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山と海に育まれて

デーリー東北新聞「ふみづくえ」
リレーエッセイ 2021年2月3日掲載

ジンジャー姉妹 湊山りえ

 私たちが「ジンジャー姉妹」として活動する中で、このふみづくえの連載のお話をいただいたことを機に、そろそろ活動名を決めようかという話になった。最初は姉妹でそれぞれ呼び合っていたように、姉は「アネ」、妹は「ハル」として活動していた。けれど、エッセイの名前欄にそのまま「アネ」と記載されることを想像したら、あまりに面白みが強いので、せっかくだからフルネームを考えてみることにしたのだ。

 八戸や南部地方をイメージできる名前が良いと考えていたが、最初はなかなか浮かばなかった。ぼんやりとインターネットで蕪島や種差海岸の美しい風景を眺めていると、私たちの住んでいた八戸は、海に面していながら近くには山林もあり、本当に豊かな自然に囲まれていたのだなぁと実感する。

 私たちが住んでいた四本松のあたりは、現在では湊高台と呼ばれる住宅街だが、以前は民家もまばらで、まるで山の中のように鬱蒼(うっそう)とした木々や緑に囲まれていた。そして実家である神社の主祭神は、大山積神(オオヤマツミノカミ)。山の神さんと親しまれており、文字通り私たち姉妹は「山」に見守られながら育ったのだった。

 それにしても、豊かな自然というものは、きっと大人にならないとその本当の価値はわからない。事実、八戸に住んでいた頃は自然の風景よりも、友達と街へ遊びにいくことや、ライブハウスのキラキラとした光景が魅力的だった。そして、今思えば本当にぜいたくな話だが、当たり前のように毎日の食卓に上っていた海の幸や山の幸にも、特段何も感じることはなかった。私たちが今YouTubeで発信している南部弁もそうだ。日々使われていた言葉はまさに空気のようで、大人になり地元を離れていなければ、その貴重さにも気付かなかったのかもしれない。

 子供の頃、初めて図画工作の時間に写生をしに行った日のことを思い出す。イカ釣り漁船が並ぶ館鼻漁港で、海を眺めながらスケッチを進めたが、色を塗る段になり、どうしても海の色がうまく再現できなくて苦労した。北国特有なのか、海の青も山の緑も深い。南国の陽気な色合いとはまた違った、独特の色合いがあったことを印象深く覚えている。

 そんなことを考えているうちに、インスピレーションが降りてきた。私たちの住んでいた湊地区、そして山の神から一文字づつもらって「湊山」はどうだろう。前述した大山積神も、山の神であり海の神でもある。山と海に見守られながら育ってきた私たちに、ぴったりなのではなかろうか。妹のはるも賛成してくれたので、湊山に加えてそれぞれの名前から「湊山りえ」「湊山はる」と正式に決定した。

 ジンジャー姉妹のYouTubeチャンネルも、ありがたいことに2021年1月でチャンネル登録者2万人へと順調に成長した。うれしい反面、急激な変化に戸惑うことも多い私たちだが、そんなときこの名前を見ては、八戸の山と海に見守られていることを思い出すのだ。


<デーリー東北新聞社提供> 
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ジンジャー姉妹
八戸市出身の実の姉妹(湊山りえ・湊山はる)によるクリエイティブユニット。動画投稿サイト「ユーチューブ」で、歌と解説を通して南部弁の魅力を紹介。はるによる「アナと雪の女王」主題歌の南部弁バージョン「雪だるまこへるべ」「生まれではじめで~リプライズ」では、累計1200万回再生を突破。東京都在住。

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