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月をうむ 11

第十一話 初月の痛み


 どっぷり沼からぽっかり広場に戻る途中、モジャリは大樹の葉でくるんで抱きかかえていたヒカリを下におろして、急にその場にうずくまりました。

「どうしたの? モジャリ」

 ヒカリは暗闇の中で気配を探りながら声をかけました。

「……何だかわかんねぇけどぉ、腹の中がチクチク痛むんだぁ」

 モジャリはうずくまったまま、立ち上がれそうにありません。

 深く濃く重い闇の中、ヒカリはモジャリがいなければ歩き出すこともできません。

「だいじょうぶ? 少しここで休んでいく?」

 ヒカリは不安げな顔でモジャリの様子をうかがいます。

「だいじょうぶだぁ。こんなところでじっとしていてもしかたねぇ。ただ、これ以上おまえを抱えて歩くのは、ちぃっとばかし、しんどいなぁ」

「わかったわ。私、自分で歩くからだいじょうぶよ」

 ヒカリは明るく言いました。

「でもぉ、こんな暗いところ、おまえ、おいらについてこれないべぇ?」

「手をつないで歩けばいいわ」

「おいらと手をつないでも平気なのかぁ?」

 モジャリは驚いて言いました。森の住人たちに嫌われて、汚いものでも見るような目で見られていたモジャリは、自分のことをさわりたくもないほど臭くて汚いものであるかのように思っていたのです。

「はい、私の手をつないで。こう暗くっちゃ私の目にはモジャリの姿も見えないわ」

 差し出されたヒカリの手をモジャリは照れくさそうにつかみました。
 ヒカリに直接触れたのは、これが初めてのことでした。
 モジャリは、おなかの痛みの奥に甘い蜜を感じました。

 その時、何か光りました。

 モジャリのおなかの部分です。

 モジャリのおなかの内側から青白い光が放たれています。
 それは、刀で切りつけられた痕のような細く鋭い光です。

「モジャリ、何か飲み込んだ?」

 ヒカリに聞かれて、モジャリは首をぶんぶん横に振って否定します。

「おいら、知らねぇ。何も飲んでねぇ。いつも月しか飲まねぇし、その月だって、最近は一滴も飲んでねぇよぉ」

「そうよね。でも、この光は……」

 ヒカリは、モジャリのおなかの中にある傷跡のような光をじっとみつめます。
 その形は初月のようでした。
 

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