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初フライトはマスカット

地獄の2ヶ月のトレーニングを経て、それはそれは念願の初フライト。

るんるんでブリーフィングルーム(フライト前にミーティングをする場所)へ。

何もできないし何も分からないから部屋に入った瞬間、今日が初フライトです!と宣言。

そしたら皆して、

「Oh, poor girl 今日の機体はクソやで」
「なんかあったらすぐ死ぬやつや」
「死ぬ時は一緒な」

いやどういうこと。

何も分かってないから比較対象ないねん、クソかどうかも分からへん。だれか説明してくれ。

詳細を聞くまでもなく初めてのミーティング、初めてのチェックイン、どんどん事が進んでいく。気づけば機内。

行き先はオマーン、マスカット。
フライト時間は40分。離着陸前は客室乗務員も着席する必要があるため、サービスに使える時間は約20分。

20分で130人近くに飲み物とサンドイッチを配り、食べ終わった後のゴミを回収して片付けて、離陸に向けてお客さまと機内の安全確認をする。

何も分かってない私でも分かる、比率おかしい。どないして20分でこれ全部終わらせるねん。

着陸前から猛ダッシュで準備。離陸後、まだ飛行機が上昇中で明らかに傾いてる状態の時にはもう周りのクルーの見よう見まねでばら撒くようにサンドイッチを配っていた。

配り終わったと思ったらすぐゴミの回収。からの安全確認。シートベルトサインはすでに点灯したのに依然として散らばっている皆さまに座ってもらうのがまた大変。なぜかトイレから出てこない人々。離陸して30分も経ってないのに床にはゴミ散らかりまくり。それどころかなぜか子どもまで床に転がってる。

物をあるべき場所に戻し、お客さまを座らせながら思ってた。

これはもう運動会。競技や。

でもその日一緒に仕事をしてたクルー達が本当にテキパキしてて、ハキハキ教えてくれて笑いながら過ごせたのも覚えてる。
この後、信じられないようなクルー達ともたくさん出会っていくわけなので、私の初フライトは彼らと一緒で良かったと今になっても改めて思う。

そして働いてみて、これはクソだと言われた機材の理由もなんとなく分かった。

コーヒー大量に頼まれるのにコーヒーメーカーがない。(そんなパターンはトレーニング中にも聞いていないので濃さとかよく分からずとりあえず粉をぶち込み作った)

そして座席にモニターもない。初フライトにて、シートベルトの締め方やライフジャケットの使い方を実演。これもとにかく前方クルーの見よう見まねでやってみた。

そしてその日の機体はなぜか会社のカラーとは全く違う色の機材だった。

これについてはお客さまに聞かれた。
「なんでこの飛行機はいつもと色が違うの?」

クソだからみたいです。

と答えるわけにはいかない、そして私は何にも分かっていない。運動会の最中なので聞きに行っている時間もない。

「Because it’s special.」

これで乗り切った。(乗り切れたんか?)

そんな感じで私の初めての競技は終了。

ちなみにそのフライトは、その日の客室責任者にとって昇級して初めてのフライトだったらしく前方で全力でパニックになっていた。

分かりやすく右往左往しているのが後方から見えていた。途中、なぜか日本語の緊急脱出の自動アナウンスまで流していた。(もちろん安全に飛行中、日本人のお客さまはゼロ。)

フライト終わりに、初フライトだった私は報告書みたいなのを責任者に書いてもらう必要がありお願いしに行った。フライト中、お互いが自分の状況に必死すぎて私たちは一言も喋ってない。

報告書にはしっかり出来ていた、素晴らしいクルーになるでしょう、みたいに書かれていた。ありがとう、想像でそんないいこと書いてくれて。

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