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勝手に2021年ベスト小説TOP3

大晦日。今年読んで最高だった小説たちの中から特に凄まじかったものを3つ紹介します。

■3位:『教育』遠野遥

設定と登場人物造形が完璧すぎる。主人公にとっては当たり前の生活が、読者から見ればとことん異常。そのギャップから来る気持ち悪さが全部プラスに働いていて、常に面白い。何を読まされているのか?と混乱しながら、こちらが不安になるくらい純粋で真っ直ぐな主人公によってギリギリ現実味が湧いてくる。違和感を抱き始めている登場人物がいてもブレない主人公に笑ってしまう。作中作や催眠術中の描写も絶妙な不思議さで、ぐんぐん引き込まれる。派手じゃないのに思わず一気読みしてしまうような、理想的な小説でした。

■2位:『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬

『鬼滅の刃』を小説でやれ、というミッションがあったとして、それにあらゆる小説家が挑んだとして、1番の傑作はきっとこれ。デビュー作にして既に直木賞ノミネートとかなり話題ですが、まだまだ読者を増やすポテンシャルを感じます。1位の小説が今年じゃなければ、間違いなくこれがトップでした。特に後半は、ページを繰る手を止める方法があるなら教えてほしいレベルで圧倒的。イリーナ、シャルロッタ、ヤーナ、オリガ、アヤ、ターニャ、そして主人公セラフィマ。主要登場人物全員が、本当に全員が、愛すべき人物で、読み終わるのが寂しくなります。息を呑むシーンも多く、現実に自分が見ているのは文字だけなのに、実際にそのシーンが目に焼き付くような臨場感。女性たちの目を通してでなければ見えてこない矛盾が丁寧に描かれているのも印象的でした。

■1位:『テスカトリポカ』佐藤究

今年どころか、ここ数年で1番面白い小説でした。メキシコの麻薬戦争が題材になっていることもあり序盤からバタバタと人が死んでいくのですが、ただの暴力が主軸の小説には一貫してならず、冷静で淡々とした客観的な描写が続きます。情景も動作も徹底的に細かく描き切り、地の文の一つ一つからパワーが溢れまくっていて、「面白い!面白い!」と内心叫びながら一文字も見逃せなくてじっくりゆっくり読んでしまいます。コシモとバルミロ、2人の主人公がそれぞれ歩んでいた道が交わる瞬間は鳥肌が立ちました。アステカ文明との繋がりが物語に計り知れない奥行きを与えていて、読了後もメキシコやアステカ文明のことをもっと知りたくなるような引力があります。もしもこの設定やストーリーを神がかり的に思いつけたとしても絶対にこうは書けない、佐藤究にしか創り得ない緻密な世界。ぜひ単行本で買って、物理的な厚みから漂ってくる暗黒を感じながら読んでほしい一冊です。


■番外編:「仙女」佐藤哲也

400字くらいのすぐに読み終わる小説なのですが、声を上げて笑いました。この長さの文章で1番面白いものは後にも先にもこれ以外ないでしょう。今これを書きながら思い出し笑いをしています。


今年もいい一年でした。来年も素敵な小説にたくさん出会えることを願って。

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