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君に百回「好き」と言ってから死ぬ

〈#07 夏祭り(下)〉

 蒼さんとともに夏祭り会場へ到着。

 すでに蒼さんは目がキラキラしている。これは、たくさん奢らせてもらいます。

「梁くん……? どうかした? 私の顔になにかついてる?」

「……いや、蒼が可愛かったから、見とれてただけだ」

「そ、そっか……」

 そう言って蒼さんは顔を赤面した。かわいいなあ。

 赤面しつつ、握った手は離さない。可愛すぎて尊死するかもしれない。

「ま、せっかくまつりに来たし、何でも食え食え! 俺が奢ってやるぞ」

「ほ、ホント? 嬉しい。ありがと、大好き」

「お、おう……」

 その可愛さと笑顔で「大好き」は半端ない攻撃力だった。

「ふふ、さっきの私と同じことになってる」

 それを見て、蒼さんはからかうように楽しんできた。

「……参りました」

 謎の三文芝居をしつつ、屋台を回る。

 焼きそば、イカ焼き、金魚すくい、くじ引き……。

 まつりでおいてある基本的なおのがここには揃っていた。

「あ、射的」

「なんかほしいのあるか?」

「うーん……、梁くんが取れたやつなら何でもいいよ」

 その言葉を上目遣いでねだるように言ってきて心のなかでは悶ていた。

 『だからぁ! その攻撃力は半端ないって!』

 と、心でつぶやきつつ、狙いを定める。

 ――パァンッ!!

「なっ!?」

「どうだ」

「……わあ、梁君かっこいい!」

 梁の心のなかで「かっこいい」の言葉が反芻される。

 ――ジャキッ。

「え゛」

 ――パパパパパパパパパ!!!!

「まって! 潰れちゃうから! 手加減してお願い!」

 手加減を知らない梁くんだった。

 今、二人がいるのは屋台がきれいに見える暗い丘の中だ。

 そしてほくほく顔で梁がベンチに座っている。

 両手には大きめの紙袋が4つほど。射的屋さんは泣いていた。

「……梁くんって射的上手なんだね」

「いや、銃を使ったことがあるから基本的な使い方がわかるだけどよ」

「それはそれですごいね。かっこよかったよ」

「お、おう……」

 その「かっこいい」の言葉で心を何度うち抜かれたか。

「……好きだなあ」

「ん?」

「何事もなく『かっこいい』って言ってくれたり、俺と一緒にいてくれたり……。そんなところが好きだなって」

「……そっか。私も、こんな時間が好き。もっともっと、梁くんのことが知りたい。だから……ね?」

「え…………」

 そう言って、蒼はそっと、顔を近づけてきた。


 ――つややかな唇。


 ――少しあかい頬。


 ――少し触れたら崩れそうな小さな手。


 少しづつ、距離が近づいていき――




「「…………」」




 ――唇が触れ合った。


 柔らかく、顔が近く、蒼からはいい匂いがして、頭がパンクしそうで。

「……えへへ、なんだか恥ずかしいね」

「……おう」

 うまく返事ができなかったのは恥ずかしいとともに夜月よづきの光が強すぎたせい。

「さ、かえろっか」

 満月に照らされながら浴衣をひるがえしながら再び手をつなぎ直す。

「今日、ありがとうね」

「いや、俺こそ誘ってくれてありがとうな」

「……うん。いつも私の都合に合わせてくれてありがとう」

「そりゃ、当たり前やろ。大好きな人なんだから」

「……うん。ずっと好きだからね。絶対に離さないからね」

「俺もだ」

 そうして二人は家に帰宅した。

 その数日間は夏祭りのことを反芻しながら。






 ――梁の死亡まで91日。

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