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続・下町音楽夜話 0276「煩悩の108曲」

まったくもっていろいろあるものだ。この期に及んで「人生お初のことはもうあまり無い」と思っていたが、まだあった。初深夜放送出演、しかも生放送ときた。ラジオ番組は以前にも出演したことがある。東京FMの音楽専門デジタル放送、ミュージックバードの番組でゲストに呼んでもらい2回分を一気に収録したことがある。しかしこちらは生ではなかったし、収録した時間も昼間だった。全くもって雰囲気が違っていたし、やり方も全く違っていた。

とにかく、noteで書いた文章がきっかけということで、中央FMの社長さんからお声がけいただき、一緒に「東京音楽放送局Tokyo Music Station」という番組を始めることになったのだ。面白い話に限らず、いろいろな面で「来るものは拒まず、去るものは追わず」のスタンスでいるもので、お店のスタッフもどんどんメンツが代わっていく。これまでクビにしたことは最初の2名以降ないので、皆自分の意思で去って行った。本来の仕事が忙しくなったり、自分の店を始めたり、いろいろだ。最初の2名はは全く使い物にならなかったので仕方がない。

面白い話も時々は転がり込んでくる。みんなの経済新聞はあまり乗り気がしないで半年間逃げ回っていたが、結局やることになり、その後2年間ムダ金を支払ったようなものだった。ASP使用料と広告料収入のバランスが悪く、ビジネスモデルとして成り立つとは思えなかったし、他力本願では上手くいくわけがないところをごり押ししていた結果、人間関係もこじれ、実に後味の悪い結末となった。まあ自分が悪いのだろう。

今回のラジオ番組の話は、コロナ自粛明けのスタッフが欠けたばかりのタイミングで頂戴したもので、果たして自分の身があけられるかという不安はあったが、還暦過ぎのオヤジにそうそう面白い話なんぞ転がり込んでくるものではない。スタッフも協力的なので、「何とかなるだろう」という程度の見切り発車と相成った。当然準備万端などという状況とは程遠い。前の週にTOTO関連のイベントがあり、そこまではTOTO関連音源探しに集中していた。勝負は直前6日間だったが、幸か不幸かお店は酷く売上が落ち込んだ週で、時間的な余裕はあった。

事前にいただいた進行表では、先方が先攻、交互に10曲ほどを紹介しながらかけるという。念のため20曲ほど用意しようということになっていた。1曲目はチープトリックの「甘い罠」だという。このお話しをいただいた時点で、この手の曲ならいくらでもオススメはあると思いつつ、思いつきで20曲ほどピックアップしていたが、どうにも当日の気まぐれが心配で、事前の絞り込みは諦めた。自身の煩悩は自身が一番よく分かっている。50年も音楽好きを続けてきた人間が名刺代わりに用意する20曲がそんなに簡単に絞れるわけがない。煩悩の数だけ持ち込んで当日何とかしようと思い直した。結局DJ用の7インチ・キャリアーに108枚を詰め込んで白紙状態でスタジオ入りしたのである。

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1時間ほど早めにお店を閉めて、土砂降りの雨の中急ぎ足で京橋のスタジオに駆け付けた。1時間ほど前に到着し、渡された先方のセットリストには予想外の曲目が並んでいた。チープトリックに続くのは、ボビー・ウォーマック、ジョニー・ギター・ワトソン、トム・ウェイツ、ザ・バンド、ライ・クーダー、アレサ・フランクリン、アイズレー・ブラザーズ、ビリー・ホリデイなど、全く別傾向の随分渋いアーティストばかりである。しばし唖然とした後、108枚から返歌をピックアップしてみた。チープトリックには元気にプリテンダーズの「メッセージ・オブ・ラブ」、ボビー・ウォーマックにはやんちゃオヤジをぶつけることにして、ザ・フー「無法の世界 Won’t Get Fooled Again」とした。

また映画の話題繋がりで「2001年宇宙の旅」で使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」をジャズロック風にアレンジしたデオダート、その流れでブラジルに寄り道してスタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルトを選んだ。ザ・バンドの「ザ・ウェイト」には、1968年繋がりでローリング・ストーンズ「シーズ・ア・レインボー」をといった塩梅である。また時事ネタというつもりもないが、Black Lives Matterの話題が出るかと予測してウォー「世界はゲットーだ!」を入れておいた。一方で廣田夫妻の「ポリスかスティングで何か」というリクエストにこたえて「バーボン・ストリートの月」を持ってきて、そこからは80sの名曲に繋ぐといった流れを構築してみた。

何はともあれ、数分後にはお初の深夜放送、お初の生放送が始まろうとしているタイミングでの選曲である。煩悩の108曲は資料など無くとも語れるものばかりだが、さすがに思い切り集中して流れを構築したセットリストを提示することになったのである。結果はあまりに楽しくてしゃべり過ぎるということになり、12曲選んだうちの9曲で終了と相成った。金曜日の深夜などという疲れがピークに達しているようなタイミングでなければ、もう少し鋭い切り返しもできたかも知れないが、十分楽しめたし満足すべきだろう。今後月一回程度のお楽しみができた。さて次も選び直した108枚を持ち込んで、当日選曲としたほうが面白そうだな…。

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