【掌編】早朝

 アーリーモーニングティーというものをご存じだろうか。
 その名の通り早朝に飲む紅茶のことを指すのだが、どうやら私はアーリーモーニングと呼ぶにも少し早すぎる時間に目覚めてしまったようだ。
 まだかすかに日が昇りはじめ、薄暗く色付いた景色を眺めながらふと昔のことを思い出す。
 この学園に入学して間もない私に世話を焼いてくれた彼女はいつも私よりも先に起き、仄かな紅茶の香りと共に私を眠りから呼び覚ましてくれた。
 上級生であった彼女と過ごした時間は余り多くはなかったけれど、彼女から与えられたものは、私の中に確かに残っているらしい。

 なんて、似合いもしないセンチメンタルに浸ってしまうのも早朝に起きたのが原因なのだろうか。
 せっかく思い出したのだから、久しぶりに飲んでみるのも悪くない。彼女のような紅茶は淹れられないだろうけど、この一年で私も大分上達したはずだ。
 滅多に使わない茶葉を取り出そうとして、その隣にあるものが目に留まる。……そうだ、どうせなら……


 寝室から物音が聞こえる。どうやら、同居人が起きたらしい。

「ごめんね?起こしちゃった?」
「ん~ん?」

 口ではこんなことを言ってみるが、内心では起こす手間が省けたと思う。何ともいいタイミングで起きてきたものだ。
 私の手の中のものを見て目を輝かせる同居人に、最愛の相棒に微笑んで問いかける。

「おはよう。ブラックでよかったよね?」

(著者:のざらし)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?