「経済雑感」no.4
巨大人口国の陥穽
<巨大人口国が味わう塗炭の苦しみ>というタイトルで、下記の著書で次のように述べられている。
「無人化ビジネスはまずは人間が行う受付や代金のやり取りを排除するところから始まって、徐々に大掛かりなシステム化へとステップアップしていく最中にある。-------要は、これはポスト・コロナの世界経済の姿も同じなのだが、近未来の世界においては人手不足が問題ではなくなる。逆に、人が有り余っているのが問題になってくるわけである。サービス、運輸・通信、卸売・小売・飲食、製造業等々の仕事に就いていた人たちを、どうやって別の仕事で使うかを考えねばならなくなる。その場合、その人たちを付加価値の高いところに投入できるとは限らない。なぜなら、その技術が備わっていないわけだから。つまり、人間にスキルがない。そうなった場合には、自国民一人一人のスキルレベルが高い国が断然優位に立つことになる。翻って、人口がむやみやたらに多い国は困るわけだ。-----仕事がどんどんAI化し、自動化していくなか、----有効なスキルを持てない人たちは仕事を持てず、不満と憤りは政府に向けられるはずだ。おそらく職にあぶれた大半の人々が暴動を起こさないよう、ベーシックインカムを導入しなければならなくなるだろう。ベーシックインカムはすべて政府負担となる社会保障のカテゴリーだ。」このように論理展開して、日本経済の将来について次のように述べられている。
「いままでは人口が多ければ、出生率が高ければ良かったけれど、これからはそうではなくなってくる。いまはちょうどその転換期に差し掛かっているのではないか。これまで日本経済について悲観的な見方の根拠に多くあったのは、日本の人口減少と少子高齢化であった。必ず訪れる省人・無人化の世界になったら少子高齢化など問題にならないはずだからだ。----省人・無人化ビジネスの発展は必ず膨大な人を余らせる。途方もない数の失業者を生み出す。巨大人口国に塗炭の苦しみをもたらす未来が待っているわけで、いまはきわめて重大かつドラスティックな転換期を迎えつつあるということになる。----だから少し先のことを考えると、中国はもちろん大変だろうし、米国が移民を止めた背景にもそうした要素が含まれているのではないだろうか。----米国のような、いままで移民を歓迎、奨励してきた国でさえ、技術の進歩でこれまでどおりの政策では危ない、と考えていると言えるのである。」(エミン・ユルマズ「大インフレ時代! 日本株が強い」ビジネス社,2023年、からの引用)。
これは大きな重要な本質的な問題提起だと、筆者は考える。第4次産業革命では、省人・無人化促進技術進歩が大規模なシステム化を伴い進行している。2000年以降の基盤システムのIT化とその深化を受けて、2020年代以降には、生産労働ばかりでなくサービス労働を節約する技術進歩が怒涛のように出現する。資本集約的産業における要素生産性の上昇ばかりでなく、かつての労働集約的産業といわれたサービス産業においても省人・無人化が進行して労働生産性が著しく上昇する。企業レベルや産業レベルで、そして国家行政レベルで、この技術進歩によって、多大な労働力が余剰労働力化していく。これは人類レベルでの労働からの解放を意味する。これ自体は人類にとって極めて望ましいことである。だが、この労働からの解放を資本主義システムでしかも国家資本主義システムで行わなければならないのである。資本主義である限り、余剰労働は、それを吸収する新たな労働集約的企業・産業を生み出さない限り、その大部分が失業化することを意味する。この大量失業こそが問題なのだというわけである。こうした社会に変革されるなら、およそ少子高齢化による生産労働人口減少など大した問題にならず、むしろ人口規模が大きいほど当該資本主義経済の桎梏となる。著者はこのように述べているのである。少子化抑止人口増加政策など、愚の骨頂ということになる。今まさに、日本政府は少子高齢化是正政策を実施しようとしているのであるから、全く笑えないプロットなのである。つまり、省人・無力化促進を意味するDX政策と少子高齢化是正政策とは、政策全体の中では、本質的に矛盾するというわけである。この2つの政策の政策全体における整合性が疑われているのである。この著者の議論の前提は、省人・無力化技術進歩の社会的伝播が、何らの矛盾や混乱もなく、安定的に進むということである。筆者には、そうは思えない。多くの混乱と不安定を引き起こしながら、試行錯誤的失敗を犯しながら、進行すると思われる。しかしながら、現存するBRICsのような巨大人口国家に、省人・無力化技術進歩は、人口ボーナスを必ずしも、もたらさないという指摘は、これらの国々の将来の暗雲を描き出していると思われる。必要なのは、依然として人口抑制政策であるのかも知れない。これらの問題の全面的検討を、筆者は、連載中の「相互依存の世界における経済現象」で行うことにしたい。
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