別れと旅立ち

別れ


「いかないで!!」

と泣き叫ぶ、美香を見つめながら、僕の心は冷めていった。
ここは、成田空港保安検査場の手前。

ここで、美香と別れたら、彼女とはもう二度と会えないかもしれない。
でも、どうしてここに来て、彼女は泣き叫ぶ?

僕には理解できなかった。

彼女は、「泣けばドラマのように、僕がドイツへの渡航をやめる」と思ったのだろうか。
それとも、単に感情が溢れ出しただけなのか。
僕の心は何も迷わなかった。
ドイツ行きは何年も前から計画していたこと。
ただ、ドイツへ行く1年前に、美香に再会したから、こんな状況になっている。
別れが決まっていても、恋愛にブレーキはきかなかった。

だけど、自分勝手だけど、僕はドイツへ行く。
それ以外、僕の人生を挽回する道はない。
その時は、そう信じていた。

僕は、泣き叫ぶ彼女の手を振り払い、保安検査場へと向かった。

20代最後の年を迎えていた僕に、もうあとはない。
一人の女性を幸せにすることよりも、自分の夢を選んだ。
果たして、その時僕が抱えていた夢にはどれほどの重みがあるのか。
他人からみればチンケな夢だ。

でも、腐りきった自分ともお別れを告げたい。
新しい異国の地なら、素晴らしいスタートが切れるのではないか。
彼女との別れを悲しみながらも、心は新しい地へ挑む気持ちでワクワクしていた。

飛行機に乗り込むも、なかなか飛行機は飛び立たなかった。
あとから聞いた話だが、美香は雨に濡れながら、僕の飛行機が飛び立つのをずっと見送ってくれたらしい。

旅立ち


北京についたのが夜の 22:00
ここからフランクフルト行きの飛行機に乗り換える。

搭乗の際にいつもひっかかるのが荷物検査。
ベルトやブーツなんかがひっかかる原因だ。
いつもの調子で通ろうとしたら係員にとめられた。

なぜ?

成田は無事通過したのに・・・

「おまえナイフもってるだろ?」

いや、そんな危ないもの持ってないし・・・

リュックをもう一度検査され開けらた。
出てきたのが、七得ナイフ。

あ、やばい

スーツケースの重量が20kgという制限があったから、荷物をリュックに移した際にまぎれこんだのだろう。
もちろんそれは没収。
ナイフを持ち歩くなんて、おれはテロリストか。

それよりも、成田空港の荷物検査がザルだということが、ここで発覚したわけだ。
大丈夫かい成田空港。 

荷物検査を通過してはいいけど、フランクフルト行きの飛行機が出るのは3時間後。
さっきの係員とのやり取りで、冷や汗を嗅いて、喉が乾いた。

ここは北京の空港。
時間は深夜22:00

さてここで使える通貨は?

or

ドル

「円しかもってねーし!!」

とか思ってたら、

なんと財布に3ドル入っていた!!
小学校時代の友達が旅立つ前にくれた餞別。
本当に救われた。
持つべきものは、古き友ってか。

ここから、フランクフルトまでは本当に遠かった。

約10時間

エコノミーでぐっすり眠れるわけない。
悲しい別れもあって心が穏やかでなかったのもある。
ドイツの田園地帯を飛行機の上から眺めながら、10時間なんとか耐え忍んだ。

ドイツについたのは現地時刻6:20

日本発ってから約18時間経っている。
機内でろくに寝てないし、早く宿について眠りたい。
さて、ここから僕がこれから暮らすハイデルベルグまでどう行こう?

ふつうの留学生は、留学先の学校からお迎えを頼むらしいけど、せっかく異国に来ておんぶに抱っこじゃおもしろくねぇな。
ということで、自分で行くことにしていた。なによりその方がお金がかからない。

ドイツは日本ほどではないが、鉄道が充実している。
都心は地下鉄が走っているし、郊外主要都市も鉄道で移動できる。
しかし、フランクフルト空港内と駅はつながっているが、長距離の電車と市内の電車の駅は乗り場が離れているらしい。

成田空港から東京駅へ出るイメージだ。と言っても、成田空港と東京駅ほどの距離はないが。
しかし、勝手のわからないドイツの国、フランクフルト空港から駅まで30分くらいさまよった。
さらに、切符を手に入れるまで、列にならんだりで1時間くらいかかった。

自意識過剰かもしれないが、フランクフルト駅を彷徨っているとき、ホモっぽいドイツ人に後をつけられた。
自意識過剰かもしれないが・・・。

初めてのヨーロッパ。
ここの人たちは、僕ら日本人より背が高い。
僕の顔一個分高い人もたくさんいる。
自分がアジア人だっていうことが嫌なほど実感した。

夢を背負って、恋人を突き放して、ドイツにやって来た割には、いきなりビビってるオレ。大丈夫か。


フランクフルトからハイデルベルグまでは、マンハイムで乗り換えて約1時間
午前9時半頃ようやくたどり着いた。

電車内で驚いたことといえば、車内に自転車を持ち込んでる人がたくさんいること。
東京じゃありえない風景。

ハイデルベルグの駅からもまだ移動がつづく。

ぼくは、これから半年以上暮らす分の重い荷物を抱えている。
成田空港出発してからほとんど寝てないし、すでにけっこうしんどい。

日本ではほとんど見かけなくなったチンチン電車(トラム)がヨーロッパでは大事な公共交通機関の1つだ。
バスよりも安全だし、便利だ。
僕が住むことになる宿はハイデルベルグ駅からトラムで5分のところにあった。

ちなみに、トラムの乗り方がわからず、日本人っぽい人がいたので日本語で話しかけたが通じなかった。
後から知ることになるが、このハイデルベルグという街は、世界中から学生がやってくるから、アジア人も結構多い街なのだ。

さて、トラムから降りて、ようやく宿に着いた。 と思ったら
ここで、日本じゃありえないことが起こる。

まずチェックインに行ったら、
「鍵は学校に行ってもらってきてくれ」
と言われた。

まぁそれはしょうがない、と思い。

荷物はフロントで預かってもらい、鍵を取りに学校へ。
それがちょうど朝の10時頃

学校の受付で言われたことにびっくり。

「渡せる鍵がない。コピーを作ってくるから1時間くらい待っててくれ」

はぁー

早く寝たいんだが・・・
しょうがなく1時間待って、11時過ぎに取りに行くと鍵はもらえた。

「これでやっと休める」と思い

案内された部屋に行ったら、ドイツ人がいた。

「まだ用意できていない」

という

ついでに

「ベッドが届くのが夕方の5時~7時の間になる」

とか言ってる。

はいはい。

異国での洗練には初日で慣れた。
まぁ、でも海外行ったらこういうことってよくあるって聞くけど、自分に起きたら嫌になるな。

ベッドが用意できるまでの間、街を散歩しにでかけた。
ハイデルベルグはネッカー川が近くにあり山に囲まれ、建物は中世の趣を残し、街に人と車が多いが、すごく素敵な街だった。

もはや、日本に置いてきた彼女のことは忘れ、新しいドイツ生活での期待に心が浮かれていた。

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