなたの心を震撼させる、そんなメカニズムが働くのではないでしょうか」

つまり、銀座を歩くと通常より10倍ぐらいに五感センサー力が高まって、体全体で刺激を受ける状態をつくることができるようです。この体験から、実は人は散歩によって五感の感度を上げることができるのではないか、特別な刺激をさらに受けることでその感度はさらに高まるのではないか、私はそんな仮説を立てています。


▪️五感のはじまり

ところで、ここで五感について少しだけDeepに探ってみたいと思います。

外界を感知するために私たちには多種類の感覚機能が備わっています。皆さん良くご存知の5種類があって、すなわち視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という分類は、もともとは古代ギリシャの哲学者アリストテレスによってなされました。

アリストテレスの提唱した「五感」は、古代ギリシャ哲学的に言うと「自然を把握する能力」を意味していたようです。視覚を使って光を感知することで自身を取り巻く環境情報を、嗅覚と味覚は化学物質を、触覚は温度や圧力を、聴覚は空気の振動を感知することで周囲の情報を得ている、という分類はとても示唆に飛んでいます。因みに五感は多くの生物が共通に持っているものですが、ヒトは視覚に頼ることが多く、イヌでは嗅覚で世界をみている、鳥だと視覚・聴覚が発達しているなどそれぞれの能力感度は、進化・適応してきた環境、条件によって大きく異なっていることが知られています。

因みに現在では人の感覚は細分化され、20種類余りあると云われています。


五感



▪️目(視覚)で銀座を眺めると


ご存知のように、一般にヒトである私たちの五感の中でもっとも情報量多く刺激を受けるのは視覚です。例えば今、あなたが銀座の街、銀座4丁目和光前あたりに降り立ったと想像してみてください。
まず目の前の大きなウインドウを眺めながら、あちらこちらに数多くの小さなウインドウが広がっていることに気づかされます。店先に近づくとガラスの中を彩る特徴のある高級商品のヴィジュアルにまず目が止まります。そして、店から少し離れて店構えを眺めると、歴史的な建築物の輪郭の多様さや、デザイン豊富な看板、のれん、フラッグなどの工夫に目が釘付けになります。そこに、色覚が加わり演出されたビビットさや上品さを目の当たりにすることとなります。
このようにちょっと見ただけでも、他の街ではなかなか体験できない、数量的にも多様さから言っても圧倒的な量の視覚情報があなたの目に飛び込みます。


画像40


ここで、お散歩アテンド風に目に見える銀座建築物のお話に触れておきましょう。
街の第一印象となる建築物といえば、銀座4丁目の和光時計塔ビル。そして晴海通りを挟んで横手に三愛ビル、振り向くと銀座プレイスという建築物の連なりが見えます。

文化の交差点「和光」

銀座のランドマーク・和光は、1881年(明治14年)創業者・服部金太郎による服部時計店(セイコー)が建てたネオ・ルネッサンス建築。アイアン・グリルの窓枠がアール・デコの歴史を語っています。(写真上/内部)老舗時計店らしい時計塔は商いのシンボルになっているばかりでなく、西洋文化と日本文化の交差点である「銀座」の象徴の役割を担って「ようこそ銀座へ」のメッセージを発信しているようです。(写真下/ウインドウ)

ネオクラシック


M18ウインドウ

                                          2020年4月 和光ウインドウ


日本文化を合流「三愛ビル」

和光から少し左に目を移動して、斜向かいにある三愛ビルを眺めます。このビル、奈良の法隆寺五重塔をイメージして作られていることをご存知ですか?
精密機器やカメラなどを製造するリコーの創業者・市村清が戦後まもない1946年(昭和21年)に建設、「和光の西洋式建築にはない、日本の美意識を取り入れた建物を」と五重塔をヒントに総ガラス張りの円筒形ビルを考案。商売人としての既存のものに甘んじることのない進取の気概を感じますね。(写真上 )

当時はビルのトップに広告塔機能をつけ、日産、東レ、三菱電機、コカコーラ等々、その時代を代表する企業のブランド宣伝が華々しく展開されました。(写真下)斬新な銀座商いの象徴として、もう一つの銀座のランドマークとなっています。

三愛4

M18三愛ビル創業時

                                             1946年 建設当時の三愛ビル


日本の伝統工芸と銀座ビル                       

和光を正面にして、振り返ると見えるマットな網目の白亜の建物が、銀座プレイスビル(写真下)一階には日産ギャラリーが最先端のスポーツカーを披露して行き交う人々に車文化の艶(あで)やかさをアピールしています。ここはもともとは、銀座カフェ文化の代表と言われる「カフェー・ライオン」(明治44年開業)発祥の場所で、2016年(平成28年)にサッポロホールディングスや呉服老舗のつづれ屋によって建て変えられました。現在は日産、ソニーなどが入居しており、特徴的なのは、デザインが日本の伝統工芸(透かし彫り)の技法をイメージしたものであることです。


M18工芸


因みに同年には数寄屋橋交差点に建つ東急プラザビルも再建され、その外観は伝統工芸の「江戸切子」がモチーフになっています。(写真上)翌年2017年にはコンセプト商業施設としてGINZA SIXが開業しますが、こちらのデザインは「日本家屋の庇(ひさし)」がモチーフの建築物となっています。(写真下)

江戸切子

ひさし

また、GINZA SIX正面前に2019年に移転した宗家 源吉兆庵の銀座本店ビル(写真下)は、和紙のアートワーク(堀木エリ子作)による吉祥文様がモチーフになっており、紙漉技術の柔らかさと吉祥「輪違い柄」のエネルギーの連鎖を感じさせるデザインになっています。

このように銀座の建築物を見ると、この時期を契機に一気に日本文化を取りいれたCreative Japanの潮流が街に流れ始めていることに気づかされます。

和紙ビル2


▪️食べる(味覚)の記憶


次に、五感のうちの味覚について探検してみましょう。銀座には400年余りの歴史がありますが、食の都として本領を発揮しはじめたのは、明治期以降です。江戸開幕とともに始まった銀貨鋳造の職人を中心として、武士、町人、両替商人、呉服の大店、江戸歌舞伎の役者たち、幕府の式楽・能役者たちが中心だった街に、新橋ー横浜間の鉄道開通を契機に、西洋文明が一気に流れ込みました。
それに伴い、銀座煉瓦亭(1895年/ 明治28年創業)に代表される洋食、資生堂パーラー(1902年/明治35年)に代表されるソーダ・ファウンテン、アイスクリームなどの西洋甘味が、新しい時代の味として人気を博し、いわゆる西洋料理が銀座の食の基盤を作ることになります。
時は移り、和食ブームとともに、2016年には和食提供の店が洋食レストランを上回りました。とりわけそれに引き続くスイーツ、ベーカリー、カフェの増加には目を見張るものがあります。

いうまでもなく銀座は国内外の有名店が集まるグルメの街ですから、グレードの高さを求めて古くからのお客様がお目当ての味を求めて銀座を訪れます。ある調査によれば、私たちがその街に再訪するか、しないかを決めるのはそのエリア内での食事経験が大きく関わっているということです。
「食」はその土地の歴史や生活文化を伝えるものですが、そこで味わう味覚は嗅覚と深く関係していて、食事をした時の料理の良い香りや店に漂う匂いが記憶として刻まれているといいます。ふとした折にフラッシュバックすることで「また行きたい」という気持ちになる、・・・なるほどと思います。


スプーン



▪️香り(嗅覚)と脳の記憶


ふとした瞬間に匂いを感じた時、あたかも今起こっていることであるように、過去の情景が鮮明に蘇る経験はありませんか?
なぜ匂いによって、過去の記憶が呼び覚まされるのか。不思議に思われる方も多いと思います。老舗洋食店の店主から「そういえばお客様が思い出話をされる時に、うちのレストランで昔食べたメニューの香りが忘れられないとその経験を話される方が多い」というお話を伺ったことがあります。

ところで、五感には格付けなるものがあるのでしょうか。「五感の序列」には定説はないというのが一般的ですが、敢えて格付けするとすれば、視覚を最上位とする説が有力で、視覚と聴覚は高級感覚、嗅覚は味覚や触覚と共に低級感覚など言われます。それは視覚は最も知性と結びつきが強いから、嗅覚・味覚は感情、本能と結びつくからだそうで、本能と結びつくものは「実用本位」なので、一般的に低くみなされる傾向にあると言う考え方も実に面白いですね。さらに、嗅覚は味覚に比べると他者との感覚の共有が困難なため、社会性が乏しいことを理由に格付け最下位に位置づけられたりもするそうです。

さて、先ほどの【本能】に関連して思い起こすことがあります。
脳には感情、本能を司る「大脳辺縁系」と、理性的な思考を司どる「大脳新皮質」の2つがありますが、五感の中で嗅覚と味覚だけが脳の「大脳辺縁系」に直接情報が伝達されることが分かっています。
「大脳辺縁系」には記憶に関連する「海馬」と言う器官があって、匂い(嗅覚)が記憶に基づくリアルな感情を伴った追体験を想起させる理由はそこに関係しているらしいのです。

そういえば、100年前のフランスの作家・マルセル・プルースト作「失われた時を求めて」の中で、主人公がマドレーヌの香りに触れ幼少期を思い出した、と言うシーンが出てきます。「プルースト効果」として一部では有名なお話ですが、記憶と匂いとの密接な関係はこの当時既に発見されていたことが分ります。


マドレーヌ


・銀座の香り

ところで、街の空気に匂いはあるでしょうか。銀座の街の香りとしては、国内外の老舗ブランドの大きな出入り口から漂うフローラルな香りをあげる方が多いとよく耳にします。銀座3丁目のラグジュアリー・クロス(ヴィトン・シャネル・ブルガリ・カルティエ)やティファニーなどのエリアに佇むと、確かに甘く芳しい香りが漂ってきます。あるいは、書画の老舗・鳩居堂や香の老舗「香十」の前を通り過ぎるとき、【香】に代表される日本の懐かしい香りが頬に触れて思わず立ち止まってしまいます。

そういえば、明治伝来の香の調査によって蘇った「西洋と日本の香りの出会い」を銀座の街の香りとして再現している香があると聞きます。復刻版「香水香」「銀座花粒」(香十謹製)は、銀座老舗専門店の伝統の技術が生んだ逸品として今に語り継がれています。



▪️五感MAXの体験

さて、これまで銀座さんぽの感動の理由について、五感探検をしてきました。私たちは、歩きながら無意識の内に感覚センサーの感度を高め、使いこなして街を体感していることがお分りいただけたのではないでしょうか。

最後に、五感の中でも特に重要な聴覚についてアプローチする前に、五感フル活動のイベント体験での1シーンをご紹介します。

かつて、銀座の街全体をステージにして一日限定「夢のレストラン」なるイベントを開催した時のことです。何が「夢」か。銀座の老舗などから調達できる限り高品質の国産食材を集めて、ランチとディナーを著名シェフに創作してもらいお客さまに味わって頂く、つまり「銀座を丸ごと食す」を体験できるとんでもなく贅沢な企画でした。

食材の中には主食となる老舗料亭が仕入れる魚介類があったり、老舗ステーキレストランの牛肉、マリアージュのための老舗和菓子屋の瓦煎餅や最中の皮、イタリア・フィレンツェ発祥のサンタ・マリア・ノッヴェロのハーブ、デザートのための銀座蜂蜜プロジェクトの銀座ハチミツ、天空水田(白鶴)の日本酒、海外ブランドのアイスクリーム、ブルガリのチョコレートなどなども集められ、奇跡の一皿(フルコース)が出来上がりました。

料理を担当下さったのは、イタリアレストラン・山形アルケッチャーノの奧田正行シェフ。もとよりあらゆる食材の組み合わせができる天才と呼ばれる料理人のイベントとあって、5万円という参加費にもかかわらず30名ものお客様が参加下さった伝説のイベントです。山形から直送される新鮮な山の幸が盛り込まれたことも大いなる魅力だったと思います。

ランチが終わり、その会場(銀座7丁目)からディナー会場(銀座1丁目)への移動の時間を使って、食材調達の店を辿りながら銀座散歩に繰り出します。参加者一同インカムを装着して、銀座の街が紡ぐ時代の鼓動につながる物語りや、それぞれの老舗店主の語りをリアルにお伝えする仕掛け。ところがその道中、なんとインカムのトラブルがあり、しばらくの時間「音」なしでのご案内を余儀なくされてしまいました。その時に、一緒に同行してくださっていた奥田シェフからこんな言葉が興奮気味に発せられたのです。

「僕は今日、すごい発見をしましたよ。インカムから街や店の物語の解説がなくなった途端、今まで生きて見えていた街が全く色のない世界に見えた。同じ建物、街・店の風景なのに全然自分の中に魅力として落ちてこない。これは、一体どういうことだと考えていたんですが、そこにあるストーリーを活字で読むこととは異なる「声」の魔力。声が脳に届くことによって目の前の景色に命が吹き込まれて、静止画が急に動き出すような魔法を感じたんです」

他の参加者や店主からも「本当にそうだ」と共鳴の声をいただき、結果的に銀座アテンドのアナウンスに思わぬ賛辞をいただくことになりました。失敗から発見した新しい驚きは、イベントの栄えある教訓として今も「銀座散歩」のかけがえのない財産となっています。

奇跡のレストラン2



▪️聞く(聴覚)ことは、心眼で見ること


「音が鳴り、空気を震わせ、伝播し、人の耳に入る」
この時に、物語が存在しうるのではないか。

目の前に広がる景色に「音」を通じて「いのち」を吹き込むことができる聴覚。ただの通りすがりのお店が、店主や職人の情熱的な語りによって「唯一無二」の特別なお店になる時、長い年月を経て培われたこだわりのある商品が勝手にその人心の内に住みついて、忘れられない思い出に変化します

実は「音」を通じて「いのち」が吹き込まれるのは、働く人々の気配、挨拶の声、大通りの雑踏、鐘の音、稲荷の賽銭箱の音、仕込みの慌ただしい音、シャッターの開閉、路地を掃くホウキの音、ウインドウを拭く音、のれんが動く気配、車のクラクション、ギギーというドアの開く音、自動ドアの開閉、EVのアナウンスなどなど、生きている街が奏でるすべての音がふくまれているからこそではないか、と思えるのです。


画像34


▪️街が人間化するということ


銀座中央通りに幾重にもクロスする、銀座の記憶を呼び起こす名のついた通り、並木通り、柳通り、マロニエ通り、松屋通り、みゆき通り、交詢社通り、花椿通り。碁盤の目の様に規則正しい通りの連なりで街は創られています。美しい形状の銀座の街を称して、縦糸と横糸が丁寧に紡がれた織物のようだ、と語られる一方、その織物に、まるでほころびに当て布をしたような異質な面白さをすべりこませている路地たちは、また別の次元の銀座らしい美意識を放っているようです。光と影、乾きと潤いを呼び込む、銀座の血流ともいわれる「路地」に潜ると、また別の銀座が見えてきます。今に至るも地下に「宝」が眠る路地や、人々の安全や繁栄を願う300近い稲荷、江戸時代から路地を守るために奮闘する「守人」たち。まさに、表面からはけっして見えない、奥底にある真の銀座です。その物語には枚挙に遑がありません。

フェルメールなどの展覧会を企画している銀座の老舗画廊の店主が、面白い話をしてくれました。

『絵を描くというのは物語を作ることと似ていて「事実を線に沿ってつなげる」ということを縦糸だとすれば、それ自体は作家にとっては不可欠な事。ですが同時に、それだけではいい絵(いい物語)は成立しない。いろいろ異質な要素をその中に招き入れることでしか、絵は生きたものにはなりません。その異質さが横糸だとすれば、それを私は「物語を人間化」することだととらえていて、銀座の街もどこかそれに似ている気がします』

私たちが銀座の街を回遊する時に感じる高揚感は、特に路地に潜った時に訪れます。バックヤードを垣間見るとその世界が身近に立体的に感じるのと同じで、表の銀座中央通りとは違う異質さに触れて、無機質な街が実は「生きている人間だった」という驚きを体感するのです。店主のお話を聞いて、その謎が解けたような気がして、今日もまた銀座の路地に迷いたくなる衝動に駆られるのです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー * ーーーーーーーーーーーーー


日本の美意識を銀座で見つける


コロナ禍で、大きく経済が落ち込む中、銀座中央通り沿いでもシャッターを下ろす店舗が目立ってきました。業態を変えるために、一時休業の老舗も出始めています。ポストコロナにむけて、どの方向から店の経営を立て直すのか、厳しい模索が続いています。

そんな中、一早く美意識の視点から、海外では手に入らない日本の美意識で激動の時代を生き抜いて行こうとする潮流が加速しています。例えば、これまでの明治維新以降の西洋の四角くデザインする手法を脱却して、自然の中にあふれる「円」を街の中に見出して行きたいというような。建築物も商品も、商いの美徳すらも新しい価値観に向かって動き出しています。


日本文化の強み                           繊細    丁寧     緻密     簡潔


五感を高揚させてフルに使って街を歩くと、今まで見えていなかった、そうした時代の風や変化までもが見えてくるようです。

銀座の街を回遊するときには、どうぞご自分の感性を信じて街の空気感を身体中で感じてみてください。これまでとは違う銀座に出会えるかもしれません。


シャボン




2. サスティナブルな銀座 BONSAIの老舗「雨竹庵」ーそこにある小さな自然ー


M18雨竹庵藤


日本の老舗はサスティナブル。その背景には「日本文化」があるように思います。もしかすると日本人はサスティナブルな生き方を古から体現しているのではないか、そんな思いを強くします。日本文化の深淵にある「自然」「風流」「侘び寂び」「神道儀式」「江戸循環型経済」などなど切り口は実に豊富です。その中から今私たち日本人に求められているのは、「日本的サスティナビリティ」を編み出し、世界に提案することではないでしょうか。

サスティナビリティ(Sustainability)の考え方

「人間・社会・地球環境の持続可能な発展」を意味しています。1972年に有識者たちのシンクタンク、ローマ・クラブが「人類の危機」レポートで世界が100年以内に天然資源の枯渇によって成長の限界点に達するという衝撃的な警告をして以来、様々な議論を重ねた結果2015年ニューヨーク国連本部で、私たちの世界を変革する「2030アジェンダ」が採択され、具体的な行動目標SDGs(17のゴール、169のターゲット)が合意されました。世界各国で国・企業・個人それぞれがその達成に向けて挑戦を続けています。

こうした機運の中で、企業のサスティナビリティという視点で見ると、日本は世界で最もサスティナブルな企業が多いという事実に驚かされます。帝国データバンクによれば、日本には創業100年以上の企業が33,000社以上あり、創業200年以上の企業も300社を超えると言います。さらに創業1,000年を超える超老舗企業も8社あり、世界全体で1,000年以上継続している企業14社のうち、実に半数以上が日本に集中し、創業年数の上位5社も全て日本企業が独占しているというのです。

経済発展とともに、本来日本の土壌に備わっている自然環境を大切にしながら共存するという考え方を、私たちはどこかに置き忘れてしまったようです。大都会の銀座に登場する「小さな自然」は、人の力によって蘇らせた奇跡かもしれません。日本の美意識を伝統でつなぐ老舗が伝える「日本文化」は私たちにサスティナビリティとは何かを問いかけてくれています。


▪️自然への祈りー 日本文化「盆栽」ー


M18 桜 雨竹庵

2021年4月、2回目の緊急事態宣言開けの束の間。盆栽の老舗「雨竹庵」の店頭には、満開の桜がお目見えしました。銀座7丁目の椿通りの軒先は一気に里山から訪れた春の雰囲気に包まれて、思わず足を止めてしまうほど華やぐのです。そしてあっという間に、桜が散りその残像を惜しみつつ、季節は変わって行きます。

惜しめどもちりはてぬれば桜花                      いまは梢(こずえ)をながむればかりぞ ー後白河院(新古今集・春下)ー                  

「あれほど惜しんだけれども、桜の花はすっかり散ってしまったので、今は梢をじっと見つめるばかりだ」

椿通りを気忙しく行き交う人々が、足を止め、一瞬その惜春に想いを馳せるシーンに出会います。老舗店主がよく口にする「私たちは商品を売っているのではない。美意識を売っている」という言葉を思い起こし、心がほっこりする瞬間です。

 

▪️盆栽に宿る 季節の移ろい

「大自然の縮図」である盆栽を「生命の祈り」として世界に発信し続けている鬼才の盆栽人・森前誠二氏(老舗「銀座 雨竹庵」会長)。「時代遅れの文化」と遠避けられ衰退の途にあった盆栽を、アップサイクルの持続可能な「日本文化」へ押し上げた立役者でもあります。その存在は世界的なBONSAIブームの火付け役となり、イタリアには盆栽学校が設立されるほどに新たな「日本文化」の発展の見本としてますます活動の幅を広げています。

森前誠二:日光山・輪王寺の作庭師を務めた「植七」の18代目。15歳で竹楓園に入門。10代後半は一心に修行の道に励み、20歳で銀座三越の竹楓園銀座本店の番頭となる。盆栽の魅力を幅広い層に伝えたいという思いから独立。「銀座森前」を開く。2006年より、新たな盆栽の理想郷を求めて「銀座 雨竹庵」「羽生本店 雨竹亭」を拠点として、盆栽文化を世界に広げる活動をしている。


その森前氏が日本人が感じる四季と盆栽について、こんなお話をしてくれました。

森前:古の日本人は肌理(きめ)細やかに季節を分け、その違いを敏感に感じ取っていました。よく言われる二十四節気。文字通り一年を二十四に分けたもので、立春(二月四日)、啓蟄(三月六日)、大暑(七月二十三日)、秋分(九月二十三日)、冬至(十二月二十二日)。ところが七十二候というのが盆栽の世界では、季節の尺度になっています。つまり一年を七十二に区切っているため、約五日ごとに季節を感じていくことになります。それは、それぞれの種の盆栽が一年で最も美しい姿を見せるのは、おおよそ五日間なのです。盆栽をやっていると一日一日の季節の移ろいに敏感になっていく、留まるところのない自然の色合いが胸に迫る体験は人間の感性を豊にしてくれるようです。


M18四季の移ろい


▪️盆栽は「対話」の芸術


森前:時間に追われゆとりのない生活は、私たちの心を奪っていきます。昔人々が持っていた「松風の音を聴く」という日本人の美意識は、今や薄れつつありますが、盆栽の小宇宙に身を置くことで豊な心を取り戻す、そんな実感をいつももたらしてくれます。心を鎮め、対座し、ひたすら眺めていると、盆栽が何かを語りかけてくるのが分かります。仕事などで疲れ果てた時に、全身の毛穴が呼吸しているのがわかるほどにじっくりと向き合うと、己の奢りや傲慢な心に気づかされたり、世間の価値観に無批判に乗じていた愚かな自分にハッとしたりします。盆栽から放たれる清浄な「気」が、身体中を駆け巡るのでしょうね。「生命」に育まれている実感で感謝の気持ちが溢れてくるのです。


M18対話


▪️盆栽が教えてくれる「自然への畏敬」

森前:盆栽の年輪には「神」が宿ると言われています。「海外の方から“日本人は盆栽や造園などで生き物を勝手にちょきちょき剪り、田畑の草花も平気で踏みつける”などと批判を受ける事があります。そんな時「剪るのが悪ではなくて、大事なことは、その剪る決断が何によってもたらされたものか、それが問われているのですよ」とお話しします。私たち盆栽人は、五感で樹の声を聴きながら、日頃から鋏みを自分で研ぎ、「今だ」という時に鋏を入れます。一年をかけて、その木と向かい合い菌の消毒をしたり、鉢替したり、ありとあらゆる手入れを施します。水、光、空気、土、そして虫除け、この当たり前に育てること、これを一番大事にしているわけです。盆栽は「作る」のではなくて「創る」もの。ギリギリに生きる、それが自然であり盆栽ですから、鋏を入れる自分も刻々と時が刻まれる中で変化し続けなければなりません。


▪️「本」と「盆栽」が語る空間  銀座蔦屋書店×雨竹庵

ギンザ・シックス内にある蔦屋書店は、コロナ禍で自然などに触れることのできない今こそ、「夏を感じてほしい」と昨年2020年夏に、本と盆栽のコラボ展を企画開催しました。

M18蔦屋書店夏1


リアルな書物・文化の空間に盆栽たちが現れた姿は、まるで活力ある人間たちが闊歩しているような生命力に溢れています。本と樹々の語らいまで耳に届くようで、思わず耳をすましてしまいました。


M18蔦屋書店2


M18蔦屋書店3


蔦屋書書店内のスターバックスには、盆栽を愛でながら本を読むスペースも用意されています。銀座の蔦屋書店開業当時から盆栽で読書時間創りをサポートしてきた老舗・雨竹庵。季節ごとの自然が銀座のカフェタイムに潤いを添えてくれています。

M18スタバ

緊急事態宣言につき、商業施設休業閉店していたGINZA SIXは5/15より一部営業を再開しました。蔦屋書店へお出かけの際には下記より店舗の営業時間のご確認をお願いします。


▪️京都に「国際盆栽美術館」開館準備

コロナ禍前には、海外のお客様が目白押しだった銀座本店「雨竹庵」ですが、今は静かに再開の時を待っています。


M18雨竹庵外国人

M18雨竹庵 店内

                  「銀座 雨竹庵」店内


2019年開催の「100年後の銀座ー銀座花伝フォーラム」で盆栽の魅力をご講話くださった森前会長。その際にご紹介いただいたのが、「国際盆栽美術館」構想のお話しです。建築家・隈健吾氏との共同企画で進められているこの企画、コロナ禍で進捗に遅れは出ているものの少しずつ実現に向けて打ち合わせを重ねているとのこと。日本の伝統文化BONSAIの発信地が京都にお目見えする日も間近です。

画像11

画像12


野原



3.  能のこころ 「風姿花伝」朗読講座 in築地本願寺                                     講師/観世流 シテ方 坂口貴信師  ー声色  謡くらべー


築地本願寺イメージ

能楽師直伝「能楽・狂言」講座の第2回目は、4月23日に築地本願寺・銀座サロンにおいて会場・WEBの同時配信で開講されました。

テーマは「風姿花伝」第二 物学(ものまね)条々。その中から今回は、「女」「老人」「直面(ひためん)」「物狂(ものぐるい)」について、口語訳(林望著「すらすら読める 風姿花伝」)の朗読とともに「現代の能楽に通じるところ、時代とともに変化してきた内容」についての講話がなされました。三大能の謡を引き合いに辿ってくださった講話内容の内、感慨深かった一部をトピックスとしてお届けします。

▪️応仁の乱を潜り抜けた「風姿花伝」

世阿弥が後継ぎのためだけに残した「風姿花伝」は、130年前まで公開される事なく歴史に埋もれた秘儀の演劇論でした。

講座開口一番、坂口貴信先生のお話に思わず前のめりになります。

「世阿弥・観阿弥親子によって、後継ぎのために残したこの秘儀の直筆原本が観世宗家に伝わっています。私は内弟子でしたから観世宗家の資料保管なども実地経験をさせていただいていたので、この「直筆」を目の当たりにしたことがあります。その書物には周りに焼けた跡があるのですが、それが応仁の乱で焼けた跡だと知り、その事実にとても驚きました。歴史を超えて今日に蘇ったこの「風姿花伝」の凄さを、ひしひしと感じるわけです」

世界最古の演劇論として世界中で評価されている「風姿花伝」を、坂口先生はどう読み解くのか。能楽界の本流を邁進する能楽師の観点からの生の稽古論など、どんな世界観が飛び出すのか楽しみは尽きません。

-------------------------------------------------------------------------

〈抜粋〉

「女」「老人」「狂物」を謡い分けるという事

ことさら難しい「女」をどう表現するのか。姿勢面の顔の角度足の運び装束、着付け、髪型(カズラ等)などが時代とともにどう変化してきているかについて詳細に語られます。時代の美意識に合わせることの大切さ、直面する課題は先生にとっても熱の入る部分です。


▪️役と声色「謡くらべ」の実演

「女」「老人」「物狂」は、いずれも演じることが大変難しいといわれる役柄ですが、際立つ特徴のある3つの演目について、謡くらべの形で実演披露してくださいました。

 役 柄          演じ方           演目     🟣「女」・・・音色を変える/裏声で無く美しい女性を表現  /「楊貴妃」から                🟣「老人」・・音色を変える/汐汲老人の風情ある表現  /「融」から      🟣「物狂」・・感情の揺れ、起伏の激しさのある表現 /「隅田川」から

普段舞台でしか鑑賞できない、生の坂口先生の謡を間近で堪能できたことに会場の参加者からはため息がこぼれます。普通では考えられない贅沢な時間。やはり能楽師が語る「風姿花伝」の視点は、演ずる側の醍醐味や悦びに溢れていて内容が濃密、聴く者に「能の美意識」とは何かという本質を届けてくれるようです。

M18講座

この講座の詳しいレポートは、次回講座直前にアーカイブで掲載いたします。 どうぞお楽しみに♡


◆ 第9回「坂口貴信之會」 チケット発売情報

と き:令和3年9月18日(土)14時開演(開場13時20分)       ところ:観世能楽堂(ギンザシックス地下3階)

演目

お 話   林 望(作家・国文学者)                  仕 舞  「賀茂」観世 三郎太  「笹之段」坂口 信男          舞囃子  「松風」戯之舞 観世 清和                      能    「山姥」 坂口 貴信
◆チケット発売開始 6月9日(水)午前10時〜                                               観世能楽堂 03-6274-6579     観世ネット www.kanze.net

チラシ1

チラシ2


画像41



4. 銀座情報

◆「香りのごあいさつ」  ー老舗「茶銀座」ー


銀座BOXをご購入くださった皆様から、それぞれの老舗を訪れてくださっていると言うお便りを頂くたびに、銀座を介しての暖かい人の交流が生まれることを心の底から有り難く感じる毎日です。

老舗応援「銀座BOX」で、銀座のカフェタイムを「金色(きんいろ)緑茶」で楽しませて下さった日本茶専門店「茶銀座」さん。先日伺ったと言うS様は「銀座BOXのお話をしましたら、たくさんのサンプルを頂戴してしまい、恐縮しましたがとてもうれしかったです」と感謝の言葉を届けてくださいました。また「茶銀座」日本茶マイスター・大渕志野さんからは「この間はご夫婦でお店に来てくださった方がいらして、本当に嬉しくて思わず熱くお茶談議をしてしまいました(笑)」と情熱的なお茶語りをする姿が目に浮かぶようなメッセージを頂戴しました。

そんな大渕さんから、心晴れやかになるお便りが届きました。

むせかえるばかりの春の香りをお楽しみください♡

▪️「新茶の手紙」


封を開ける前から、「あら、粋で素敵!」とワクワクしながら手にとってみます。風情ある封筒デザインにゴクリと喉元がなるような感覚が訪れます。封筒の上から触れると、新茶らしいザクッという茶葉の音がして、スクッとしっかり深緑に仕上がった力強い茎の様子がうかがえます。

画像22


封を開けた途端に芳ばしさが部屋中に立ち込めて、まずはゆっくりと茶葉の香りを楽しみます。とっても濃いお茶の香り。私はお煎茶も抹茶茶碗で頂くことが大好きなので、両手にお茶碗を抱えられるサイズの白地抹茶碗に、たっぷり湯を燻らせたお茶を注ぎます。そこには鮮やかな金色のお茶の世界が現れました。顔を近づけると、緑の風を含んだ茶畑にいる清々しい感覚になります。


画像23

一年に一度の出会い

新茶は、一年かけて丹精込めて育てられた茶葉とのたった一度きりの出会い。そこには、譲れないこだわりがお茶屋農家さんにあるといいます。茶銀座(老舗うおがし銘茶)の大屋知大社長「効率よりも茶葉の強さ、個性を引き出すことを優先する」と言う心意気が、あえて手間のかかる「芽重型」(がじゅうがた/一作茶を使い樹を太く育てる製法)を選ぶ姿につながります。志を同じくする情熱のある農家とタッグを組んでいくパートナーシップの美しさを、いただいた新茶の中に感じる豊潤なひとときでした。

⬇️大屋知大社長とお茶農家物語                       

「新茶の手紙」には茶畑の風が吹き抜けるような、爽やかな臨場感が詰まっていました。「透明感があるのに濃密」私もどなたかにこんな季節の手紙を贈ってみたい、そう思える体験でした。現在、「新茶の手紙」の取扱いは終了しているとのことですが、また来年春(4月〜5月中旬まで)、今度は送る側になってぜひチェックしてみたいと思っています。これからの季節には冷茶の「お茶活」など、面白い企画がたくさんの茶銀座さん。さらに緑茶の魅力に迫りたい方はぜひHPでご確認ください。

M18手紙



さくらんぼ



5. 編集後記(editor profile)

「稽古」の凄さを再発見する舞台を観させていただいた。素謡(すうたい)といって、能の略式演奏の一つで型や囃子(はやし)は一切加えず、謡だけを演奏する舞台。能舞台の目付柱に向かって五人の能楽師が斜めに座して、その前にシテの社中の女性が座る。能楽師列の中央は、観世流宗家・観世清和師である。豪華な地謡キャストに目を見張る中、「求塚」(もとめづか)が始まる。なんと、リズムに窮屈さのない、謡の節の美しさを優先させた声色だろうか。素人の芸を超えている。隣に座するワキの坂口貴信師のたおやかな朗々とした声とのセッションが始まる。素人とプロの掛け合いとは思えない謡に、一流地謡の声が追いかける。素人の謡が負けていないのである。観世能楽堂の客席は私を含めて固唾をのんで聞き惚れた。

この舞台は観世流シテ方・坂口貴信師から稽古を受けた方々のいわば発表会,「松諷会」の場である。鑑賞は一般に開放されており、多くの方々が詰めかけていた。これまで他の能楽師の皆さんの社中発表会をいくつか拝見したことがあるが、この舞台は別格である。

聞くところによれば、坂口貴信師のお父様やさらにその先代から稽古を受けられて、90歳を超えていまだ現役というメンバーをいらっしゃるとか。他に「松風」なども鑑賞させていただいたが、皆さん謡を愛する姿勢がひしひしと伝わる表現者ばかりで本当に素晴らしかった。

『稽古』とは中国語で、「稽」は考える、「古」は昔のことを意味するのだそうだ。そこから「昔に思いを馳せ、考え調べて、今どうしたらいいかを知る」という原義だそうである。コツコツと積み上げられた姿が迫力として伝わってくるその理由が分かったような気がした。

伝統とは意思である。その時代の人々が残したい、と思ったものだけが残る

その意思を私たちは今、再発見させていただいているのだと感じた。


本日も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

           責任編集:【銀座花伝】プロジェクト 岩田理栄子

〈editorprofile〉                           岩田理栄子:【銀座花伝】プロジェクト・プロデューサー         銀座お散歩マイスター / マーケターコーチ
        東京銀座TRA3株式会社 代表取締役
        著書:「銀座が先生」芸術新聞社刊

画像31








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?