見出し画像

「半径5メートル」の身近な視点から起業した女性たち。ららぽーと豊洲・イベントレポート

10月26・27日、三井ショッピングパーク アーバンドック ららぽーと豊洲にて、三井不動産とお茶の水女子大学が主催する 「&ジェンダード・イノベーション」初の起業イベントを開催しました。
 
「起業みつかるマーケット」と題した本イベント。食や服飾、アクセサリー、子どもの「おひるねアート」など、自身の生活における「半径5メートル」の視点を活かして起業した女性たちが集まり、各起業家による講演会やワークショップ、出店・販売が行われました。

オープニングでは、お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 客員研究員の鹿住倫世教授が「女性が新しいことにチャレンジし、社会で活躍していくために必要なのが、起業家精神、アントレプレナーシップです」と前置きし、「こういったイベントで、興味はあるけど踏み出せないという方に、先輩起業家の方にいろいろお話を伺ったり、女性起業家の方の歩みを聞いていただいて、ぜひ一歩踏み出していただけたらと思います」とメッセージを送りました。 

その後、ステージでは起業家によるトークセッションや、女性の起業支援を行う武蔵小山創業支援センター長らによる起業の事例紹介などが行われ、子連れの女性や買い物客らが足を止めて耳を傾けていました。

ベビーカーを押す女性もたくさん足を止めて講演に耳を傾けていました。

また、ワークショップ&ショッピング会場には2日間で20以上の事業者が出店。商品販売やワークショップを通して、たくさんのお客さんが起業家とコミュニケーションを行い、2日間とも大いに賑わいました。
 
そして、&ジェンダード・イノベーション事務局では、出店者6名の方に、起業のきっかけや、やってみて感じることをお聞きしました。本記事だけの秘話をお届けします。

「前職のITスキルも役立っています」
日々のパン・吉永麻衣子さん

パン作りをきかっけに親子のコミュニケーションを増やしてほしいという思いで、講師300人と無料のパン教室を日本全国の幼稚園や保育園で開催している「日々のパン」の代表・吉永麻衣子さん。
『パンづくりはじめてセット』の販売や、パン作りのオンライン講座などを行っています。
【公式HP】https://hibinopan.jp/ 

──吉永さんが「日々のパン」を始めたきっかけを教えてください。
 
趣味のパン作りで教室を開こうと思い、ブログを投稿したことが始まりです。「パン教室開講準備中!」といった感じで。

吉永麻衣子:パン研究家。兵庫県宝塚市出身。聖心女子大学卒業後、(株)インテリジェンス(現パーソル)を経てパンの世界へ。「ごはんを炊くような気持ちで、パン作りを楽しんでほしい」と、忙しい人でも毎日焼ける「おうちパン」を考案し大好評に。現在、幼保施設にてパン教室を開催する「日々のパン」の活動を中心に、企業や雑誌へのレシピ、書籍出版、広く活動中。Youtube、オンライン教室にてレシピ公開中。3人の男の子のママ。                   

当時は「みんなお金をもらってパン教室をやっているのに、無料でレシピを見せちゃうの?」という声もありましたが、「トースターに入れるだけ」という、とても画期的なパン作りの方法を思いつき、みなさんに知ってほしくて発信をし始めました。 色々な材料を買ったり、オーブンを予熱したり、そういった面倒な作業なく美味しいパンが作れるなんて、みんなに知ってもらわないともったいないじゃないですか。 現在のオンライン講座の受講生には、子育て世代の方や、子育てを終えてお孫さんがいるような方が多いです。忙しい育児の合間にパン作りをしたり、お孫さんと一緒にパンを作ったり。 「美味しいパンを通してコミュニケーションを増やせた」という感想をもらう時は、すごくうれしいですね。

トークショーにも登壇した吉永さん。起業した当時の状況や思いなども熱く語りました。

──実際に起業してみて、前職での経験は活かせましたか?
 
前職の人材業界での経験は、すごく役に立っていると思います。
 
例えば商品に名前をつけたり、教室やイベントで集客をしたり、業務で取り組んでいた内容がそのまま生かせることも多いです。
 
食の業界に活動の場が変わり、持っていてよかったのはITスキルです。簡単に資料をまとめてお渡しするだけで喜んでいただけます。
 
業界が変わるだけで、当たり前だと思っていた作業スキルが強みになったりするんですよね。

大事なのは「自分が何をしたいか」
tresco・高井由子さん

フラワーデザインを軸とした空間演出を事業とする「tresco」の代表・高井由子さん。
本イベントでは、彩られた素材を使って可愛い盆栽を手作りする『ミニ盆栽アートのワークショップ』を開催されました。
【公式HP】https://tresco.co.jp/
 
──高井さんが「ミニ盆栽アート」を始めたきっかけを教えてください。
 
いわゆる盆栽づくりを見ていて、「もっと簡単に誰もが作れるような盆栽ができたらいいのにな」と思ったことがきっかけです。

高井由子:千葉県に生まれ、35年に渡り花に携わる。装飾会社に入社し研鑽を積んだのち2005年に独立。自由な表現を生かして多岐に渡り活動し、ロンドン、銀座、目黒などで個展を開催。2019年には優秀美術賞を含む日本アカデミー賞最多12部門を受賞した映画『翔んで埼玉』の花空間演出を総監修。続く「翔んで埼玉2」も続投。現在はWEBスクールを開設し、後続育成に注力している。

いろいろなものがアートになるんだということを伝えたくて、まずは自分で小さく作ってみました。そうしたら可愛いなって。
 
これならいろいろな人に楽しんでもらえるなと思って、アート事業の一つとして、体験型のワークショップを始めました。

──前職もアート業界でお仕事をされていたのでしょうか。
 
20年ほど、テレビセットの装飾を作る会社にいました。ドラマやCMの装飾を作っていたのですが、もっと自由に表現したいと思って独立したんです。
 
起業して、表現の幅が広くなったのはもちろんですが、一番良かったのは、自分の時間を自由に使えるようになったことかもしれません。

──起業する上で、備えたり考えたりしておくべきことはありますか?
 
まず大事なのは「自分が何をしたいか」だと思います。
 
意外と時間をとって「自分がどう生きたいか」を考えることってないじゃないですか。
 
起業をしても好きなことじゃないと続かないと思うので、まずは「自分が何をしたいか」「どんな人生を歩みたいか」といった点を考えることから始めるといいと思います。

子供に「ママはいつも楽しそうだね」と言われます。
つながるキッチン・中原麻衣子さん

食育と農業を軸とし、お箸の持ち方教室やこども向け料理教室、熊本県山都町の棚田のシェア制度「つながるシェア田」など、日本の食文化を過去から未来へつなぐことを目的とした事業を行う「つながるキッチン」。
本イベントでは、2年かけて開発されたこどもの手の成長に合わせやすい5ミリ刻みのお箸『きみの箸』の販売を行いました。
【公式HP】https://tsunagaru.kitchen/
 
──中原さんが「つながるキッチン」を始めたきっかけを教えてください。
 
きっかけは、東日本大震災でした。
 
それまでの価値観が大きく揺らいで、会社を辞めて起業しようと決めて、お料理教室から始めました。

中原麻衣子:台所文化伝承家/受験フードアドバイザー。『つながるキッチン』代表著書:「いまさら聞けない箸の持ち方レッスン」(主婦の友社)『食』・『農』を軸にこれまで6,000組以上の子供と家族に向き合い、日本ならではの四季・歳時・旬の恵みに感謝し、今生きている人だけ「つながる」のではなく過去から未来へ日本の食文化と想いを繋ぐ取組をする。 TV・新聞・ラジオ・雑誌等、メディアにも数多く出演。プライベートは二児の母。                

当時は「サロネーゼ」という綺麗なお部屋でアフタヌーンティーを楽しむようなスタイルの教室が流行っていましたが、それを見て、私がやりたいこととはちょっと違うなと思ったんです。
 
西欧文化ではなく、日本文化を伝えたい。震災を通して、自分は日本のことが大好きで日本人であることに誇りを持っていると再認識したんです。
 
日本文化のスペシャリストになろうと考えて、料理教室だけではなく、お箸の持ち方教室や食育などに事業を広げて、今年で11年目になります。

──10年以上事業を継続することは、簡単なことではないと思います。
 
続けられているのは、周囲のみんなの助けがあるからです。1人では何もできませんから、これに尽きると思います。
 
起業して右も左もわからない頃から今まで助けられているのは、アロマやジュエリーなど、別の分野で起業している友人です。
 
分野が違っても悩みは一緒だったりするので、お互いに学びを共有しあって、手を繋ぎながらここまでやってこれたなと思います。

以前は大手企業で秘書をつとめていたという中原さん

また、家族の支えも大きいですね。パートナーも応援してくれていますし、子供も「ママはいつも楽しそうだね」と言ってくれています。
 
今は好きなことがあれば、何でもビジネスになる時代です。ときめく何かがあるのなら、たった一度の人生!一歩チャレンジしてみるのも素敵なことなんじゃないかな。わたし自身も、半径3mにいる人を大切にしながらチャレンジし続けていきたいな。

「ありがとう」の連鎖で今がある。
命名書画家 つむぎ・近藤麻美さん

「name couture つむぎ」は、赤ちゃんに贈る命名書を作成する事業です。
漢字の意味や響き、成長して欲しい方向性をヒアリングし、和洋折衷のデザインで独自の命名書を創作することで、ご両親の愛や願いを形にします。
【公式HP】https://name-tsumugi.com/
  
──命名書画家とは何でしょうか?
 
命名書画は、赤ちゃんが生まれた時に作る命名書と絵を組み合わせた作品です。

 近藤麻美: 書道歴30年。雑誌&モバイルサイトの編集・執筆業に約15年携わりながら、書の制作活動に励む。2017年からは命名書画家として活動をスタート。約3,500名以上の名付けの想いをカタチにする。フォロワー数6,000人超のインスタグラムでは、作品とともに名づけ事例も発信中。世界ユネスコ無形文化遺産「妙見祭」題字、アウトドアブランド「テンマクデザイン」題字を手掛けるほか、書籍、店舗、ブランドロゴを揮毫。                       

例えば、名前に込めた思いであったり、ご両親が付き合い始めた日に見た花火大会の思い出だったり。 親御さんにとって、子育ての初心に戻れるような作品をお届けしています。 ──「命名書画家」を始めたきっかけを教えてください。 SNSに自分の書をアップしていたところに、友人が「命名書を書いてほしい」と言ってくれたのが始まりです。 元々は雑誌編集者からフリーライターとして生計を立てていましたが、その頃ちょうど「書(しょ)で食べていきたい」と考えていました。 ただ、何を書くかは決まっていなかったんです。自分が書いていてウキウキしたり、役立っている実感を得られるものは何だろうと。 そこでたまたま友人から依頼があって、親御さんの思いが込められた命名書って、素敵だなと思ったんです。

──起業する一歩目としてSNSで発信されていたんですね。
 
そうですね。
 
私自身、起業しようと思って始めたというよりは、「ありがとう」と言っていただけることの連鎖、積み重ねで今の形になりました。
 
自分が没頭できる、ずっとしていても苦にならないようなことをSNSで発信していくのは、初めの一歩としてすごくいいんじゃないかなと思います。

必ずしも「株式会社である必要はない」
レザー雑貨 pato・山本樹理さん

アパレル起業を経験された山本樹理さんは、『革のコロコロポーチづくり』のワークショップと革を使用したアクセサリーブランド「rij+u」の販売を行いました。
武蔵小山創業支援センターの「チャレンジショップ」などの仕組みを使い、子育てをしながら事業をされています。 
【公式HP】PATO(@pato_tokyo) • Instagram写真と動画 rij+u(@riju_tokyo) • Instagram写真と動画 
 
──山本さんがレザー雑貨の事業を始めたきっかけを教えてください。
 
実は一度、独立してアパレルOEMの会社を運営していました。

山本樹理:品川区在住。20代より某アパレル会社に勤め、売場作り・販売・企画デザイナーを経験。30代で下町にある職人へデザイナーとして勤めてモノづくりを学ぶ。自分自身がほしい!を大切に、ありそうでなかったモノ、身につけると笑顔たくさんの1日になるような作品を、古いミシンや道具をつかいながらカタチにする手仕事。                       

そこでパリコレに出すような革製品を作ることもあったんですが、結婚を機に会社を閉じたんです。子供を産む年齢としてもそろそろだったので、家庭に集中しようと。 でも、子供が生まれてから、この子が大きくなるまで自分がやりたいことを我慢し続けることもないかなと思って、個人でいまの事業を始めました。

──2回目の事業立ち上げの際に、変化は感じましたか?
 
初めて起業した時は「大手企業との取引を行うには株式会社じゃないと厳しい」と言われたのですが、いま私は個人事業主ですし、必ずしも株式会社である必要はなくなってきていると思います。
 
また、起業に関するサポートも、身近になってきていると感じます。例えば自治体の起業支援施設などで無料で起業について教えてもらえる環境があるのもいいですよね。
 
私の場合は、通りすがりで品川区の武蔵小山創業支援センターを見つけて、相談に乗ってもらったところからスタートしました。支援センターは、丁寧に背中を押してくれるような場所でした。

例えば起業をしたいという話を家族とするにしても、やっぱりお金が一番気になるポイントだと思うので、無料で起業相談できるところから始めてみるのもいいのかなと思います。

武蔵小山創業支援センター長
藤井あい子さん

武蔵小山創業支援センターは、女性の起業支援を主眼に置き、2010年に設立されました。セミナーや相談会などを通じて経験豊かなスタッフが起業家をサポートされています。品川区民の方以外でもご利用いただける施設です。
【公式HP】
https://musashikoyama-sc.jp/
 
──創業支援をする立場から、女性起業家は増えてきていると感じますか?
 
コロナ禍を機に、会社を辞めて起業する方、副業として自分の事業を始める方が増えている印象です。
 
意外に感じるかもしれませんが、震災後やコロナ禍で不景気の時、世の中が不安定になった時に、起業の相談が増えるんです。
 
「何か自分にできることはないか」とか「空いた時間を人生の役に立てたい」と考えるようですね。

藤井あい子:エキスパート・リンク株式会社 IVP事業部 事業部長 品川区立武蔵小山創業支援センター センター長。大阪出身。幼少期にフランスなどの海外生活経験があり、多種多様な人種・宗教などダイバーシティを経験。大学で経営学を学び卒業後、不動産デベロッパーにて営業・企画・販促経験を積み、その後女性のライフステージに関する、ブライダル、子育て支援事業に従事。現在は、関東圏を中心とした行政機関での創業支援、セミナー・イベント企画に携わり、武蔵小山創業支援センターでは、センター長として女性起業家支援を行っている。            

 ひと昔前のようにお金をかけてホームページを一から作らなくても、簡単にECサイトを作れたり、こういったポップアップに短期出店で試してみたり。
 
選択肢も豊富になってきているので、気軽にチャレンジできるのかなと思います。
 
──武蔵小山創業センターはどのような取り組みをされているのでしょうか?
 
起業を考え始めた方の相談に乗るところから、具体的な事業計画を作るところ、テスト出店の機会を提供するなど、幅広く支援をしています。
 
起業支援のプロである中小企業診断士や自分で事業を行っているメンバーが相談に乗っているので、やりたいことの深掘りやスキルの棚卸しとしても良い場なのかなと思っています。
 
また、事業の相談に乗るだけではなく女性起業家のロールモデルを紹介することや起業仲間と出会う場を提供しています。
 
「創業支援センター」というとハードルが高く感じるかもしれませんが、気軽に使っていただけたらなと思います。

藤井さんが登壇されたセッションの様子はこちら。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?