新加入小泉の誘導と組織の連動

今回は、レッズに今シーズン加入した小泉選手の、横浜FC戦5:04と12:05の守備をピックアップ。

チームとしてボールを奪うために彼がどんなことをやっているのか、ぼんやり書いていきます。

許容と先手

まずは前提の共有と、身近なあるあるから始めます。

中間ポジションの特徴

守備においてよく基本だと言われる"ゴールとボールを結ぶ線上にいる"メリットは、まずゴール(自分の背後)を直線的に狙われないこと、そして自分の両脇にある可能性の中間ポジションにいること。

一方デメリットは、相手がどちらを使ってくるかその瞬間までわからないことです。
(ゴールライン際だと雰囲気変わりますが。)

混雑した場所でアワアワする話

通路など、人のたくさんいる場所で経験したことあると思います。

正面から歩いてきたおじさんに気がついて、避けようとしたら相手も同じ方向に動いて鏡のようにシンクロしてしまうこと。

おねえさんならまだしも。

どんな未来が待っているかは、おじさんとの合意が形成されるまではわかりません。

この時、自分が早めに気がついて正面から半歩分くらい左右どちらかにずれていると、おじさんは多分反対側にいってくれます。

片方を明確に塞ぎ、もう片方を許容して誘導することで、予測が簡単になります。

相手の攻撃を方向付ける

話を戻します。

小泉は、予め少し中間ポジションからずれて、「あっち行ってください」と相手に伝え、ボールがそっちに動いた瞬間、一気に距離を詰めます。

1つ目のシーンを見ていきます。

5:01、伊藤敦樹や阿部勇樹より高く、右サイド方向に離れた位置から、低いエリアで起きていることを見る
5:02、岩波のヘディングが五分のところに行く様子を見る
5:03、バウンドした瞬間に相手が競り勝つ&ボールが前進する想定でプレスバック準備、ヘディングした場所は小泉とほぼ同じ高さ
5:04、松尾の前でボールに触るも、背中側に流れてしまう

小泉は、自分より低い位置にボールを入れられるのを許容する一方、そこでフリーでプレーできないようにプレッシャーをかけています。

5:01の時点で小泉が何歩か低い位置にいると、画面手前にいる横浜FC24番の高木にボールがいく可能性も出てきます。

中間ポジションをとって、松尾と高木両方を見れるように半身を作ろうとすると、ボールと正対することになります。

どちらにボールがくるか予測が難しいだけでなく、ボールがどちらかに動いてから体の向きを相手選手方向に比較的大きく変える必要があるので、初動はより遅れます。

この状態で同様にシュートした松尾にボールが渡った場合、近くにいたはずなのにアプローチが間に合わなくなることが考えられます。

実際には、小泉は5:03の時点で松尾方向に半身を作り、ボールがそっちに動くと判断した時点で一気に詰めています。

このような動作のスムーズさが、誘導のもう一つのメリットです。

敢えて中央を空けておく

ここまでは前後関係、ここからは左右の関係を見ていきます。

このシーンは小泉は少し触れただけでボールが流れて相手に渡ってしまいますが、実際よりボールサイドに寄っていると、松尾に完全に背中を取られてしまう可能性があります。

人間は背中側への動作はスムーズにできず、方向転換にも多少時間を要すため、DFラインを助けるためにプレスバックに行くのが遅れてしまいます。

小泉は、比較的逆サイド側で、松尾とボールを両方身体の正面側で捉えられるような縦関係に近いポジショニングを取っています。

中央のスペースを敢えて残しておく、スライドや帰陣のタイミングが遅めのポジショニングは、サボりと言われがちですが、意図していれば相手のサイドチェンジのボールを牽制しつつ中央にボールが来た瞬間囲い込むような、相手を狭く攻めさせて圧縮する強度の高い守備に繋がります。

ユニットの連動

次は12:05のシーン。その前に一旦通路に戻りましょう。

予測の連鎖

今度は自分の目の前にいる人たちがシンクロし始めた場合を考えます。

きっと同様に「どっちいくんだよ」ってなると思います。

追い越そうとしたら、おじさんが突然正面に出てくる可能性があります。

おじさんはとても危険です。

ある程度目の前の2人の合意形成がなされるまで待つのが無難ですが、やっぱり判断が遅れてしまいます。

ここで、目の前の人が早いうちにどちらかにズレてくれれば、自分も向かってくるおじさんを視認して、目の前の人と同じ方にズレればいいんだなと予測できます。

このように、数秒先どうなっているか見える状態は、組織の連動においてもかなり重要になってきます。

許容を続けるための役割分担

12:05のプレーも時系列で見ていきます。

11:56、横浜FC24番の高木と同じ高さ
11:57、首を振って背後の37番松尾のパスコースを消しながらステップ
11:58、ボールが高木に動いたら真横から一気にアプローチ
11:59、ボールを晒されたのでスピードを緩めるも、ほんの少しより高い位置を取って前に誘導
〜12:02、相手に前進されるけど置いていかれない
12:03、高木が切り返すそぶりを見たのに対し、切り替えさせないように改めてボールより少し高い位置にズレて前進を許容
12:05、宇賀神のボール奪取

ボールが動いた瞬間アプローチに行くのは5:04のシーンと同様ですが、今回は松尾を使わせないようにしていた分高木からかなり離れていたため、ボールに触るほどは寄せられませんでした。

ここで小泉が続けて松尾へのパスコースを消すためにゴールとボールを結ぶ線方向に動くと、縦だけでなくカットインの線も出てくるため、小泉は二つの可能性に挟まれることになり、自分にとっても後続の選手にとっても、予測しにくく出足の遅れる状況になってしまいます。

せっかくある程度近くまで寄せられたので、予測しやすくスムーズに動ける状況でボールホルダーにプレッシャーをかけ続けたいところです。

11:59と12:03の小泉は、後手を踏んで距離を離されることのないように、ボールより下がることはなく、多少の駆け引きはありつつもあくまで前進を繰り返し許容します。

プレッシャーをかけ続けたことで最終的には高木のボールタッチが長くなり、前進してくる予測ができていた宇賀神は落ち着いてボール奪取。

小泉は5分のシーンと同様前のスペースを少し空けておき、今回はそこへの対応は宇賀神に任せています。

代わりに自分はボールホルダーが横や後ろに逃げられないように道を塞いで幅と深さを制限し、狭く浅く攻めさせる役割を全うしています。

このような分担は、個人としてボールホルダーにプレッシャーをかけつつ、同時に組織が連動しやすい状況を作るために欠かせません。

小泉のバランス感

小泉は、お世辞にもアスリートとして恵まれた体格とは言えませんが、守備におけるインテンシティの高さは目を見張るものがあります。

相手を誘導する守備の難しさは、許容しすぎると体をつけることすらできず普通に突破されてしまうこと。

スピードやアジリティで差のある相手に対して、ある程度許容するけど突破はされないバランスを見つけるのはとても難しいです。

小泉はこの両立を卒なくこなし、許容しつつ自分がアプローチできるポジショニングを取り続けている賢い選手だなと思います。

強豪と当たった時、強度を保てるかが次の注目ポイントです。

新加入選手たちがもたらした連帯感と、示す方向性

明本は小泉と同様、許容と圧力を高いレベルで続けられる選手です。

また、周囲の選手も既に彼らのやっていることを共有し、それをヒントに自分の役割を判断してボールを奪おうと心がけているように感じます。

鳥栖戦では噛み合わせを含めた組織としての対応力の低さも見えてしまいましたが、まだ始まったばかり。

今回取り上げたような個人戦術が各選手整理され、それに伴う組織の連動もスムーズになってくれば、相手のやり方に合わせて微調整してもバランスが崩れないようになってくると思います。

そのような変化にも目を向けつつ、またここからのリーグ戦を楽しめたらなと。

今回はここまで。


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