難田かな

奥二重のような恋の記憶と日常のどうしようもなさを気まぐれで書いています。

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最近の記事

「明日から頑張ろう」と思い続けているうちに三十が過ぎていて、もう取り返しのつかない所まで来てしまったことをゆっくりと感じていく。明日は永遠に来るとどこかで思っていたんだろう。もうこの人生は諦めるから、早く次にいきたいなぁ。次はね、生まれた瞬間に夏目漱石を読むんだ。期待しててね。

    • 11月23日

      久しぶりに焼き芋を売る車を見かけた。幼い頃、あの音声を聞くとわくわくしたのを覚えている。別に焼き芋が特に好きなわけでもないのに、車から買うそれは特別なもののように思えた。半分に割っても、絵本で見たような黄金色は出てこない。でも少しくすんだただの黄色が、何よりも僕の秋を彩っていた。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

      • 11月22日

        自転車に乗った幼い兄妹。お兄ちゃんは妹を引き離してどんどん遠くへ走ってゆく。それを懸命に追いかけるおぼつかない車輪。しばらくするとお兄ちゃんが戻ってきた。「ちょっと休憩してから行こう」とカゴの中にはアイスが二つ。その小さな背中が頼もしくて、見上げた空もいつもより少し清々しく映る。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

        • 11月21日

          ‪餃子会に呼ばれる。所狭しと並ぶ色んな具材をみんな思い思いに包んでいく。「餃子は正義だな」と一人が言った。何を包んでも大体おいしいし、不恰好でも愛嬌がある。おまけに焼いても茹でても揚げてもいいという柔軟性。「そういうものに わたしはなりたい」と彼は続け、感慨深げにうなづく大人たち。‬ #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

        「明日から頑張ろう」と思い続けているうちに三十が過ぎていて、もう取り返しのつかない所まで来てしまったことをゆっくりと感じていく。明日は永遠に来るとどこかで思っていたんだろう。もうこの人生は諦めるから、早く次にいきたいなぁ。次はね、生まれた瞬間に夏目漱石を読むんだ。期待しててね。

          11月20日

          行きつけのバーにて。今月で閉店するのだと、まるで閉店時間を告げるみたいにさらりとマスターは言った。"またどこかで"はきっとない。「でももしまた偶然会えたら、今度はカウンターを隔てずに並んで座りましょう」と彼はグラスを掲げた。カウンター越しの最後の乾杯を、飾るにふさわしい金曜日。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月19日

          500人超えか、とニュースを見て同僚が呟く。ずっと家にこもっていた日々を思い出して、うんざりだねと僕は言う。「でも塞ぎ込んでるのがデフォルトの世界だから、駄目なのは自分なんじゃないってごまかせたんだよな」と彼が情けなさそうに笑うから、自分だけじゃなかったんだな、と僕は彼の肩を叩く。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

          11月18日

          彼女に浮気されて別れた、と同僚が嘆く。よくその子の作った弁当を自慢げに見せびらかしていたのに、今日はコンビニのパンに乱暴にかぶりついている。「あんなヤツ、食パンの角に頭ぶつけて怪我すりゃいい」と言うから、なんだかんだ優しい男だと関心していると彼は忠告した。「冷凍食パン、一斤ね」 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月17日

          リップクリームとかライターとか欲しい時に見つからなくて忘れた頃に出てくる。見つかる前に新しいものを買ってしまうから、手元にいっぱい。どうでもいいものは容易く失くして、また容易く手に入る。大事なものも同じくらい容易く失くなるのに、二度とは手に入らないなんてどういう悪戯か教えてよ。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月16日

          久々に髪を切って襟足がすーすーする。すーすーする、というのはこの時期だから合ってるけど、夏でも言うのはおかしいななんてことを思う。"無防備だね"といつか言われた。ここに急所がある巨人でもあるまいし、とおどけて襟足を隠した。すーすーするようなやりとりも、二人なら子供になれた日々。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月14日

          薄紫と橙色の夕方、人の顔はどこか優しげだ。待ち合わせしていたり、自転車をこいでたり、犬の散歩をしたり。"ああ、あれいいよね"と何てこともない話をしてる恋人とすれ違った。"ああ、あれいいよね"と頭の中で繰り返す。当たり前の"おそろい"があの頃はあった。今は色違いでさえ持ち合わせがないな。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月13日

          ランチ後にガムをもらいポケットに突っ込む。歩いているうちに足裏に違和感を覚えて、見てみると吐き捨てられたガムが靴底にくっついていた。無様に味も色もなくなったくせ、人の靴にしつこくくっついて執着し続ける。誰かの行く末かもなと心の中で嘲笑しながら、ポケットのガムをきゅっと握りしめる。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

          11月12日

          東京のビル群に埋め込まれたいくつもの窓。四角い明かりの数え切れなさに愕然とする。無数の人生に愕然とする。この中で主役になるなんて到底無理だから、それぞれに自分が主役の人生を生きてるんだろう。誰もが自分が一番なら平等なはずなのに、僕は時々どうしようもなく、君じゃなきゃだめだった。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛^_^

          11月11日

          病院に行って体調がよくなってきた。上階の子供の足音も下手くそなピアノの練習も、徐々にちゃんと煩わしく感じてくる。美味しいものを食べたいと思えて、自分のためにスーパーに行く。一人じゃないと思い込む小細工もする。久々に聞きたくなった声を、音楽のボリュームを上げてごまかすこともできる。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月10日

          昨日から熱が下がらない。市販薬で凌ぎつつせめて何か食べなくてはとお粥を作る。卵もネギもいいや、とできあがったのはふやけた塩味の米。結局自分のことを"お大事に"するなんて僕にはできないみたいで、明日は病院に行こう、と思う。決まり文句だとしても必要な救いはあると信じて、眠りにつく。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート

          11月9日

          月曜から風邪を引く。早めに帰って布団に潜り、誰もいない部屋に自分の息づかいが頼りなく響く。いつもは煩わしいと思う上階の子供がバタバタ走る音や、どこかの下手くそなピアノの練習、車道を行き交う喧騒が愛おしい。愛おしい、という感情がまだ自分にあることに驚いて、今、一人なんだな、と思う。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛

          11月8日

          空腹の友達に目玉焼きを所望される。"目玉焼きをナメちゃだめだ"、片面焼きか両面焼き、しっかりか半熟、調味料の有無、できあがりが何通りもあることを説明してついに自分で作りだす。「簡単なものでも相手がいたら、いくらでも奥が深くなったり難しくなったりするもんだよ」。何かあったな、と思う。 #日記 #小説 #短編小説 #超短編小説 #ショートショート #恋愛