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FM84.0MHz Radio City presents "Saramawashi.com -The Vinyl Paradise" 078:詩人特集

さらまわしどっとこむ -The Vinyl Paradise-
第78回(2023年3月24日(金)20時~
(再放送:3月26日(日)19時~)

清澄白河にあるカフェGINGER.TOKYOのオーナー高山聡(あきら)がお届けする音楽番組です。
全曲アナログ・レコードでお届けします。可能な限り7インチ盤で、しかもフルレングスでかけます。
サーフェスノイズにまみれた1時間、ぜひご一緒に。

今週はユネスコが制定した3月21日の「ワールド・ポエトリー・デイ」にちなんで詩人と言われるミュージシャンの特集です。世界詩歌記念日は「文芸の増進のため」に1999年に取り決めた「詩を記することを通じて言語の多様性を促進し、危機に瀕する言語による表現を可能とすることを目的とする日」なんだそうです。「言語による表現」というものが危機に瀕しているんですかね?ミュージシャンの世界において、世に名だたる詩人と言えば、音楽界を代表する吟遊詩人ボブ・ディラン、歌う哲学者・詩人ジム・モリソン、ピアノの詩人ビリー・ジョエル、酒場の吟遊詩人トム・ウェイツ、愛の吟遊詩人アル・スチュワートとか、いろいろいらっしゃいます。この中からも少しはかけたいと思います。

1曲目
「Poetry Man」Phoebe Snow (1974)

まずは、この回を象徴する一曲と考えました、フィービー・スノウ1974年のデビュー・アルバムからいきなりの大ヒットとなりました「ポエトリー・マン」をご紹介しました。

2曲目
「Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again」Bob Dylan (1966)

詩人を特集するというときに、この人は外せません。2008年にはピューリッツァー賞特別賞を受賞し、2016年のノーベル文学賞も受賞した、世界が認める吟遊詩人、ボブ・ディランです。昨年岩波書店から刊行された2分冊の詩集は大事に読みこんでおります。如何せん1冊目が200篇の詩、2冊目が187篇収録です。どちらも500ページ以上あります。持ち歩けません。お店に置いてあり、時々取り出しては、その気になって読んでおります。寛容ではない人からは、「盗用が多い」だの言われたりもしますが、それならブルース・ベースのロックンロールはみんな盗作になってしまいます。私に言わせれば、ただの肌が白いブルースマンですが、心に突き刺さる詩が大量にあります。とやかく言う前にご一読をおススメします。作品が多すぎて選曲に毎度迷いますが、今回も手元に7インチ盤があった曲にしました。

3曲目
「The Night They Drove Old Dixie Down」The Band (1969)

私これをディランの曲だと勘違いしておりましたが、実際はロビー・ロバートソンが書いた曲なんですね。この曲に関してはちょっとした思い出がありまして、アメリカーナの代表的なプロデューサーでもあるジョー・ヘンリーがリサ・ハニガンとジョン・スミスを連れて来日公演をやったとき、横浜のサムズアップに観に行ったんですけど、このライヴの最後、アンコールでこの「オールド・ディキシー・ダウン」をやったんです。まあジョー・ヘンリーのライヴの観客などというものは筋金入りの音楽通ばかりでしょうから、途中からみんな一緒に歌い出しましてね。会場内のほとんどの人間が合わせて歌い始めてしまったんです。もうジョー・ヘンリーもリサ・ハニガンもビックリしておりました。私も5メートルくらいの距離のところにいましたから、一緒に歌いましたけど、帰宅してから気になってもう一度歌詞を調べたりしたんです。その時に、「あれ、これはロビー・ロバートソンの曲だったのか」となり、ザ・バンドがバックについていた時のボブ・ディラン、観ておきたかったなあという話でした。

4曲目
「Los Angelenos」Billy Joel (1981)

5曲目
「Summer, Highland Falls」Billy Joel (1981)

ビリー・ジョエルはピアノマンと言われますが、同時にピアノの詩人とも言われます。この人こそ、街の吟遊詩人という曲が多数ありますが、彼の作品の中でも大好きなライヴ盤がありまして、「ソングス・イン・ジ・アティック」と言います。1978年の「ストレンジャー」から「素顔のままで ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」が大ヒットした後、ブレイク前の曲のライヴ音源を集めてリリースしたものです。つまり自分の曲を大事にする人であり、作者の思いが詰まったアルバムなんです。

6曲目
「Streetlife Serenader」Billy Joel (1974)

ビリー・ジョエルに関しては、もう一枚気になるアルバムがあります。1974年リリースのサード・アルバム「ストリートライフ・セレナーデ」ですが、リリース当時、日本盤は発売されませんでした。初の来日公演が実現した1978年になって、ようやく国内盤が発売されたんです。

7曲目
「Year Of The Cat」Al Stewart (1976)

8曲目
「Time Passages」Al Stewart (1978)

愛の詩人といわれた、アル・スチュワートはスチュワート王朝の末裔だそうですが、恋愛スキャンダルがらみでこういう呼ばれ方なんだとも書かれております。「イヤー・オブ・ザ・キャット」のアルバム・ジャケは猫探しが楽しいイラストで猫好きには有名です。

9曲目
「Cats In The Cradle」Harry Chapin (1974)

猫絡みでもう一曲、この全米ナンバー・ワン・ヒットをご存知でしょうか。ハリー・チェイピンは、「アメリカの良心」とまで言われた慈善活動に精を出した人です。歌詞を書いているのは奥さんでして、なかなか深いものです。子供が生まれ、父親が知らない間に歩き方を覚え、10歳の頃はキャッチボールをしてくれと言われても「また今度ね」と言って済ませてしまう。大学生のころには、少し話をしないかと声をかけても車のキーを貸してくれというだけ、自分が退職してからは子供も独立してしまい、遊びにおいでと電話しても、仕事が忙しいだの子供たちの具合が悪いだのと言って断られる。子供の頃、「お父さんのようになりたい」と言っていた子供が、大人になって自分とよく似た人間になってしまったと感じ、寂しく思う…。

どこにでもある光景なのかもしれませんが、リフレインの部分は「ゆりかごの猫と銀の匙、少年の憂鬱と月に降り立った人類。お父さん、いつ帰ってくるの?わからないけど、必ず帰ってくるから、その時遊ぼうな。」という具合です。皮肉というか、考えさせられる歌詞です。

もう一曲ハリー・チェイピンの曲で印象的な歌詞のものがありまして、「タクシー」といいます。雨の日に昔の彼女を乗せてしまったタクシー・ドライヴァーの唄ですが、韻を踏んだリフレインが印象的です。昔の彼女は女優志望、彼は大空を志していたわけです。現在の彼女の暮らし向きはよさそうなんだけど悲しげで、彼はもちろんタクシーを転がしているわけです。多めにチップを手渡して降りていく彼女に、心が石のように冷えてしまう彼の心情を歌ったわけです。時間の都合で、「タクシー」はかけず、歌詞だけ紹介しました。

10曲目
「Ode To A Black Man」Phil Lynott (1980)
11曲目
「Yellow Pearl」Phil Lynott (1980)

最後の詩人はシン・リジ―のフィル・ライノットです。意外ですが、彼の詩を朗読するポエトリー・リーディングの会をいまだに開催している人がいるほど評価もされています。番組では1980年リリースのソロ・アルバム「ソロ・イン・ソーホー」から2曲ご紹介しました。まずは「オード・トゥ・ア・ブラック・マン」。彼はアイルランド人ですが、肌が黒いわけで、お父さんがアフリカ系のブラジル人なんです。そんな彼が歌う黒人抒情詩です。ここでハーモニカを吹いているのはヒューイ・ルイスです。もう一曲「イエロー・パール」はBBCテレビの有名な音楽番組 「Top of the Pops」のテーマソングです。

12曲目
「Parisienne Walkways」Gary Moore (1978)
13曲目
「Don’t Believe A Word」Gary Moore (1978)

フィル・ライノットの最も有名な詩の曲は、おそらくゲイリー・ムーア名義でリリースされた「パリの散歩道」でしょうか。フィギュア・スケートの羽生結弦くんが使った曲です。フランスのパリのコジャレタ散歩道の歌だと思っている方が多いと思いますが、全然違うんです。「イメージ崩すな」と怒られるかもしれませんが、先ほどもちょっと触れたフィル・ライノットのお父さんは黒人さんでブラジル軍の軍人さんだったんです。アイルランドに駐留していたときにお母さんと知り合ったわけですが、生まれてくる彼と会うこともなくブラジルに逃げ帰ってしまった人なんです。そのお父さんの苗字がパリスということで、要は父親への恨み節なんです。そしてラストは、歌詞に注目する回の締めに相応しいか否か、同じくゲイリー・ムーアのヴァージョンで「ドント・ビリーヴ・ア・ワード」でした。ひねくれ過ぎましたかね。

次回はバジー・フェイトン特集です。お楽しみに。
番組へのご意見やお便りをください。
voice@fm840.jp

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