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ライダーの記憶 お見舞いの話

昔、メモをしていた。


*   *   *


バイクに事故がつきものだ、
とはあまり言いたくないのだけれど、
周りを見ると
車に比べて事故に遭う確率は高いように思う。

私の周りでは、私も含めてそれぞれがなにかしら事故の体験を持っていて、幸いなことにみな五体満足で生きている。


ある時
ツーリング友達が入院したと聞いた。
彼女は遠目から見ても
ひとめでわかるほどの美形である。
身長は150cmとちょっと。
車体が軽いという理由で
600ccクラスのフルカウルを
ローダウン仕様にして乗っていた。


彼女は
他の低身長ライダーたち数人と
「ちびっこクラブ」なるものを結成して
低身長ライダーがバイクに乗るにあたり、
アパレルを揃えるにあたり、
いかに苦労しているかを
その会員たちと分かち合っていたのであった。

彼女の走りっぷりは
なかなかのものではあったけれど
コーナーに飛び込んでいく様子を後ろから見ていると
攻めている、というよりは突っ込んでいく、という感じで
そこに彼女の性格がでているように思った。


入院した、
ときいたときは驚いたものの、
一方で
ああ、とうとうやったか、
とも思った。

私は
当時のバイク仲間と二人で彼女を見舞いに行ったのであるが
そこには
私たちの知らない地元の友達が先に
見舞いに来ていたのであった。

その方はバイクとは無縁のようで
私は形式どおりのあいさつをして
そのあと
二人とも彼女のバイク仲間です、と付け加えた。


 初対面であった彼女の友達は不思議そうな顔で
「バイクに乗りそうな感じ、しないですよね」
と言った。


ベッドの上の彼女は
「この二人とも、とんでもない走り屋なの」
とニヤニヤして私たちを紹介した。
彼女は化粧をしていなかったが十分にきれいだった。


私は苦笑いして
「まあ、バイク乗りですから」
と言った。

すると
「でも」という言葉が返ってきた。
「なんか、バイクのイメージないですよね」
彼女の友達は
まだ納得いかないような顔をしている。


私は
自分が十分にライダー然としている
と勝手に思っていたのであるが
どうにもそうは見えなかったようである。
では一体どう見えたのであろうか。

「静かに本読んだりしてそうです」


私たちは
自分たちがバイク乗りには見られないことに
いささかショックを受けて病院を後にした。

二人とも酒におぼれてそうだ、
と言われなかっただけよかったのかもしれない
(初対面で言われたら、それはそれでショックだけれど)。


その後、
彼女は無事退院し今では二児の母である。