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思い出す、振り返る、書き留める


横浜のひと色展がおわった。

イシノアサミさん、
横浜まで来ていただきほんとうにありがとうございました。


準備のあいだ、わたしが考えていたことをちょっと書き留めておく。誰かがみたら笑うかもしれない。「それ言ってた」とか思い出して。

わたしがいつも心に留めていたのは、こういうことだった。

 心を留めていただきたいのは、プロフェッショナルがその専門性を十分に活かすためには、専門領域の知識だけではどうにもならないということです。なぜなら、一つの専門性は他の専門性とうまく編まれることがないと、現実の世界でみずからの専門性を全うすることができないからです。一つのアイディアを制度として定着させようとするとき、一つの発見を医療の現場で活かそうとするとき、さらには一人の画家の仕事をまとめ展覧会を開こうとするとき、 法律や経理、調達や広報といった別のプロフェッショナルたちとしっかり組まなくてはなりませ ん。
 別の領域のプロフェッショナルと同じ一つの課題に共同で取り組むことができるためには、自分の専門的知見について、別の専門家(つまりそれについてのまったくの素人)に関心をもってもらえるよう、そして正しく理解してもらえるよう、みずからの専門についてイメージ豊かに説明することがまずは必要です。彼らにその気にならせないといけないからです。そしてさらにそのためには、異なる分野のプロフェッショナルたちのこだわりをよく理解し、また深く刺激するような訴えかけをしなければなりません。

鷲田清一 平成22年度卒業式・学位記授与式 総長式辞


 われわれがプロフェッショナルかどうかはさておいて。


 端的に言えば、ちゃんとコミュニケーションを取ろうよ、ということになる。そうはいってもコミュニケーションとは何だろう。

 自分のこだわりを相手にわかるように伝えようとすることであり、自分の思いが正しく伝わっているか確認することであり、伝えようとする相手を理解しようと努めることでもある。

 やりたいことを伝える、それでいて独りよがりにならない。全体のバランスを見ながら重心がどこにあるかを見極める。

 そうして骨格が決まれば、物事はおぼろげな形に命が吹き込まれたかのように動き出す。そうして自発的に動き出した物事は、その動きに応じてより具体的な形をもつようになり、その形をみて人は新しいアイデアを出す。その過程においても、物事の重心はどこか、軸がどこにあるかを常に把握しておく必要がある。

 それを繰り返して、物事はだんだんとみんなが同じ形をみるようになるまで成長を続ける。



 わたしは自分に対してこれから書くようなことを考えていた気がする。そのまま、人に対しても、そういうスタンスで接していた気がする。

 あなたのやりたいことは何ですか。わたしのやりたいことはこういうことです。このふたりが「やってよかった」と振り返るようになるにはどうすればよいですか。

 あの人がやりたいことはこういうことだと聞いています。ここに加えたら「やってよかった」と思えるでしょうか。振り返ったときに「やってくれてありがとう」と言えるでしょうか。それとも、他のものとの調和を乱してしまう懸念はないでしょうか。そこに調和を見出すにはどういう工夫があればいいでしょうね。

 ここでいう成功って、物事がおわって振り返ったときに「関わってよかった」と思えることだと思うんですよ。たとえば誰が来たとか来ないとか、何人来たからいいとかダメとか、そういう物差しも世間にはあるんだと思うんですけど、それって自分で制御できないし、自分の外側のことを気にしても何ともできないですよね。そこに成功の軸を置くときっと振り回されるし、気にしなくていいことが増えていくんじゃないでしょうかね。

 そもそも、いままで釣り合っていると思っていたものは正しいでしょうか、思い込みだけで進んではいないでしょうか。

 伝えておくのはこういうこと、そのさきは個人の思い込みとも受け取れることだから、伝える必要はないように思います。シンプルに「上手くいってよかった」という状態で振り返れるように準備しよう、そこに集中していけばおのずと同じ方向をみるようになります。

 上手くいってよかったって、どういうことなんでしょうね。自分がそこに参加して、何か力になれたとか、物事のひとつのピースとして自分の提案がうまく機能したとか、そういうことだと思うんですよね。それを積み重ねようとしているのだから、上手くいくんじゃないのかなあ。仮にね、そういうことを積み上げて「上手くいかなかった」というんであれば、どこか考え方を修正すればいいと思うんですよ。他の人から「やってくれてよかった」と言ってもらえるとか、それがあれば上手くいったってことなんじゃないでしょうかね。

 上手くいくことのために準備をしているのだから、不安に感じる要素はひとつもありません。あるとすれば天気でしょうね。成功することを組み上げようとしていて、何も不安に思うこと、ないんじゃないかなと思うんですよ。

 なんとなくもやもやしているんだったら、そうですね、上手くいかないっていうのは、いったいどういう状態かいちど言葉にしてみましょう。会期が終わった時に「上手くいかなかった、残念だった」とみんなで落ち込むとしたら、どういう状態か。自分がガックリする状態ってどういう場合なのか。そんなこと、あります? あるんだったらその要素を消すように行動したほうがいい。

 うまくいかない要素、その不安や懸念を消すことで、物事は必ずうまくいく。自分の手に負えないことは、気にしないようにしましょう。たとえば、さっき言った天気とか、その日が台風だっていったところで誰も責任とれませんよね。そういうことは気にしない。気にしたってしょうがないから。昔の人って何て言ったか知ってますか? こういうのを「杞憂」って言ったそうですよ。少なくとも、空は落ちてこないから。

 何ていうんでしょうね、こう、相手が心地よくなるコミュニケーションって別に要らないっていうか、めんどくさいからわたしはそういうのあんまり考えてないけれど。それより、目的に合ってますか、そもそもやろうとしたきっかけはどこにあったのか、そこに照らした時に、やったほうがいいのか、やめたほうがいいのかってところかなと思うんですよ。

 たとえば、あなたの言っていることはわたしなりにこういうことだと理解しました。その一方で、目的はこういうところにあると理解しています。このふたつを並べた時、もういちど考えてみましょう。初めてこのふたつを見たとしてね、そういう気持ちにならないかもしれないけどね、じゃあ、おうちで家族に「あのさー」って相談したとしようよ。相談を持ちかけられた相手は何ていうと思う? 家族じゃなくても、信頼できるお友達とか。ね。これやったほうがいい!、と言うか、要らないんじゃない?、と言うか。

 一歩引いて考えるって、自分じゃない人に相談してみるってことだと思うんですよ。直接でもいいし、バーチャルでもいいから、ほら、脳内で、信頼できる人に。できれば3人くらい。そしたらその人は脳内でどう言ってくれるか、ちょっと試してみましょう。できるよ、できる。だって成功することに向かってるんですから。

 一言でいえば「成功することに向かってるんだから大丈夫」ってことだと思うんですよね。成功ってほら、「関わってよかった」と思えることです。逆に「関わってよかった」と思えない物事だとしたら、今の時点で関わってないでしょう? そういうことですよ、ほんと。

 だから、ちょっと考えるんですけどね、どうにも「うまくいく」しかないんです。



ほんとうにうまくいくかどうかは、本音ではわからない。だって未来のことだから。そしてわからないんだったら「うまくいく」と思ってやったほうが、いい時間を過ごせるんじゃないかと、わたくしなんかはそう思うわけです。



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