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ライダーのいたずら

ライダーとはあれです。
バイク乗りのことであるよ。

ゴツゴツのプロテクターが入った上着を着ている。
プロテクターとは、肩パットとか、肘パットのことです。
そして、そのジャケットの素材は革だったりすることもあるね。
これを着ているだけで何か日常ならぬ雰囲気である。


あなたは日常、革ジャン着ますか。
夏はないだろうけれど、たとえば、冬は。
着る? 着ない?
着るのは少数派な気がするね。
そして、わたしの日常も革ジャンとは無縁なのです。
1着どころか、1ミリもありませんわ。


では日常は何を着ているのか。
ゆに黒などで売っている、売れ残り半額のシャツである。
あの、ちょっとヘンな柄や、不思議な色合いのものである。
サイズがSだけやたら残ってたりして
「なんやねんな」と思うアレである。
そういうものこそ、
誰も着ないので何となく気が楽である。

バイク乗りはちょっと人と違うものを選ぶのが好きなのであった。


閑話休題とはこのことでしたか。



ライダーは、前述の、
そういうプロテクター入りのジャケットを着ているのであった。
そして、下半身も同じく膝パットの入った革パンだったりするのである。
全身ゴツゴツである。迫力ありまんな。

そういうカッコした人が、
バイクに乗って走るのである。
革の手袋をして。
フルフェイスをかぶって。

何と言おうか、
気合の塊のように見えるけれど
そうでもないのである。
自分の身を守ろうと思うと
そのような出で立ちになるのであった。



今日、道を歩いていると、
ライダーがわたしを追い越していった。
エンジン音に反応して振り返ったと思ったら
すぐに追い越していった。古いGSX。
どんな人だか全然わからなかった。
そういうものである。

歩行者から見ると、
バイクに人が乗っていることはわかるのだけれど
どんな人が乗っているのかよくわからないのである。
顔もわからず、声も聞こえず、
あっという間に走り去っていく。
そのあとは風が巻いて、
丸まった背中が小さくなるのである。

いったいどんな人が乗ってるのか。

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バイクから手を振ってみたことがある。
車でも、歩行者でも。
信号待ちで、「あ…、バイクだな」とこっちを見るともなく見ている人に。
ちょっといたずらをする気分。
思わず手を振り返してくれる人がいる。
ハッと気づいて目を反らす人も、全力でバイバーイ!とやる男の子も。
あちらから見えるのは、フルフェイス越しの
わたしの目だけ。

わからないから想像する。
バイクに乗っているのはどんな人だろう。
どんな声だろう。
何を考えて走っているのだろう。

……。


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わたしは
高速道路でよくイタズラをしたのであった。
ファミリーでお出掛けしている車の後ろに
そこそこ近づくのである。当たり前だけれど、周りの状況をみながら。

あまり近づいていくと煽っているようにも見えるので
たとえば、3車線の真ん中だと、
白バイよろしくミラーの死角に入ったりする。

お出掛け中の車にはたいがい、
後部座席にお子様が乗っているのである。
それが男の子でも女の子でもこちらに釘付けである。

ライダーが珍しいからである。

子どもにとってわたしは「バイクの人」であって男でも女でもない。
フルフェイスから見える目だけでは、きっとわからない。
ゴツゴツのジャケットを着て。

こどもは珍しそうに何秒かの間、こちらをじっと見ているのである。
高速道路のこの何秒かの間はライダーには長いのであった。

わたしはここで、左手を振って挨拶するのである。
はにかむ子や、手を振り返してくれる子がいる。
たまに
「見て!見て! ほら!バイク! 手振ったよ! ほら!!」
とテンションマックスになる子もいる。

子どもの顔がほぐれてきたら、じゃんけんしてみる。
時速100キロくらいで。
けっこうな向かい風である。
慣れればそうでもない。

大人に気づかれた、と思ったらスロットルを戻して一旦車から離れ、
追越車線に出て「バイバ〜イ」とやるのであった。

そんな日もあった。