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小説ではじめて賞金をもらって中学生の頃の約束を果たしてきた話

 嬉しいことがありました。
 短編小説の公募に入選して、賞金が出たのです。私が書いた文字がお金になるのは初めてのことです。これでデビューというわけにはいきませんが、書くことに夢を見てもいいのだな、書き続けることでどこかに辿りつけるかもしれないな、と思えました。

 小説を書きはじめた中学生のとき、いちばんはじめに読んでくれた友達と、ある約束をしました。新人賞を獲ったら賞金で十円ガムを買って渡すこと。
 高校生の頃に二回、大きな公募に出して、かすりもせずに落ちました。進学前後の忙しなさで私は小説を書かなくなりました。しばらくして再開してからは、短いお話をぽつぽつ作るくらい。
 去年の夏に突然思いました。約束したのに、私はそんなに努力をしていない。気まぐれに書いてばかりで、コンテストや公募に本気で挑んだことが何度あるのか。

 すごく久しぶりに、その友達に連絡しました。約束は、覚えていてくれました。どんなに小さい賞でもいい、全力で書いて、たくさん送ろうと思いました。

 予想していたよりも、結果は早く出ました。信じられないくらいに。私はずいぶん幸運でした。
 振り込まれた賞金を引き出してガムを買いに行きました。コンビニのお菓子売り場に陳列されていたのは、ひとつの銘柄だけでした。私たちが大人になってしまったことよりも、十円ガムの種類が減ってしまったことに年月を感じます。

 久しぶりに書いてみた手紙はひどい字でした。サインをしてほしいと言われたので、包装の余白にペンネームを書きました。米粒のようなただの楷書(と自称するのもおこがましい)は、小学生が消しゴムに記名するような雰囲気でした。
 だから、綺麗に台座までつけて飾ってくれた写真を送られて、くすぐったさに身をよじりました。とほうもなく嬉しくて、ありがたくて、一周まわってなんだか申し訳なさまで現れて。
 いつか私の小説が本になったら、会ってサインをしてほしいと言ってくれました。十年後でも百年後でも忘れないとまで。さいわい、書くことはまだ尽きそうにありません。長い道になるでしょうが走り抜けたいと思います。

 新しくなった約束は、一度目よりも早く果たしたいものです。
(あのとき読んでくれてありがとう。覚えていてくれて、待っていてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします)


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