銀沖小説[恋で手に入れる副長の座]

●銀魂の坂田銀時、沖田総悟のカップリング小説です●BL展開ですので苦手な方は回避お願いいたします●銀魂©空知英秋の二次創作で妄想です


いける!これなら息の根を止められる!!
そしてついに手に入れられる副長の座!!!

俺が土方抹殺の最適な方法を知りえたのは、本人の言葉から。クソ土方と近藤さんが話しているところを聞いてしまったのだ。

「断っていいよなトシ。総悟に見合いなんてまだ早えと思わねえか」
そんな声が廊下まで聞こえてくる。

久しぶりに局長室に呼ばれて俺は嬉しかった。
近ごろの近藤さんは城に上がることも多く、松平のとっつあんと出かけてばかりで会えるのが久々だ。

ビックリして欲しいだけの単純ないたずら心で気配消して局長室に近づいた。
部屋の外にもれ聞こえてくる近藤さんの言葉。

「俺はなあ。見合いじゃなくてよ、総悟には好きになった相手と幸せになって欲しい。俺とお妙さんのように運命の恋に出会って恋愛をおう歌して欲しいんだよなあ」

「いやアンタ、おう歌はできてねぇだろ。単なるストーカーなんだから」
土方が冷静にツッコミ入れている。
チッいたのかよ。まあいるとは思ってたけど。

「断っていいんじゃねぇのか。ミツバが生きてたら近藤さんと同じように考えるだろうと思うしな」
低く唸るような声で、深い優しさをはらんで。そんな言い方で姉上を語るんじゃねェ。

「トシは相変わらずミツバ殿に一途か。それだけ惚れこめる相手が総悟にも見つかるといいな」
近藤さんの声は明るい。障子の外で聞いているだけの俺にも顔が想像できる。
きっと、いつもの全てを包み込むような温かい笑顔で話しているんだろう。

「バッ、ばか言うなよ近藤さん!…身内代わりに総悟を見てるんだから、そんな気がしただけだ!」
「そんなこと言ってえ~、赤くなってるよトシ」「からかうんじゃねぇ!」
近藤さんと土方がじゃれ合っている。

いつもなら、俺だって近藤さんと楽しくじゃれ合いてぇって気持ちが強い。
でも今は複雑な気持ちだった。
土方がまだ姉上を想ってくれていることを嬉しく思えるような、苦々しく思えるような。

二人ともなぜこんなに一人の女に心を傾けられるのか。
俺には分からねえ。どれも大して変わらねえだろ。
世の中、姉上以外の女は全員メス豚で価値を感じたことがない。
あ、俺、そう考えると誰かを惚れたはれたの意味で『好き』になったことねェんだな。

「よし決めた。松平のとっつあんに見合い断る連絡をする、そのことを総悟にも伝える。惚れた相手が見つかるまで俺たちが見守ろうなトシ」

「そうだな。でもいざアイツが恋でもしたら、相手を紹介されでもしたら。…俺は心臓止まるんじゃねえかと思うよ近藤さん」
「はははっ、俺は楽しみだぞ。トシは心配性だな」

…見つけた。俺はついに見つけてしまった!!!
土方抹殺の最適な方法を。
俺が恋愛して相手を土方に引き合わせる。それで奴の息の根、心臓をを止めることができる。なんて簡単なんだ!すぐに副長の座が手に入る。


がらっ。
わざと大きな音を立てて障子を開けた。
「なに人の噂話してんですかィ、近藤さん土方さん」
そう言って局長室に入って二人の話を聞く。


見合いを断る話しをされたが俺はほとんど聞いていなかった。さっき盗み聞きしてたから知ってまさ、と思いながら。

「総悟、おめぇ、そのなんだ…好いた相手は…いんのか?」
土方がちらっちら俺を見て聞いてくる。タバコを吸って吐くペースが異常に速い。
緊張してんじゃねェよ腐れ副長。

「さあ、どうでしょうねェ。そんな相手が出来たらちゃんと紹介しまさァ」
二人に意味深な視線を送っておいた。

さあ、土方、楽しみにしてなせェ!
俺が恋して、相手を引き合わせて、アンタの心臓を一発で止めてやる!

+++++++

と意気込んではみたものの。
ここ何日か考えているのに具体的な方法が思いつかない。どんな相手がいいのか、恋愛をどうやって始めたらいいのか、全く想像がつかない。

ただ、どうせやるなら一発で土方を仕留めたい。相手にゃそれ相応のインパクトがあった方がいい。
姉上を超えるような美人?姉上に似た女?いや、居ねえな。姉上に匹敵するような女は。
逆に醜女か、とんでもねぇ天人か。それともスナックお登勢のババアくらいの年上か。


…旦那。


そうだ万事屋の旦那!
男色、衆道。これでまず打撃を与えられる。真選組でも一部にゃ居るが土方にその理解があるとは思えねェ。しかも、なんだかんだ似てるくせに犬猿の仲である旦那連れて行ったらショックで死ぬだろ。これなら一発だろ!

最善の相手を見つけられて俺はほくそ笑む。今から起こることが面白そうなこといっぱいで、公園のベンチで一人浮かれて声を出して笑っていた。
「こりゃ楽しみだ、ははっ」

「何?やけに嬉しそうじゃねえの」
後ろに大きな気配、俺を包み込むような。
思い起こしていた張本人が後ろから俺の顔を覗き込んできて、今まで以上に嬉しい気持ちが高まる。

こんなこと無くても俺は旦那と話すのがすこぶる楽しい。巡回に出ると旦那をなんとなく探してしまうこともあるし、出会うとどっかで甘味食べてサボったりして。二人でいるのが楽しいから巡回の相棒をいつもまいて一人になるのは、攘夷浪士おびき寄せるためと言いながら、本当は旦那と過ごしたかったからだったりもする。

「旦那!いい所に来やした!!アンタのこと考えてたんでさァ」
この計画を伝えたら、旦那だってきっと面白がってのってくれる。旦那の嫌いな土方をやり込めるんだ喜ぶだろう。
俺は少し避けてベンチの空いた場所をぽんぽんと手でたたく。ここに座りなせェと示すように。

「…なにそれ。恋しくなっちゃった?」
隣に座った旦那はそんなこと言った。
コイシク?どんな意味だっけか。まあ、どうでもいいや。

旦那はそのまま俺の目をのぞき込んでいる。
俺も旦那の目をのぞき込む。

こうするのが好きだ。
坂田銀時は死んだ魚の目、なんて言われているけれどその奥に見えるものがある。
ぱっと見、輝きなんて見えねえ半開きの目に近づくと、瞳に俺が映る。
映っている俺の奥の奥、透かすように見ていると、ゆらゆらと小さな炎が見えるときがある。
それを見つけるとカアッと身体が熱くなる、俺だけが知りえた宝物見つけたみたいでとてつもなく嬉しくなる。
この炎はなんだろう。

「沖田くん、近すぎねぇ?銀さんだけにしといてよ、その距離感」
ハッと気づくと、あと10センチで顔がくっつくような近さだった。

「すいやせん旦那つい。面白れぇ顔だったもんで」
ぱっと離れて座りなおす。

「いやいやいや、面白くはねぇだろ、カッコイイだろ。俺だってサラサラストレートならお前に負けてねぇよ、サラサラストレートなら」
旦那が俺の髪を撫でながら言っている。
アンタだってその距離感、おかしくねェですかィ?

「ちょっ、やめなせえ!いくら憧れてるからって触りすぎでさァ。大体顔自体がとぼけてて面白れぇんだから天パは関係ねーでしょうが」
旦那がむっとして手を引っ込めた。なに若干機嫌悪くなってんでィ。
そうだ、あのこと話したら機嫌直んじゃねえかな。

「俺、旦那に折り入って話があるんですが、今から万事屋行ってもいいですかィ?」

「めんどくせえ事なら嫌だよ俺は」
すぐにそっぽ向く旦那。俺って信用ねえな。
まあ、自分の行動振り返ったら、この反応されるのは分からなくもない。

「違いやす。旦那にも得がある話しでさ。ガキどもに聞かれると厄介なんで二人きりの方が有難てぇんですが」
そう説明すると旦那は少し息をつめた。

「っ…明日の昼過ぎに来い。アイツら外に出しとくから。今日はダメだ、猫探しの途中なんだよ。お前見つけて来ちまっただけだかんな」

おーい、銀さあーん、どこ行ったんですかー。
銀ちゃぁん、どこでサボってるネ!
なんて声が遠くから聞こえてくる。

「それなら14時にお邪魔しまさァ、俺もちょうど明日は非番なんで」
約束を取り付けて、猫探しに戻る旦那を見送る。
さあて、依頼料はどれくらい持っていったらいいのかね、なんて考えながら俺も巡回に戻った。

+++++++

「おじゃましやすって、なんですかィ!アンタその恰好!くはっ」
約束の時間通りに万事屋に着き、扉を開けると旦那が出迎えてくれた。
んで、手土産の大福と、恋の相手になってもらうための依頼料を持ったまま、玄関で爆笑した。

だって旦那、白の紋付き袴!合コンですかィ?バベルの塔ですかィィィ

「腹抱えて笑うんじゃねーよ!大事な時にはこれ着んの!」
はあっおかしい。…大事な時って。旦那も同じくらい土方を嫌いだったのか。

とにかく上がれと言われて、笑いが止まらない状態で居間のソファに座った。
茶を持ってきた旦那を見て、一旦落ち着いた笑いが再びこみ上げる。

「くっ、はっ、おもしれえ。本題に入れねえ」
「そのための衣装なんだから。いいから笑ってねーで本題を言えよ」
涙溜めて笑う俺に旦那が促す。
そうだ、衣装のこと笑ってる場合じゃねぇ。土方抹殺計画を話して旦那を喜ばせてあげよう。

「旦那、俺の恋愛相手になってくだせェ」
ようやく笑いも落ち着いて、真剣な顔して言う。
珍しく旦那は大福にもお茶にも手を付けずに、真正面で俺の話を聞いている。

そして少し俯き、絞り出すような聞き取りにくい声で
「ついに…。その告白、待ってたよ銀さん」
とかなんとか言った。

俯いているので表情は見えなかったが、やっぱり土方が居なくなるのが旦那も嬉しいのだろうと直感した。

「依頼料は旦那んちの家賃1ヶ月分で大丈夫ですか?足りねぇ時のために余分にも持ってきてやすが」
金の入った封筒を差し出すと、旦那がばっと顔を上げる。
その顔は小さな怒りをたたえているように見えた。

「…なんのつもりだ」
あり?顔だけじゃねェ。声も怒ってる。

「説明不足でした、すいやせん。ほんの少しで良いんでさ、俺の恋人のフリして土方さんに会ってもらいたい、それだけで。面倒なことにはなりやせんから」

「フリ?土方?なんで?」
矢継ぎ早に問いかけられる。旦那の気圧に押されて、なぜか饒舌になる俺。
なに焦ってんだ。

「こないだ聞いちまったんでさ。俺が恋したら土方は心臓が止まるって。こんなことで念願叶うなら最高だと思いやして。旦那が相手なら土方へのインパクトも強いだろうと考えたんでさァ」
そうだ。こんな簡単なことで土方をこの世から消せて、副長になれる宿願叶うなんてラッキーだと思ったからだ。

「それで?」

「あの、そ、それで。旦那なら俺もいいし、依頼にできるし。頼みに来やした。…なんでそんなに怒ってるんですかィ旦那。勝手に依頼料決めて持ってきたからですかィ?」
そうだ、きっと了承も貰っていないのに依頼額を決めたことに腹を立ててるんだ。万年貧乏の旦那とはいえ、ちゃんと足元見ずに額は交渉してから決めて出せば良かった。

「依頼なら受けねぇ、金もいらねぇ。何で怒ってるのか分かんねえのか?」
バツが悪かったが、顔を上げて旦那を見た。
怒りは黒いオーラのとして旦那を包んでいるようにさえ思えた。怒りと合わせて悲しみのような感情も顔から見て取れる。

「わっ、分かんねェです…」

「…もてあそぶな、人の心を」
旦那が顔を左に向けてしまった。目を合わせたくないということか、あの炎を今日は見れないのか。

「もてあそぶって…どういう意味ですかィ?」
頭の中が真っ白になっていた。
思い返せば俺はこんなに旦那に怒られた記憶がない。ただの知り合いとはいえ、長い年月過ごしてきたが旦那はいつも俺に優しかった。チャイナ娘をいたぶって葬式ごっこで遊んだ時でさえ。
こんなに…。こんな風に敵意のような感情を向けられたのは初めてだ。だから思考停止してしまう。

「お前は俺を傷つけたんだ、分かんねえのか」
静かな物言いなのに、怒鳴られる以上に辛い。そして、胸が苦しくなって何も言えなくなる。

「…もう帰れ」
それだけ言って旦那は立ち上がり、和室に籠って戸を閉めてしまった。

一人になった俺は「おじゃましやした、すいやせんでした旦那」なんとかその言葉を絞り出した。
旦那に声が届いたのかは分からない、でも何か言わないとダメだと本能が忠告していたのだ。


そこから確かに万事屋を出て屯所に帰ってきたはずなのに、どこをどうやって帰って来たのか記憶にないほど俺は落ち込んだ。

+++++++

巡回にも出ずに、部屋でアイマスクしてふて寝する。
出ないというより、出られない。旦那に会うのが怖かった。


俺が旦那を傷つけた。

そう言われてもう一週間以上経つが、いまだに罪悪感や後悔を抱えている。
なぜ傷つけたのか。その理由が理解できないことも俺を苦しめていた。

人を斬って罪悪感や後悔したことはほぼ無い。
近藤さんを護るために必要な事だったからだ。俺なりの正しさを貫くのに必要な事だったからだ。せめて痛みは少なくしてやろうと綺麗な太刀筋で斬ってやるくらいの気持ちだった。

俺の身体に太刀筋はつけられていない、殴られてもいない。
それなのに、息苦しくて締め付けられるようで圧迫されているようだ。怪我なら日に日に痛みは薄らいでいくのに、逆だ。日ごとにしんどさが増していく。これが心の傷の痛みなんだろう。旦那にも同じ思いをさせちまったのか、俺はバカだな。

ああ。体を傷つけるより、心を傷つけることはこんなにも辛いのか。それとも大切な人だったからか。
目が熱くて重たい。アイマスクに水が滲んで冷たさが広がる。また泣いちまってらぁ。


「入るぞ総悟」
間近に土方の気配。仕事サボってんのに怒りの気配が感じられないのは珍しい。

「体調が悪いのか?」
タバコのにおいがしない。何気ぃ使ってんでィ、気色悪い。

「なんでもありやせん」

「じゃあなんで、ここ一週間、今にも死にそうな顔してんだ。珍しく何も仕掛けて来ねえしな」
俺が死にそうな顔?土方にさせたかったのに、俺がそうなっちまうなんて世話ねえな。

急に視界が明るくなって驚く。油断した。急にアイマスク上げられて、顔見られた。
「ちょっ!何すんでさァ!」

「目が赤けぇじゃねえか。その涙目ここんとこ何度も見てる。何にも無い訳ねえだろ」
子供のころからの付き合いってのは、これだから嫌なんでィ。隠し事ができねえ。

「人の心を傷つけたら、どうしたら良いんですかねィ」
弱気になっていた俺は、土方なんかに相談してしまった。

「…詫びろ、心から。相手の気持ちをしっかり聞いて受け止めてやれ。それで自分の正直な気持ちを全部伝えて受け入れてもらえるよう努力しろ。それで解決できるかは分からねぇが、傷を癒すきっかけくらいにはなるだろ」
誰をどう傷つけたのか聞いてこない。こんなことを初めて悩んでいる俺を貶したりしない。土方は嫌味な大人だ。

「アンタは人を傷つけたこと…あるか」
さんざんモテるのに決まった相手を作らない。数々の女泣かしてんだから、あって当たり前だった。バカな事聞いたと思って自己完結する。

「数え切れないほどあるな。ただ、傷つけてることに自分が傷ついて辛い思いをしたのは…ひとりだけかもしれねえな」
タバコを吸いだした土方は部屋の外に目を向ける。

「自分の手で本当は護りたかった、大切な人ってことですかィ?」
あの人を思い浮かべて問いかける、皮肉も込めて。

いつもなら誤魔化すのに、今日は正面切って土方が答える。
「そうだ。たとえこの世に…近くに居なくても生涯かけて幸せを願いてえと思うような大事な奴だ」

姉上は幸せ者だと言って天国に旅立った。もしかしたら、自分の想い人にこんなにも愛されていることを知っていたのかもしれない。姉上が許しても、俺は許さねえけど。

「S発揮して精神的に責めるのも得意なお前がそんなに落ち込んでんだ。傷つけちまった相手はよほどの大事な奴なんだろ?時間かけるより今すぐ謝りに行け。生きてるうちは何度でもやり直せるし、好きなだけ話し合えるんだからな」
この世に居ない相手を想って独り身貫く男の言葉は重いな。

「そうしやす。謝って、聞いて、話して。大事に思ってること後悔ねえように伝えてきやす」
そういって立ち上がった俺に土方は何も言葉を掛けなかった。

こんな赤く腫れた目じゃ会えねえからと洗面所でバシャバシャ水で顔洗って、両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。

自分の気持ちや、旦那があんなに怒った理由は整理できねえけど、とにかく謝りたい。その一心で他にはなにも考えずに万事屋に走った。

+++++++

万事屋の階段上ってインターホンを押す。
こんなもん使ったこともねえのに、いつもと違っていきなり入るのを躊躇した。

その場で待っていると旦那が玄関に近づいてくるのがガラス越しに見えた。
緊張が高まる。

どたどたとこちらに向かってくる足音。
そして「はーいカギ開いてっけど、どちらさん?」
のんびりした声が中から聞こえてくる。

「沖田です、沖田総悟です。旦那すこし話できやせんか」
なんとか振り絞って声を出してみたが、外から中まで聞こえたのか聞こえなかったのか。
足音は止まっていたのに、反応がなかった。

「謝りてェんです!お願いしやす!」
今度は大きく声を張る。気持ちも一緒に旦那のいる場所まで届くように。

ガラガラガラッと戸が開いた。
「入れよ、誰もいねえから」旦那は少し悲しそうな顔で俺を迎え入れてくれた。

この前と同じように向かいに座る。旦那はただ座って俺の様子を見守ってくれているようだった。
「ちゃんと謝らせてくだせェ旦那。俺、旦那を傷つけるなんて思いもしねえで、すいやせんでした」
深く頭を下げる。顔が直視できなかったせいもある。

「はぁ…なんでいきなり謝んの?俺が怒った意味分かってないんだろ?」
ため息とともに静かに旦那が言った。怒っているというより、呆れているのだろうか。

「分かってねぇです。でも、旦那に傷ついたって言われてから自分でどうしようも出来ねえくれえ落ち込んで気付いたんです。大切な人を傷つける酷さや、心の傷の痛みを。だからとにかく謝りたかったんでさァ」
だめだ、話しながらまた目が熱くなってきた。情けねえ、傷つけたのは俺なのに。

「それで?土方とはうまくいったのか?」
なんでここで土方が出てくんの?出かけた涙も止まるほど唖然とする。

「へ?なんの話ですかィ?」
ビックリ顔の俺に旦那もビックリした顔している。

「え?俺に金で恋人のフリさせて土方妬かせたかったんじゃなかったの?沖田くんへの気持ち知ってて俺のこと弄んだんじゃなかったの?」

「何でそんな風に受け取っちまうんでさァ。そりゃ土方が俺が恋でもしてりゃ心臓止まるって言うから、恋人紹介して殺してやろうとは思いましたけど、妬かせたいなんてこれっぽっちも思ってやせんぜ。アンタどんな思考回路してんです!何でそんなこと考えたのか、いちから説明しなせェ!!」
全く筋の通らない妄想をしていたらしい旦那に怒りが込み上げてきた。
だいたい、旦那の気持ちってなんだよ!何も俺は言われてねぇ!

「あ、いや。沖田くんがさ、俺のことじっと見つめて二人で話したいなんて言うからてっきり告白してもらえるもんだと思っちまってたんだよな。そしたらお前、金だして恋人のフリとか言いやがって。しかも念願叶うって、それ土方とくっつきたいってことだろ?」
これは俺の言葉不足が悪いのか、旦那の勝手な思い込みが悪いのか。
お互い想っていることをきちんと話してこなかったのがいけなかったのか。

「すべてが勘違いでさ。まずその話だと俺が土方さんを好きみたいになってやすけど、それは天地がひっくり返っても絶対にありやせん。心臓止まって土方が死んだら俺が副長、その念願を叶えたいだけ!」
腰を浮かせてずいっと顔を近づけて勢いよく言ってやると、旦那は小さく「はい」と頷いた。だからそのまま続けて質問する。

「俺と恋人のフリするの、そんなに嫌だったんですかィ?告白ってなにを言って欲しかったんです?」
そうだよな、俺みたいな男と恋人のフリなんて旦那は金を貰ってもイヤだったんだろう。そう思ったら怒りは減って悲しみがどこからか湧き上がってきた。

俺はソファに座りなおして項垂れて、この感情を持て余す。

旦那は柔らかく話し出す。ひとつひとつお互いに理解できるように。
「そりゃ、惚れてる相手に金で恋人のフリしてくれなんて言われるの嫌だろ。それは本物の恋人になれないってことと同義だからな」

男だからじゃねえの?恋人のフリ自体が嫌だったんじゃなく、本物の恋人になれないから嫌だったのか?
あと、惚れてる相手って…。

「勘違いして悪かったな。俺と同じように、沖田くんも俺を好いてくれてると思ってたわ。あんなに懐いて近寄ってくるし、明らかに他の奴らと俺に対する態度違ってただろ」

確かに、こんなに傷つけてしまったことを悔やんだのは、旦那が俺にとって特別で大切な人だったからだ。
旦那に近づいて瞳を見るのも、頭撫でられるのも好きだった。他愛のないことを話す一緒にいられる時間が幸せだった。

他の誰にも感じたことのないこの気持ちが好いているということなんだ。それを俺より先に旦那は気付いていたんだろう。

「ずいぶん前からお前のこと好きだったけど、こう長く気の合う知り合い程度の関係性だと踏み込めなくてな。あわよくば沖田くんから好きって言ってくれねえかなって、銀さんずるかったわ。ごめんな、忘れてくれ」

俺だって旦那のことが。きっとずいぶん前から特別で大切で好きだったのだ。はっきりと自覚したのは今だけれど。

今度は淋しそうになった旦那の顔をちゃんと見たくて、隣に座って顔を近づける。
「忘れやせん。今やっと俺は旦那が好きだって自覚したんですよ。これから両想いの始まりじゃねぇですかィ」

ちゅっ
鼻の先に軽くキスしてやった。

「いいのか?俺で。惚れた相手にゃ独占欲強えし、性欲強えし。長い間片思いしてたんだ、そのぶん離してやれねえよ、しつけえよ?」
俺の腰に手をまわした旦那に引き寄せられる。
旦那の太ももの上に俺が座るような形になるほどくっついている。
目を見れば、旦那の瞳に大きく俺の顔しか映らないほどの距離。

「楽しみにしてやす。俺にとっちゃ初めての恋なんで、お手柔らかに」
旦那の瞳の奥に炎が見える。いつもよりも大きく見えてゆらゆら揺らめいている。この炎は愛情の証だったのかもしれねえ、それとも情欲の灯火か。

こんなに近くで観察できるのが嬉しくて、唇重ねられたのに目を閉じられないでいた。

「ちゅーしてんのにそんなに凝視すんなよ。まあ、その態度もやらしくてソソるけど」
いつも以上の色気を放つ旦那の顔に、俺はやられた。

「好き、だんな」
天邪鬼の俺が、そんな素直な気持ちを言えるなんて驚いた。
すげえな旦那。恋愛感情がすげえのか?こんなにもすぐに人を変えるもんなのか?

自分に驚いたが、気持ちのままに行動することはこんなにも心地がいいんだと知る。

だから、もう一回あの薄くて力強い唇に触れたくて、もっと味わいたくて。
旦那の首に手をまわして、自分から口づけた。

何度も重ね合わせて、口の中まで触れ合って、腰がしびれるような水音立てて。
時々息継ぎしないと苦しいほど貪りあうキスだった。
俺のファーストキスだったのに旦那のせいでえらくエロいものになってしまった。

「今日から本物の恋人な」そう言って旦那はまだ続ける。

「甘くて、うまい」時々そんなこと言われながら長い時間、俺たちは互いを求めあった。

+++++++

あれからしばらく経ったある日。
土方の心臓を一発で止めるため、話があるとだけ言って近藤さんと土方を会議室に呼び出した。

旦那は部屋の外で待っている、俺の合図で入ってくる算段だ。

「近藤さん、土方さん、今日はお時間ありがとうごぜいやす」
正座で丁寧にお辞儀をすると顔を見合わせる二人。かしこまった様子に驚いているようだった。

「実は俺に正式に恋人ができやして、挨拶しに来てるんで紹介しやす」
そういうと二人とも焦り出す、顔が赤くなり何言ってるのかよく分からない。過保護に育てられた娘か俺は。嫁に出す前日の父ちゃんかアンタらは。

「なななっ、なっ、こっ、ここっ、恋人って総悟。恋か、そうか、っそそそそうか」
理解ある風なこと言ってたくせに焦りすぎじゃねえですかィ?近藤さん。

「しーししししょ、しょしょしょ紹介って。あああっあっ、あい、あい、挨拶って急じゃ…ないか、総悟。まだ、そうだ、まだ、付き合ったばかり、だよな、そうだよな?」
なんで決めつけんでィ土方。大人の階段かけのぼっちまってるかもしんねぇだろ。


がらっ
襖を開けた旦那を見て、近藤さんと土方が白目をむいた。


気にせず俺と旦那は話す。
「俺の恋人になりやした、万事屋の旦那です」
「坂田銀時でぇす!よろしくお願いしまぁす!」

「いやー、実は俺に自覚なかったんですが、ずっと両想いだったみたいで。土方さんのアドバイスのお陰でお互い腹割って話したら恋人になれやしてね。恋人とのあれこれってかなりキモチイイもんなんですねィ」

「お宅の総悟くんはホント可愛くてかわいくて。あ、でも安心しろよゴリラ、マヨラー。気の迷いとかじゃねえから。俺沖田くんのこと一生大事にするつもりで付き合ってっから」

お付き合いの報告というか、のろけ話というか、心ここにあらずの二人に向けてつらつらと喋っていたら近藤さんが泡吹いて倒れた。
あーあ。土方にするつもりだったのに、近藤さんを仕留めちまった。

土方は…と向き直るとどす黒い殺気を部屋中にまき散らしていた。
さっきまで白目だったのに、もう瞳孔開いてら。
「ふっ…ふざけんな!…お前のような奴に総悟とられたら、俺はミツバに合わす顔ねーんだよ!」

あ、斬りかかった。この狭い場所でよくやるなぁニコチン中毒。
旦那はいつもの木刀で応戦か。でも前より土方さんに押されてる。
その姉上への愛情の重さ、引くわー。

「くっ、テメェは変な愛情を沖田姉弟にかけすぎなんだよ!!俺はお前が沖田くん狙いだと思って勘違いしちまったじゃねーかー!!」
旦那が受けるだけでなく、木刀で攻撃しだした。
勝手に勘違いしたくせに、これ八つ当たりじゃねえかな。

「総悟をいやらしい目で見ていたテメエに言われたかねえ!」
「そりゃ見るだろ、あんな愛らしいんだから止めらんねえだろ!」
「正当化してんじゃねえ!」
「てめぇこそ!いい加減沖田くん離れしろっつーんだよ!」

ぎゃいのぎゃいの言いながら刀と木刀と握りこぶしと足まで使いながらケンカする旦那と土方さんを眺めて思いつく。

ああ、これ。
驚かして心臓止めようとしなくても、そのうち旦那が土方さん殺っちまうんじゃねえかな。

そうだな。例えば旦那にあんなことされましたって報告したら、土方は旦那に襲い掛かるから返り討ちにされる可能性がある。
あとは、旦那は俺のことめちゃくちゃ好きみたいだから、ちょっと土方さんにやらしい事されそうになったなんて作り話でもしたら旦那が土方さんを許さねえだろう。

これからが楽しみだ。楽しみで仕方ない。
俺は土方殺して副長の座を手に入れる方法を、いくつも手の内に持てているということだから。


さあて、約束通り恋人は紹介したし。二人はほっといて俺はのんびり散歩がてら巡回でも行ってきやしょうかねェ。

旦那、恋人として俺が望む副長の座を早いとこ手に入れてくだせぇよ。期待してまさァ。

おしまい。

最後まで読んでくれてありがとう!

宜しければサポートお願いいたします。サド丸くんの創作活動に使わせていただきます。