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脳内ストレイシープ 1st。


「ここでタバコを吸うのは辞めてください。

喫煙所はあっちです。」

タクシーを待ってる列で

私の前の前の男性が注意していた。

注意した男性は

妻とベビーカーに乗った子供を連れて

お揃いではないけども

家族皆

水色と白のストライプのシャツを

おしゃれに着こなしていた。

私の前にいた注意された相手は

なんとかザイルの一員にいそうな

日に焼けた感じで

金色の太めのネックレスをし

筋肉質で短髪の若い男だった。

そのなんとかザイルみたいな男は

タバコを道へ投げ捨て

汚らしく唾を吐いた。

多分お酒に酔っていたんだと思う。

「喫煙所はあっちです!」

ストライプの男性が強く言った。

子供に火の粉がかかる恐れや

副流煙やマナー違反の怒りが伝わってきた。

「あ?タバコで●*○◆.?」

日本語の聞き取れない言葉を大声で発して

なんとかザイルみたいな男は

肩を怒らせて注意した男性へ接近して行った。

ドンっと押されて

注意した男性は多少よろめいたが

踏み止まって勢いを跳ね返そうとした。

なんとかザイルみたいな男は

ストライプのシャツの襟元を掴み

前後に激しく揺らし

大声で何かを叫ぶ。

私は目の前の出来事に呆気に取られて

何を叫んでいるか言葉を理解できないでいる。

もしくは本当に意味のない言葉だったのかもしれない。

妻が二人を引き離そうと割って入るが

大人の男の力に敵うわけなく

振り回されている。

なんとかザイルみたいな男は

注意した男性の顔面を殴った。

メガネが吹っ飛ばされて

カシャンと軽い音を立てて地面に落ち

水色と白のストライプのシャツに

赤い血が飛び散った。

人が殴られる時の本当の音は

映画やドラマの物とは全く違い

大きな肉の塊がぶつかって潰れて

老木が悲鳴を上げながら倒れるような音を圧縮して

ピンクに緑と黒を濁らせたような

どんな表現を使っても言葉にできない位

今まで聞いたことのない不快な音だった。

私は身体が硬直して動けなかった。

警察呼ばなきゃ

でも私まで殴られたら

怖い

電話してる間にこっちに向かってきたら

怖い

冷や汗が出て

指を動かす事すらできない。

目を逸らす事もできない。

あの男には後ろにも目が付いていそう。

小さな声でも聞かれて振り返られ

こっちへ向かってきそう。

「警察呼ぶよ!」

とタクシー待ちの先頭のサラリーマン風の中年の男性が言った。

「呼んだらどうなるかわかってんだろな!」

今度は中年の男性へ向かって

喚きながらフラフラと向かって行った。

妻は殴られたら夫の肩を抱き

タオルで夫の顔を押さえていた。

タオルには赤い血がベッタリ付いていた。

目の前が真っ暗になりそうだった。

中年の男性はさっさとタクシーに乗り込み行ってしまった。

行き場を失ったなんとかザイルみたいな男は

フラフラとタクシー待ちの列から離れて行った。

「先に乗ってください。」

と妻が言った。

タクシーが来たのだ。

私は

何もできなくてすみません。

と謝った。

何故か顔が半笑いになってるのがわかった。

ベビーカーに乗った子供が

スヤスヤ寝てるのが

救いだった。




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