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発酵ジンジャーエール、杉と阿波晩茶のヒミツ

発酵ジンジャーエールのヒミツ


実は「発酵ジンジャーエール」という名前の飲み物は、存在しませんでした。これは、(株)しょうがのむしの代表、周東孝一が悩みぬいて考えた名称です。
本来の名前は「Ginger Beer(ジンジャービア)」と言い、欧米では300年以上もの歴史を持つ、現在のジンジャーエールのルーツになった飲み物です。

発酵ジンジャーエール「すだち」と「杉と阿波晩茶」


ただ、「ビア」「ビール」という名称は、日本ではアルコール、麦、ホップなどの印象が強く、非常に説明しにくかったため、少しでも理解しやすく、またジンジャーエールとは違うと分かる名前はないか、ということで考え出したのがこの「発酵ジンジャーエール」という名前でした。
普通のジンジャーエールと違い、ビールのように発酵・醸造して造られることで、ノンアルコールなのに、発酵による複雑な香味と、生姜による飲んだ後のポカポカとしたぬくもりが、まるでお酒を飲んだような満足感を与えてくれます。

欧米では、禁酒運動や禁酒法が成立する以前はお酒として飲まれ、最盛期はイギリスだけでも5000軒もの醸造所があったそうです。イギリスの約1.5倍の面積である日本でさえ、日本酒の醸造所は1500軒ほどですので、当時イギリスでジンジャービアがどれほど人気のある飲み物であったかが窺い知れます。
しかし、禁酒運動などが盛んになると、一気にお酒の販売や輸出ができなくなってしまいました。そこでジンジャービアの製造業者はアルコールの入っていないジンジャービアを販売、輸出し始めます。これが普及し、大量生産できるよう改良されたものが、現在のジンジャーエール、というわけです。

弊社の発酵ジンジャーエールは、200年前のレシピに改良を重ね、非常に伝統的な方法で醸造を行っており、無添加、無着色、無香料、無濾過、ほとんどの商品がグルテンフリーとなっています。15℃~18℃でワイングラスに注いで飲むのがお勧め。

発酵ジンジャーエールは注ぐことで香りが立つ

杉の秘密


徳島が誇る唯一無二の建材として名高い、徳島杉を使用しています。建材といっても、もちろん無農薬で、人体にも安心安全なものを使用しています。

徳島県神山町の杉林


温暖で湿度の高い徳島の山で育つ杉は、その強度において特に優れ、現在でも最高級の建材の一つとして重宝されています。
今回は、この杉を「建材」としてではなく、人の口に入る「食材」として利用しました。
杉は早く、まっすぐに伸びることから、古来より人類に利用されてきました。
建材としてはもちろん、桶や樽、食器として、人の食生活まで支えてきました。例えば、ステンレスのタンクなどがない時代、日本酒はすべて杉の樽に詰められ、運搬されていたため、当時の日本酒は全て、杉のさわやかな香りがついた樽酒であったと考えられます。

葛飾北斎 富嶽三十六景 富岳尾州不二見原


 代表の周東は無類の酒好きで、ウイスキーや日本酒のように、木の香りがついた芳醇な発酵ジンジャーエールが飲みたい、と常に考えていました。

 
しかし、発酵ジンジャーエールはノンアルコール。木の樽に入れようものなら、アルコールによる殺菌効果がないために、熟成ではなく腐敗してしまいます。
そこで、試行錯誤の末、木の樽に入れずに、木の香りを付けることを考えました。

まず、杉の木を小さなチップに砕き、洗浄した上で、仕込みの煮込みの段階で鍋に投入、生姜などの原料と一緒に煮込み、香りを出します。その後、そのチップは捨てずに急速冷凍し保管、発酵終了後に、今度は2℃という低温に冷却した発酵ジンジャーエールの発酵タンクに投入し、1週間ほど一緒に寝かせる、という方法です。


杉のウッドチップ
生姜と一緒に煮込みます

 
この方法で、腐敗することなく、木の香りを発酵ジンジャーエールに移すことが可能になりました。
阿波晩茶の後ろにほんのりと香る徳島杉の香りを、どうぞ探してみてください。
 

阿波晩茶の秘密


徳島の方に広く親しまれている、阿波晩茶。現在では自動販売機などでペットボトルでも販売される、人気の高いお茶です。
しかし、実は他県ではほとんど知られておらず、例えば関東に住む私が講演なども含めて100人程に阿波晩茶の話をして、知っていた人は、なんと二人だけでした。
一人はクラフト飲料の専門家、もう一人は実家が高知県という方でした。


阿波晩茶の茶葉

そこでこのお茶については、徳島の方はご存知と思いますので、以下他県の方に向けて、特徴を記載します。
なんとこのお茶、新茶の時期が過ぎたあと、少し大きく育った茶葉を摘んできて、もんだり乾かしたりする前に、一度…煮出します!
お茶なのに、煮出しちゃう(笑)
まさかの発想ですよね。それじゃ徳島の方は、みんな喜んで出がらしで淹れた茶を飲んでいるの!?というと、そうではありません。
このお茶の素晴らしさはこの後の工程によって造り出されます。
この煮出した茶葉は樽に入れられ、その煮汁に浸した状態で、重石を乗せられ数週間、寝かせます。そう、発酵させるのです。
寝かせている間に、自然の乳酸菌を取り込み、茶葉がまるごと乳酸発酵していきます。これを乾かして造られる茶葉で淹れたお茶は、まさに格別。
 

一度煮出すことで渋みやカフェインが抜け、あっさりとしていますが、少し育った大きめの茶葉を使用することで、香りや味わいはちょうどよく残っています。そこに発酵による酸味をほんのりと帯びることで、類まれな爽やかさが演出されています。乳酸の酸味というのは、舌を刺すような柑橘類の酸味とは違い、舌の奥にどっしりと重さを感じるような重厚な酸味ですので、これがとてもまろやかな舌触りを生んでくれます。
何杯でも飲み飽きせず、しかも中国茶のように、同じ茶葉で5~6杯も淹れられ、その度に香りや味わいなど、違う表情を見せてくれる、非常に優れたお茶なのです。
 

醸造・発売までのヒミツ


2020年の秋口、私は徳島県を視察していました。まだ、当社の醸造所の場所も決まっていなかった頃の話です。
当時、私は発酵ジンジャーエールに適した柑橘類を探していました。レモンやかぼす、ゆずなど、様々な種類の柑橘類を試す中で、使ってみたいと思い始めたのが「すだち」でした。早速、地域活性の仕事を通じて徳島県と繋がりのある友人の小菅(合同会社ばとん代表)に連絡を取ったところ、徳島県からすだちのサンプルを手配してくれました。
このサンプルで試作したのは、すだちのスパイシーな香りや皮の苦味を活かした甘さ控えめの商品でした。ノンアルコールなのに、レモンサワーのような爽快感と満足感が有り、とても気に入ったのですが、徳島へ持ち込み、試飲会を行ったところ、「すだちなのに酸味が少ない」という評価を多く頂きました。
 

当時の試飲会の様子


関東ではすだちの唯一無二の香りを重要視する傾向がありますが、現地徳島では何よりもまず、すだちの酸味を重視する傾向があり、この認識の違いがとても興味深く、非常に勉強になりました。


それから約9か月程で私は小さな醸造所を竣工し、そこから約1年半で70回以上の仕込みを経験してきました。その中で様々な果物、ハーブ、スパイスを原料に使用し、補助金の助けもかりて、お客様へのアンケートも行い、試行錯誤しながら、楽しく、おいしく、誰も取り組んでいない面白い商品を醸し続けてきました。

そして2022年、約2年ぶりにまた徳島へ視察へ参り、すだちや阿波晩茶の生産者とお会いし、おまけに徳島杉も手に入れて、これらを使用した商品を醸造する機会を得ました。

これまで毎週の仕込みで少しずつ獲得した技術や、試飲会やアンケートでのお客様の反応を参考に、自信をもって2つの商品をリリースしました。
それが今回お手に取っていただいた「発酵ジンジャーエール、すだち」と「発酵ジンジャーエール、杉と阿波晩茶」です。


構想開始から2年以上も経ってのリリースとなりましたが、その分非常に良いものができました。

徳島とのご縁を繋いでくれた合同会社ばとんの小菅、視察にご協力頂いたとくしまブランド推進機構の皆様、見学などの受入れをしてくださった生産者の皆様、この度は本当にありがとうございました。

また、合同会社ばとんが、今回の視察から完成までを動画にまとめてくれましたので、是非ご高覧下さい。 



以下、僭越ではありますが、醸造・発売までにご協力いただいた機関・企業名を記載させていただきます。




◆徳島とのご縁を繋いでくれた、合同会社ばとん
◆出張やサンプル、様々な手配を頂いた、とくしまブランド推進機構
◆徳島杉やそれを用いた製品などを教えてくださった、株式会社ダイリFPC
◆すだちについて教えてくださった、NPO法人里山みらい、JA名西郡 様
◆阿波晩茶について教えてくださった、高木晩茶農園
◆柚香(ゆこう)について教えてくださった農家、山部
◆醸造についてヒントをくださった、RISE & WIN Brewing Co.

皆様、本当にありがとうございました。
 

(株)しょうがのむし 代表取締役 周東 孝一


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