カスタマーハラスメント対策企業マニュアル等に基づき金融機関に求められる対応
今春、東京都がカスタマーハラスメント(以下カスハラという)に関する条例の制定の検討を開始するなど、カスハラに関する規制の動きが加速している。そうした中、カスハラ対策の法制度化に向けた内容等を記載した報告書が厚生労働省から公表された。本稿では、同報告書の内容を踏まえ、銀行等において講ずべきカスハラ対策について解説した。
岩田合同法律事務所 弁護士 冨田 雄介
弁護士 福地 拓己
1 加速化するカスハラ規制
2024年8月8日、カスハラについての法整備等の対策強化について記載された「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書~女性をはじめとするすべての労働者が安心して活躍できる就業環境の整備に向けて~」(以下「本報告書」という。)が公表された。カスハラについては、2020年改正の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」30条の2第3項に基づいて定められた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚労告5号。以下「パワハラ防止指針」という。)のもと、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して講ずべき措置等の一環として、「顧客等からの著しい迷惑行為」に関し行うことが望ましい取組が明記され、2022年に厚生労働省より「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下「本カスハラマニュアル」という。)が作成された。
さらに、2023年9月に心理的負荷による精神障害の労災認定基準(注1)の中でカスハラの項目が追加され、2024年には東京都がカスハラに関する条例の制定の検討を開始する(注2)など、カスハラに関する規制の動きが加速している。
本稿では、本報告書を踏まえたカスハラの意義を説明した上で、銀行等においてカスハラに対する対策を講ずべき必要性と、講ずべきカスハラ対策の内容について考察する。なお、本稿のうち意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であり、所属する組織とは無関係である。
(注1)心理的負荷による精神障害の認定基準について(基発0901第2号令和5年9月1日)
(注2)東京都産業労働局「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」(2024年7月)
2 カスハラの意義
本報告書では、カスハラの定義について、
①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと
②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
③労働者の就業環境が害されること
以上の3要素をいずれも満たすものとして検討すべきとされた。要素①について、「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含み、「利害関係者」には、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等事実上の利害関係がある者も含まれるとの考え方が示された。また、要素②について、社会通念上相当な範囲を超える言動であるかは、言動の内容及び手段・
態様(図表1参照)に着目し、総合的に判断されるとの考えが示されるとともに、利害関係者から正当な指摘を受けた事業者(労働者)の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることに留意する必要があるとされた。要素③については、労働者の就業環境が害されたかは、平均的な労働者の感じ方を基準とすることが適当であるとの考え方が示された。
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