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『GIKYOKU! Vol.1』収録作品のこと

収録作品

全9作品
(生徒創作4作品・顧問創作2作品・生徒顧問合作3作品)

◎夢ぐらい語らせてください(生徒創作)2018年
浅井日向子・井関優花・大道望央・本村綾夏

○ゲームオーバー(顧問創作)2019年
籔 博晶

○Bを待ちながら(顧問創作)2019年
四宮 豊

◇旅立ちの日に(生徒顧問合作)2020年
西川龍生と籔 博晶

◎ぶれている、夏(生徒創作)2020年
木下沙弥

◇朝顔の咲く線路(生徒顧問合作)2020年
正垣結羽・大木谷佳昭

◇たからもの(生徒顧問合作)2021年
高橋 蘭/藤居 徹

◎晴れの日、曇り通り雨(生徒創作)2021年
古賀はなを

◎湖上の蟬(生徒創作)2021年
中村圭吾

各作品についての個人的な想い

 収録作のほとんどは、兵庫県大会止まりだった作品です。
 知る人が少ない作品です。
 近畿大会へ、全国大会へ進めなかったから良くない作品か?と言われれば、絶対にそうではありません。

 (個人的には)どの作品もとても面白いと自信を持っています。
 ぜひ、兵庫県の創作台本に触れていただければ幸いです。


夢ぐらい語らせてください

 近未来2043年──。「私たちの生活を豊かにする」というGOS(遺伝子組み換え人間性改良皮下注射)が実用化された世界。16歳になるとGOS接種が義務化されているメトロポリスTOKYO。
 そのGOSと夢をめぐる高校生たちのお話です。

 今回、とても収録したかった作品のひとつです。
 舞台では最後の余韻がとても印象的でした。おそらくその余韻が、作品の最も投げかけたかったところなのでしょう。
 その部分は、しっかりと台本にも書かれています。
 高校生だけでなく大人側の視点もあることが、この作品の肝であると思います。

 そして正直、最も収録できると思っていなかった作品です。
 生徒4人の合作になっており、少し前の作品ということもあり、4人全員の確認を取るのがとても難しいことだと感じていたからです。しかし、神戸支部の現役生の活躍があってたどり着くことができました。本当にありがとうございます。


ゲームオーバー

 eスポーツ同好会の部室。そこへ西日本大会へ遠征していた部員たちが戻ってきて、物語が動き出す。それぞれがそれぞれの“想い”を抱えたその日がどうなっていくのか……?

 籔先生の作品には、いつも「こういう作品を書きたい」と思わされます。何か飛び道具があるわけでもなく、普遍的な日常の中で起こるドラマ。誰にでもあるドラマチックな一面を捉えているように思います。


Bを待ちながら

 舞台上にはバス停とベンチ。まるで別役実の舞台設定のような中ではじまる、コンクール最終日、負けた演劇部のお話です。

 おそらく同校演劇部をモチーフに書かれていると思われる台本です。顧問創作ですが、(作中の)顧問に対する(実際に基づいた)自虐ネタがあります(笑)。
 高校演劇のコンクールの審査は、明確な基準があるわけではありません(基準をつくれないほど演劇は懐が広いのです)。だからこそ、「自分たちが良い上演をした」という想いが強いほど、負けた帰り道にはいろいろあります。
 その時間経過が秀逸だと感じていました。


旅立ちの日に

 卒業式の日、校舎の片隅にあるある部屋へと偶然集まった5人の物語。
 卒業式の流れの中で、(登場人物以外も含め)それぞれの個性が現れ、集団の中の個人が描かれます。

 「はりこのトラの穴」で公開されており、既にいくつかの演劇部でも上演されている作品です。
 台本にそういう指示があるわけではないですが、(前年の『ゲームオーバー』同様)音響の設計も秀逸でした。この音響の流れは、もしかしたら県立東播磨高校演劇部の『アルプススタンドのはしの方』へ遡るのかも知れません。
 卒業式について、音響で再現するか、別の方法を採るかは、演出次第ですけどね。

 実は『GIKYOKU!』はこの作品からはじまりました。より正しくは、この作品の作者のTweetがきっかけでした。ありがとうございます。
 ようやく本になります。随分とお待たせしました。


ぶれている、夏

 たった3人の写真部が舞台のお話です。
 3人でも想いは違い、わかっていないこともある。フィルムカメラが重要な小道具として登場します。

 こちらも今回、とても収録したかった作品です。

 台本を見て初めて、細かなト書きにビックリしました。そして、掲載にあたりいくつか修正指示もありました(こだわりを感じます)。
 上演では3人のすれ違いは観客への投げかけで終わっているように感じました。しかし、台本を読むと(明確にそうとは書かれていませんが)解決しているように書かれています。
 最終的には上演の解釈は観客へ委ねられるのですが、そういう余韻がよく表現されている作品だと思います。


朝顔の咲く線路

 1945年ヒロシマ。電車を運行する女学生たちの物語。

 兵庫県大会で戦時中を題材とした作品が上演されることは非常に稀です。その県大会でヒロシマが舞台となった作品を観たのは、(個人的に)初めてのことでした。
 今回収録はできませんでしたが、(2018年に上演された)阪神淡路大震災を題材とした生徒創作にもビックリしました。
 こちらの作品は生徒顧問合作ですが、なぜ今(実体験としては知らない)ヒロシマを描くのか?広島県外の高校生が描くこと。描かなければいけない必然性も、上演では感じました。


たからもの

 COVID-19下の演劇部を描いた作品です。

 高校演劇で演劇部ものは(身近な題材なので)多いですし、その多くの演劇部もので、「事件が発生し公演が危機に陥る」というのは、よくある話です。しかし、その〈事件〉が全世界的にパンデミックを引き起こすCOVID-19、〈みんなが経験したこと〉になると事情が少し変わります。どれだけ多くの高校生が涙したことだろう……。
 2021年のどうしようもない日常が、この作品には詰まっています。


晴れの日、曇り通り雨

 陽もあまり差さない、人もあまり来ないであろう、校舎裏の花壇。
 卒業式の日、その花壇を舞台にした、ある友達の物語。

 掲載作品の中では最も有名な作品です。全国大会へ出場したので、『季刊 高校演劇』にも収録されています。
 改めて台本を読むと、ひとつひとつのセリフが後々になって効いてくるのがわかります。
 ある正しさは、別の角度からは正しいとは限らない。友達とは何なのか。最後のト書きが作者の想いとなって溢れています。


湖上の蝉

 ある演劇部の部室が舞台。
 物語は約40年前(1983年)と現在(2021年)が交錯する形で進んでいく。

 上演は小劇場演劇の雰囲気が漂っていました。台本も同じくそんな匂いがします。
 大掛かりな装置は必要とせず、役者3人の小さな舞台で、しかし、照明転換や音響についても指示されてます。明らかに上演を想像しながら書かれたことが伺えます。なお、県大会の上演では、作者が演出を兼ねられていました。


ご購入について

 ASOBU KAPPANのSTORESにて販売いたします。

 2023年7月7日(金)20:00より予約開始予定です。
 よほどのことがない限り増刷はしませんので、この機会に是非お求めください。
 どうぞよろしくお願いいたします。

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