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今週の映画とわたし 2020/2/3~2/9

正直どうでもいいと思いますけど、こんなに素晴らしい映画ばっかり観ていると何だか自分が素晴らしい人間のような気がしてくるので、今週も素晴らしい映画の話をしたいと思います。素晴らしいのはどう考えてもわたしではなくて映画です。

ちなみに先週、平日の17時から家で映画何本も観て、脳味噌溶けそうになったのと、あと、もうちょっとちゃんと会社員の仕事しようと思ったので、今週は2本です。でも2/7公開作品がどれも注目作なので、来週は非常に忙しい。がんばる。

1.アメリカン・ファクトリー

何だこれはめちゃくちゃ面白いじゃないか。

最近、ドキュメンタリーが面白くて面白くてゾクゾクする。しかもNETFLIX製作のドキュメンタリーは本当に良質。気合が違う。それに、オバマ前大統領夫妻が立ち上げた製作プロダクション” Higher Ground”の目利きが想像以上に素晴らしいということも、この作品で証明された。オバマ夫妻ってなんて素晴らしい人たちなんだろう。

グローバリゼーションとそれが引き起こしたジレンマ、米中対立、外国資本、雇用創出、失業率、工場労働者、労働組合・労使闘争、カルチャークラッシュ・・・

ダニ・ロドリック『グローバリゼーション・パラドクスー: 世界経済の未来を決める三つの道』に書かれているような、これまでひたすら称賛されてきたグローバリゼーション・自由貿易が今世界に引き起こしているマクロ経済の問題を、米中それぞれの個々の労働者の物語としてミクロに体感できるような作品だった。

失業率という数字が、何を表現しているのか。肉体的に理解できる作品だった。

オハイオの工場労働者たち。中国人と親しくなる者、反感を抱く者、得た仕事に感謝し付き従う者、労働環境の悪さに声を上げる者。労組を生産性低下の要因と切り捨てる中国大資本の経営者、部屋に飾られる毛沢東のポスター、彼に雇われたアメリカ人経営者たち。中国から家族を置いてオハイオに赴任してきた労働者たち。アメリカ人労働者を怠惰だと考える者、彼らのカルチャーを理解しマネジメントしようとする者、ただ善意で彼らの役に立っとうとする者・・・。

様々な立場の、リアルな生きた”employee”と"employer"の視点が、淡々と展開される。監督夫妻が注意を払った通り、公平で中立で可能な限り透明な舞台で。ただの記録映像のつなぎ合わせと見ることさえできるくらい、製作者の”声”は抑えられている。代わりに、登場する人物たち・・今もオハイオの街で生活しているであろう、人々。彼らの”肉声”がコンテンツの中で”声”となり、世界中に配信されている。

オバマ夫妻と監督夫妻の対談もNETFLIXで観られるのだが、バラク・オバマ氏が、「物語」にできることを語っていて、たった8分程度の対談なのに、わたしが日頃大切に思っていることを全て要約してもらえたような気がして、涙が出た。

声なき声を声にすること。知らなかったことを知ること。自分の殻の外に出て、他者の視点を学ぶこと。そうすることで、よりよく世界を理解できること。

それが物語にできることだと。

オバマ夫妻のこれからの製作予定作品が楽しみで仕方ない。

2.9人の翻訳家 囚われたベストセラー

文学!翻訳!ミステリー!密室集団劇!サスペンス!アガサ・クリスティ!ああもう超楽しかった。

2016年がアガサ・クリスティ没後40周年だったからだろうか?彼女にリスペクトを捧げるような、王道ミステリーの良作がここのところ続いているなと。ナイヴズ・アウトも良かったし、この作品はそれを上回ってもっと良かった。

海外文学好きの、翻訳家好きとしては設定にすでに萌える。素性の知れない世界的人気作家に、作家の夢潰えた翻訳家、トリリンガルでコスモポリタンな語学秀才たち。ただヨーロッパは、それぞれの言語の起源がラテン語・ギリシア語・ゲルマン語など似た言語であり、文法や語形含めてよく似ていて翻訳が比較的容易なことなどから翻訳家の地位が低いらしい。だからこの扱いなのね笑。

数々の文学へのレファレンス、文学へのオマージュ、文学への愛。

その時点でもう満足、と言ってしまいたくなるが、どっこい。

ミステリーとしての質の高さ!

まあこっちも「アガサ・クリスティ読んで育ちましたけど何か?」くらいの感じで、推理してかかるわけですけど、謎そのものの立体感・緻密さにも、謎解きの見せ方にも、時間軸を巧みに操る脚本にも、脱帽。巧かった。最後の最後まで、多面的なツイストがあって、非常に楽しんだ。

翻訳家が地下室に閉じ込められたっていうエピソードはダン・ブラウンのインフェルノ出版時に実際にあったエピソードらしいけど、それ以外はオリジナルでしょ?すごい。

あとパンフレットに寄稿していた音楽の三浦純さんと字幕翻訳の原田りえさん、二人とも猛者でかっこいい。コスモポリタンになりたい。

3.今週のわたし

上述、「9人の翻訳家」で出版社の社長を演じているランベール・ウィルソンが本作のインタビューでこう言ってるんです。

これまでやってきたことを繰り返さない、ということが自分にとっては重要なのだ。(『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』パンフレットより抜粋)

まさにこれよ、これ。

わたしが敬愛する俳優の皆さんって、こういう信念を持っている人が多くて、彼らが役ごとに新しいチャレンジを続けているから、同じ俳優をずっとフォローしているファンたちはずっと魅了され続けるのである。ある、強く長く愛される役を演じるのは俳優にとって幸運でもあるけれど、その後のキャリアで、そのイメージを覆していくチャレンジをしなければ、新鮮な仕事はできない。リスクをとってでもチャレンジし続ける俳優たちを、わたしは心から尊敬している。それが映画を好きでいる理由でもある。

一方のわたしは。散々暇だ退屈だ言ってますけど、やっぱり自己再生産的な仕事になってしまっているんですねー、いま。これはわたしの責任ではないと言って差し支えないと思うんですけれどもね。

ある時点での、ある2人の給与の10万の差には合理的な説明ができないことが多い、とは経営者の友人の言ですがね。それはその通りだが、給料ではなくチャンスに関してはどうか。やっぱり、新しいチャレンジをする準備ができている従業員に、より難しい仕事やチャンスを与えられない会社って、陳腐化していくと思うんですよねー。

言った通りにやってくれる社員ばかりを引き寄せておく経営者だと、そういう人事が常態化していると、適切なチャンスを適切な人材に渡していくことができなくなる。ガバナンスも当然弱くなる。

っていうのが今うちの会社に起きていることですわ。

しばらくは我慢、と現社長に言われているが、我慢できるかなー。小指でできる仕事を小指でやって見せてるんですけど。おかげで「やっぱりあいつは仕事できるんだった」って言われていますけどそれも複雑な心境ですけど。

じゃあ仕事よこせや。みたいな〜〜

ま、人生の中でこんだけ暇なのも珍しいし、お得といえばお得。フルで給料もらいながら夕方17時から映画観ますよ。人生の肥やしになりますから。仕事より。

ハハ〜〜

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