メキシコでの出会いとタコスと高山病
学生の頃からずっと憧れていたメキシコ。
25歳になる直前、ついに行くことができた。
社会人になってから一人旅をする時は、だいたいいつもホテルを取っていた。
だけど治安に少し不安があったり、情報が欲しかったりしたので、このメキシコ旅行では人生で初めて日本人宿という場所を予約した。
メキシコシティの空港に着いた時にはもう22時過ぎで外は真っ暗。
宿へ向かうタクシーを拾う。
タクシーのドライバーさんはあんまり英語が話せないおじちゃんだった。
宿を見せても、どこや...?という反応。
夜中のメキシコで、たぶんこの辺やろ的なノリで降ろされるのはさすがに嫌すぎる。ここやと確信が持てる場所に着くまで私はしがみついてでも絶対にこのタクシーを降りないと心に決めた。
おじちゃんは途中で、あーたぶん分かった!みたいな反応になり、宿の前にしっかりと停めてくれた。はあよかった。
もう23時過ぎ。
すいませんこんな遅くに... と思いながら恐る恐る宿に入ると、まだ起きてる人たちがダイニングスペースのような場所で溜まって話していた。
「こんばんは。アヴィーチ死にましたね。」
いや、会話の入り口癖強すぎる。
私もニュース見てびっくりしたけども。
溜まり場の輪の中に手招かれたので座ってみる。
バックパッカーとか、バイクで世界一周している年配の方とか、職業不明な人とか、なんだかよく分からない人とか、いろんな人がいた。
やっぱりこういうところに集まる人って癖強いなあ〜〜と思いながら眺めていた。
今なら分かる、カタールに住んでいて1人でメキシコに来た女も完全にこの集団にカテゴライズされるであろう。
10歳くらい年上の森田剛風の人に、明日の予定を聞かれる。
メキシコに来た理由は、ある地方都市の景色がどうしても見たかったから。
でもせっかくはるばるメキシコまで行くなら、メキシコシティにも行っておこう。そんな感じでとりあえずメキシコシティに来ていた私には、予定という予定があまりなかった。
なので正直にやりたいことを答えてみる。
なんにも決めてないけど、とりあえず美味しいタコスが食べたい。
変なアレンジが加えられてない、ローカルのお店の本場のタコスが食べたい。
すると明日は観光初日だし、危険なゾーンも分からないと思うから一緒にぶらぶらする?とのこと。
おすすめのタコスのお店も連れて行ってくれるらしい。
普段なら、自分で行きたい!と決めて行った旅先で誰かと一緒に行動することはしないけど、
(人が嫌いとかでは全くなくて、ただただ気遣わず自分のペースで旅行がしたい)
タコスに完全に釣られて私は翌日彼について行くことにした。
朝ごはんを食べて森田剛風の彼とダイニングで待ち合わせをする。
ぶらぶらと街歩き。
うわ〜〜!私ほんまにメキシコにいる!と思わせてくれる景色がいっぱいで、すごくワクワクしていた。
独特な匂いとか、全然理解はできないけど響きが好きなスペイン語とか、ローカル感あふれる屋台がさらにワクワクを増してくれる。
そんな楽しい気持ちで信号待ちしている時に、彼がこんなことを話し始めた。
「この信号待ってる時に、後ろから誰かに口に薬入れられて、その後の記憶がない。
気づいた時にはほぼ服着てない状態で、パスポートも財布も全部取られて知らない道に捨てられてた。
それで今はメキシコで寿司職人を目指してる。」
一体どこからつっこめばいい?
とりあえず最後が1番意味わからん。
ほぼ裸の状態で、自分が今どこにいるのかを周りの人に聞くところから始まり、
身分を証明するものも全部取られたから大使館に行ったりあらゆる手続きをしたり、本当に大変だったらしい。
そりゃそうやと思う。想像するだけで気絶できるくらいの出来事。
全て失った、だからここで寿司職人になろう。
飲食してたんですか?って聞いたら、してないらしい。ああダメだ、もう分からない。
やっぱり普通じゃない。だいぶ頭飛んじゃってる。そう思いながらも彼と街歩きを続けた。
少しローカルなエリアにも着いて行った。
途中からだんだんと道に落ちてるゴミが増えて行ったり、分かりやすく雰囲気が変わっていく。
これくらいにしとこうか、これ以上先はやめた方がいいよ、と言われてUターン。
このあたりは昼間だったら大丈夫、この先の道はこの前人殺されたから行かないほうがいい、とか、私の欲しい情報を教えてくれた。
ちゃんとしてる。暴動見に行こっか、くらいは言われる覚悟である程度腹くくってたよ。
約束通り、タコスのお店にも連れて行ってくれた。
無駄な物は入ってないシンプルな感じと、山盛りのパクチー。
めちゃくちゃ安そうなお皿。いっぱいのライム。
トルティーヤの味もちゃんと分かる、素材の味が伝わってくるタコス。最高だった。
ちょうどいい気候の中で、マリアッチが演奏してくれる音楽を聴きながらのタコスとビール。
隣のテーブルで陽気に笑いながら普通に酒飲んでる警察官たち。
これだけでもメキシコに来てよかったと思えた。
フワフワした気分でお店を後にし、数日後に1人で地方都市に行くからSIMカードを買いたいと言うとそれも彼が案内してくれた。
一生懸命にスペイン語でお店の人に色々と聞いてくれ、完全に彼任せでSIMカードを入手。
もう本当にありがとうございます!とお礼を言いながら携帯ショップを出たあたりで、急に恐ろしい程のめまいに襲われる。
やばい、立ってられへん。
さっきのビールになんか混ざってた?
いやでも蓋開けたところ見たよな...
道端に座り込みながらいろいろ考えてたら、高山病じゃないかと言われる。
メキシコシティの標高は2240メートルもあるらしい。
やばい吐きそう。ほんまに吐きそう。
でも吐いたらさっきのタコスが出てまう。
あかん勿体無い勿体無い勿体無い。
絶対にこのタコスは体内に留めたい。吐くもんか。
座って下を向きながら自分自身との戦いを続け、なんとかタコスの残留に成功。少し落ち着いたところで彼に助けてもらいながら宿に戻る。
水飲んだほうがいいよ、と言われ、ウォーターサーバーの水をガンガンに飲んでいたらだいぶ落ち着いた。
そもそも標高が高い場所には慣れてない。そんなところで私のテンションはぶち上がってて、お酒も加わってあんなことになってしまったんじゃないかと思う。
メキシコシティへ行かれる際はみなさんもどうか気をつけて。
そして今これ書きながら改めて思ったけど、森田剛風、めちゃくちゃいい人。
頭飛んでることには変わりはないけど、彼のおかげで私は危ない思いをせずに街歩きも食べ物も楽しめたし、SIMも買えたし道端でぶっ倒れずに帰って来れた。
森田剛風とかやめよう。もう森田剛って呼ぼう。
よく分からない国からやってきた、タコスを食べたいだけの女にあんなに親切にしてくれて本当にありがとう。
森田剛、今何してるんやろう。
ちゃんとメキシコで寿司職人になれたんかな。
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