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コラム:コーヒーと暮らすvol.2 器のこと

コーヒーと暮らす日々には、それを飲むための器が欠かせない。
そして、器によってコーヒーの味も変わる。

ワイングラスだと、ボウルの呼吸空間の大きさで白用と赤用を使い分けたりするが、コーヒーの場合は、飲み口の角度と薄さかな、と思う。
たぶん、コーヒーと一緒に入ってくる空気の感じと相まって味が変わってくるんだと思う。

薄い飲み口で垂直に立っているタイプが好みで、店舗では源右衛門窯のものを使っている。

しかし、味見の時はこれでなくてはならない、というカップがある。

リチャード・ジノリThe Hotel Lineのコーヒーカップ。
伝統的な130ccタイプ。
厚手の飲み口に絶妙なカーブが施され、コーヒーの味だけが口に伝わってくる。

残念ながらリチャード・ジノリの経営破綻でグッチの傘下に入ってからは、取り扱いのモンテ物産との関係も切れてしまい、日本では入手できなくなった。生産が続いているのかもわからない。

このカップは、サラリーマンをやっていた会社の後輩が、退職の記念に贈ってくれたものだ。
大きな仕事をいくつも一緒に乗り越えてきた戦友が与えてくれた武器だ。
そう思うから、味見に集中できるのかもしれない。

10月のスペシャルとして期間限定で焙煎している「ブルンジ」の味見をこれでやっている。

コーヒー豆は、焙煎3日目くらいまでは大きく味が変わる。
初日はまさにジャスミンと青リンゴの酸味が非常に強く感じられた。
こういう強さがある豆は期待できる、との直感どおり、2日目にその酸味は甘味に変わり、酸味は後味の中に後退した。
こういう当たり豆に出会えると嬉しいものだ。

このカップを贈ってくれた後輩は、その後の人生で、かなり大きな困難に見舞われ、しかしそれを乗り越えて自分らしい日々を得たと何年か前に便りをくれた。

生活ってやっぱりちょっと苦いものだから、同じ苦いものを受け止めるコーヒーカップには想いが宿りやすく、それが日々の肌触りや香りの一部になっていくのかもしれない。
そんな気がする。


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