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ソムリエ試験

#一人じゃ気づけなかったこと

うちの両親は全くお酒が飲めなくて、私はアルコールとは無縁の家庭で育ち,ました。

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大学に進学してからはコンパもクラブも体験し、お酒を口にするようになったものの、親譲りの下戸のため『ジュースの方が美味しくない?』くらいな何もわかってない小娘でした。

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そんな私が、モロッコレストランを開業し、飲む機会も増え、少しづつワインの美味しさがわかってきました。

しかし体質は変わらなかったので、プライベートで飲みに行く、ということはほとんどありませんでした。

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またモロッコはムスリムの国(飲酒は禁止)なので、本家目指すのならば、そんなにアルコールに力を入れなくても良いんじゃね?飲んで美味しければ良いんじゃね?という甘い気持ちでおりました。

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そんなある日、お客様から、ワインの説明をして欲しいと言われ、、、

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困りました。

美味しい!はわかっているのですが、それをどう表現して良いかわかりません。さらに追い討ちが来ます。

君、説明できないもの、売ってるの?

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これは利きました、心にアッパーカットです。

その夜は一睡もできず、次の日にはワインスクールに申し込みをしていました。ソムリエになろうと決めました、

ソムリエになるためには年に一回の試験にパスしなければなりません。学科とブラインドテスト、サービス実施(私の受験は2015年)

ワインスクールには当然ながら、ワインに興味があり、もっとワインについて知りたいという人が集まる場所です。私のように切羽詰まった状態の人は見当たりません、どの人を見ても、余裕でワインを楽しんでいるように見えます。

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私は知識も経験も体質も虚弱なくせに、カッコつけで、そうは見せないように授業に付いていくのに必死。学科は暗記でなんとかなったのですが、ブラインドは経験がものを言います、飲んできた歴史が浅い私には、ワインを分析、表現、特定するなんてのは至難の業。

この時点で(試験まで半年)赤ワインは、濃いか薄いかくらいしか判断ついていませんでした。

『お客様、この赤はとても濃いワインです。』

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なんてレストランはあり得ません。

頑張って嗅げば嗅ぐほど、分からなくなり、舌に頼りたくなります。そしてどんどん口にするごとに、確実に酔っぱらいます。かなり無理して飲んでいました。学校帰りに迎えに来た主人に何回迷惑をかけたことか。

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そんなこと言っていても始まらず、まず早朝に自分の店に行き、朝からワインのブラインドを練習するようになりました。

私はそれまでに何年も店をやっていたので、出来ないことをどうしても他人に知られたくありませんでした。こっそり勉強、こっそり訓練、変なプライドがあったのでした。

その日は、昼休みにコソコソと香りを嗅ぐ練習をしてたら、一緒に働いていたシェフに見つかり、

『僕にもブラインドやらせてみて』と言われました。

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なんと彼は一発で嗅ぎ分けました。料理をする時に、いつも合わせるワインをを意識してきたのだとか、、、経験か、、かないません。

そしてその夜、彼は仲の良いお客さんに

『オーナー、ソムリエ受けるんだけど、ブラインドできないんすよねー』

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と私が隠していた事を言ってしまいました。

ドッと笑いが起こり、皆に合わせて私も一緒に笑いましたが、心は沈んでいく一方。

ああ、私 試験に受からない。

あまりに落ち込んだので、仕事帰りに近所の知り合いのビストロに行き、『もうどうせ、出来ない事はバレたんだ』と今まで隠していた、ワインの嗅ぎ分けが出来ない事を自分から打ち明けると、

ブラインド練習のために、グラスに少しずつ赤ワインを注ぎながら、店のオーナーは言いました。

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『mamiさんの店はモロッコ料理だし、規模も小さいからソムリエにこだわることないんじゃない、そんなに切羽詰まらなくても』と。 

慰めてくれたんでしょう、しかしソムリエ資格をすでに持っている彼の言葉は私にはとても厳しく聞こえ、入れてもらった3つのグラスのワインは全て外し、自分が情けなくて、情けなくて、


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その夜は泣きながら帰りました。

ああ、私 試験には絶対受からない

ところが、次の日の昼休み、買い物から店に帰った私に、シェフがグラスを6つ並べていました。見ると全てに少しずつワインが入っています。

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『さあ、ブラインドやってください。グラスの底裏にポストイットで品種と国を書いてあります。自分で注いで練習したら、選んだものを知っているから練習にならないでしょう。赤は香りが強いから、嗅ぎ過ぎに注意』

彼は次の日も、また次の日もグラスを私が店にいない間に用意してくれました。

またある日には、お客さんご夫婦が『一杯飲ませてよ』と閉店終わり頃に寄ってくださいました。見ると開いてる赤ワインを手に持っています。

『他で食事してきちゃって悪いんだけどさ、赤ワイン残ったから、持ってきた、これで勉強してよ。』

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シェフが話してしまったので、お客さんが気にかけてくれました。自分が注文してないワインはとても良い勉強になりました。

土曜の深夜、店終いをしていたら、近所のビストロのオーナーが来ました。二つの袋に入ったワイン瓶、少しずつ赤ワインが残っています。


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『3日前から、半グラス分だけ残しておいた。明日休みだろ、これ飲んでよ。君は、一度にぐいっと飲むから、わかんなくなっちゃうんだよ、口に入れたら、温めて、温めて』

彼は私の欠点も教えてくれ、15本ものワインを持ってきてくれました。それもエチケット部分は1本、1本、アルミホイルでカバーされていて、ワインの素性は隠されていました。


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今度は違う意味で泣きながら帰りました。


試験は一人でするものです、自分の実力でするものです。ですが、私は一人で臨んでいたら絶対に受からなかったでしょう。自分の欠点に気付けてなかったのです。

出来ないなら、出来ない、と素直に認め、周りの人に教えを乞うということがどれだけ大事かに気付かされました。また、何かを成し遂げようとする者には温かい協力がある事も実感しました。

何がなんでも受かってやる!みんなの気持ちにも応えたい!

私のソムリエバッジは私の周りの方が取らせてくれたと、今でも思っています。

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そしてそういう思いは誰かにも向けたくなります。

助けてくれた近所のオーナーの店の男子が私が取得した翌年に ソムリエ試験に挑戦しようとしていました。今度は私の番と、店で出したワインを少しずつ残して置いて、週終わりに届けました。


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きっちりとアルミホイルを貼って。




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