ライダーの記憶 出会いと別れ
わたしはあるとき、
二輪を買い換えたのであった。
それまで何万キロと走った愛着がある一方で
友達と乗り換えて楽しんだり雑誌を見たりしていると、少し毛色の違うものに乗ってみたくもなるのであった。
ここは人それぞれの考え方なので、どういうやり方がいいとか悪いとかではなく、当時のわたしはそう思っていたのだ。
わたしが乗っていたモデルは、デザインも好きだったし、インジェクションのクセを把握すればとても素直で乗りやすかったのだけれど、どうも不人気車で、わたしほど走行距離が伸びたものはなかったために値段がつかないと言われてしまった。
SV1000S。
個性的なデザインが好きだった。
私はかっこいいと思ったんだけど。
今なら自分の乗っていたものを買い戻して手元においておきたい。
下取りに出す日、その後ずっとお世話になるバイク屋さんへ乗って行った。引き渡しの時に
「新しい出会いがあれば、別れがあるものです」
とお店の社長さんに言われた。社長さんは柔らかい笑顔だった。私は最後にタンクをなでた。
殆ど傷をつけず
転倒することもなく
事故もなく
きれいに乗ったことに
改めて気づいた。
そこで乗り換えたものでまた日本を何万キロと走った。
一度の転倒もなく
事故もなく
これもきれいに乗った。
FZ1 FAZER。
そうして
そのバイクとも別れがあった。
いくつかのバイクを乗り継いできて
その時に見えた景色を言葉に落として
忘れないようにしている。