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結婚式をキャンセルした場合の申込金返金交渉術(令和3年4/28更新)@弁護士

昨今、新型コロナウイルスの影響で、緊急事態宣言が発令され、先行きの見えない日々が続いております。結婚式を予定していた新婚の方々達は、結婚式を実施するのか、それともキャンセル料が安い間にキャンセルした方が良いのか判断に迫られていると思います。しかし、式場やプランナーとの契約にあるキャンセル料規定では、一度契約した後にキャンセルする場合、申込金は返金されないといった規定が置かれております。

この場合、申込金は10万円前後に及ぶなど、決して安いとは言えない金額を負担させられることになりますが、結婚式が1年前後も先にも関わらず、申込金が返金されないことに納得いかれない方が多いでしょう。

しかし、申込金の返金を求めるだけで弁護士に依頼した場合、申込金以上の費用を請求される可能性もあり、費用倒れになるため、結局、泣き寝入りされている方が多いです。

そこで、式場予約に係る申込金10万円が返金された裁判例を参考に、式場またはプランナー側に対し、申込金の返金を求める交渉術を公開します。

交 渉 術

第一 概要

実際の裁判例に基づき、結婚式場利用契約に付された申込金取消料条項について、挙式予定日は1年前後先にある場合、かかる申込金取消料条項を、消費者契約法9条1号により無効と主張し、申込金の返還を求める交渉術

第二 裁判例

 裁判例は、東京地方裁判所平成17年9月9日判決です。
 この裁判例では、挙式日である平成17年5月28日の1年と20日前である平成16年5月8日に結婚式場及び結婚披露宴会場の利用及び運営を申し込んだカップルが、契約日の6日後である平成16年5月14日に、契約を解除する旨の意思表示をしたところ、申込金10万円の返金がなされなかったとして、申込金取消料条項の無効を訴えた事例です。
 以下、実際の裁判例で判示された内容をわかりやすく適宜追記しながら、抜粋致します。
 「本件予約は、消費者契約消費者契約法2条3項に定める消費者と事業者との間で締結される「消費者契約」に該当すると解するのが相当である。
(中略)本件予約は前記のとおり消費者契約法2条3項にいう消費者契約に該当するところ、本件取消料条項は、その内容からして、消費者契約法9条1号にいう違約金を定める条項に該当すると認められる。
しかし、挙式予定日の1年以上前から、式場での挙式等を予定する者は予約全体の2割にも満たないのであるから、式場においても、予約日から1年以上先の日に挙式等が行われることによって利益が見込まれることは、確率としては相当少ないのであって、その意味で通常は予定し難いことといわざるを得ないし、仮にこの時点で予約が解除されたとしても、その後1年以上の間に新たな予約が入ることも十分期待し得る時期にあることも考え合わせると、その後新たな予約が入らないことにより、式場が結果的に当初の予定どおりに挙式等が行われたならば得られたであろう利益を喪失する可能性が絶無ではないとしても、そのような事態はこの時期に平均的なものとして想定し得るものとは認め難いから、当該利益の喪失は消費者契約法9条1号にいう平均的な損害に当たるとは認められない。
 また、本件全証拠によっても、式場側が、本件予約の後に、その履行に備えて何らかの出捐をしたり、本件予約が存在するために他からの予約を受け付けなかったなどの事情は見当たらず、他に本件予約の解除によって、式場に何らかの損害が生じたと認めることはできない。
 したがって、本件においては平均的な損害として具体的な金額を見積もることはできず、本件取消料条項は、本件予約の解除に対する関係において、消費者契約消費者契約法9条1号により無効である。」
 と判示しています。
 以下、第三において、骨子となるロジックを記載します。

第三 式場またはプランナーと交渉する際に骨子となるロジック

 1 申込金取消条項を無効と判断した裁判例の適示
 式場またはプランナーがキャンセル料規定を盾に、申込金の返金を拒否した場合、キャンセル料規定を無効と判断した上記裁判例、東京地方裁判所平成17年9月9日判決があることをまず伝える必要があります。そもそも、式場またはプランナー側が、上記裁判例を認識していない場合が大いに想定できるからです。
 かかる裁判例を示しても、返金を拒否した場合には、下記のとおり、読者の事案と、裁判例が酷似しており、キャンセル料規定は消費者契約法9条1項で無効であることを指摘します。

2 申込金を返金しないとする申込金取消料条項は消費者契約法9条1項により無効であること(下記3つのロジックで交渉してみましょう)
(1)挙式が相当先であることの指摘
 解除日から起算して、挙式は1年前後先であるため、契約日から1年前後先の式で、式場側またはプランナー側の利益が見込まれる確率は相当少ないと言えます。すなわち、その間に新たに別の予約を入れることが十分期待できます。

(2)式場またはプランナー側が、読者の予約の後に、何らかの実損害が発生していないこと
 式場またはプランナー側が、予約の後にその履行に備えて何らかの出捐を行ったり、予約が存在するために他からの予約を受け付けなかったなどの事情が見当たらないため、他に予約の解除によって式場またはプランナー側に何らかの損害が生じたと認められません。
 ここで、仮に、式場またはプランナー側が、実損害が生じていると主張してきた場合、式場またはプランナー側に対し、実損害に係る証拠を提出するよう求めましょう。

(3)小括
 以上より、申込金取消条項は、読者の予約の解除に対する関係において、消費者契約法9条1号により、無効であるため、申込金の返金を求めます。

第四 具体的な交渉方法

 まずは、一度、メールか書面(解除の意思表示を明確にする意味では、口頭で伝えるよりも、メールや書面の方が無難です。)で伝えてみて、それでも返金がない場合、 内容証明郵便(相手方へ書面が送達されたことが証明される文書)で返金を求める通知書を発送することになるでしょう。

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